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読書の森

上田駅で死んだ その2

その朝、朝里圭子は人目を忍ぶように誰よりも早くこの駅に着いた。
よそゆきの着物の懐には予め購入した上野行きの切符がしのばせてある。

昭和27年当時、この町から上野へ行く人は滅多に居なかった。かなり長時間の旅になるだけでなく、それだけの旅費を出す余裕は一般の家庭ではなかったのである。

一家で行くならともかく何故たった一人で人目を忍んで出かけなければならなかったのだろう?


圭子の死因は毒物による中毒死だった。
又、おおよその死亡推定時刻は、正確なところはわからないが彼女が駅に着いてから発見される迄の早朝5時頃だと思われる。

終戦後の混乱期とは言え、平和そのもののこの前の警察署にとって、ひっくり返る程の大事件で、詳しい死因調査が出来る布陣などひける筈が無かった。



ともあれ、参考人として、夫の昭雄と娘の希子が呼ばれた。
昭雄が蒼白な顔色をしていたのと対照的に、希子はかなり興奮して紅潮した頬がかえって痛々しく見えた。
母を失った現実を彼女はしっかりと把握出来てないかと思われた。


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