かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 208

2024-02-23 09:51:46 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究 25(15年3月) 
   【光る骨格】『寒気氾濫』(1997年)86頁~
    参加者:S・I、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放
    

208 風にやられて万の葉裏を晒せるにだれもレイプと言ってはくれぬ

   (レポート)
 風に吹かれる樹木がいっせいに葉裏をさらされる状態を樹の側からこんなふううに呟いてみた。言葉を持たない木のためにと言うのではなく、木に会えばおのずから対象と一つになる作者。(慧子)

                          
  (当日意見)
★私はすごく単純に考えて、木の葉の裏って誰も見たくないじゃないですか、そういう
 見たくないものを見せられる、風によって暴力的に晒される、だからレイプという表
 現にしたのかなあ。葉の裏は変に白かったりして美しくない。風が木としての有りよ
 うを変えちゃった。擬人化した言い方なのでちょっとこんがらかりますね。(S・I)
★レイプという語がどうも唐突だと思っていましたが、そういうことですかね。「恨み
 葛の葉」なんって歌もあって、葛の葉は風に飜ると裏が白くて目立つそうです。た
 だ、誰も葉の裏を見たくないというのは言い過ぎじゃない。葉の裏に興味を持つ人も
 一定数いると思います。(鹿取)
★欅なんかの葉の裏って美しいですよ。(慧子)
★まあ、いろいろの考え方がありますから。美しいものを晒させるのもレイプですか
 ね。一斉に晒 させられる訳ですから。(S・I)
★美しいものを晒させられるのがレイプなのか、醜いものを晒させられるのがレイプな
 のか、分からないけど、自分だったら醜いものを晒す方が嫌ですね。何か私が作者の
 意図を見落としているのか、どうもレイプというのがよく分からないです。(鹿取)


    (後日意見)
恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉
人形浄瑠璃や歌舞伎などで、通称「葛の葉」として知られる話に出てくる歌。狐が恩返しの為、人間の妻になって一子を儲けるが、正体が分かって去っていく時にこの歌を残す。「葛の葉」は狐の名前と植物名の掛詞。(鹿取)


       (後日意見) 
 作者が女性だったら、絶対にこのようなかたちで「レイプ」という言葉は使わないと思いました。「言ってはくれぬ」とも。「風にやられ」たあと、もう元には戻らない。大きな傷が残り、世の中、人生が変わってしまう。「風にやられ」たことを、必死で隠そうとする。平然と、何事もなかったように装おうとする。私だったらそうだと思う。だから、こんなかたちで、この言葉を使ってほしくないというのが、正直な感想です。(T・H)


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