活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

太田久画伯の『救世主』

2012-07-21 17:37:34 | 活版印刷のふるさと紀行

 

梅雨明け宣言が出た酷暑の翌々日が半袖では涼しすぎる陽気になるとは。九州をはじめ各地で出水騒ぎが起きているし、いったい日本は気象まで狂ってしまったのでしょうか。

 その涼しい日、足を向けたのは銀座教会の『キリスト教美術展2012』でした。太田 久画伯の出品作に対面するためで、私は彼の作品のファンのひとり。腱鞘炎のため、今年は新制作展への出品がないと聞いているのでうれしいチャンスです。

 出品作は「救世主」と題する17,9×13.9cmの小品と「レクエイム・2012」と題する162×130cmの2点。私は観光旅行やカレンダーの 題材さがしで数だけは宗教画を観て来たつもりですが、実際のところはまったく無知です。

 たとえばミケランジェロの「最後の審判」やレオナルド・ダ・ヴィンチの「主の晩餐」のような大作にひきこまれるのも悪くありませんが、あまり物語性が強いなまなましいものより、イスタンブールのアヤ・ソフィア寺院の聖人像や聖母子像の方が好きです。以前にギリシャの世界遺産メテオラの教会内で見た素朴なイエス像のイコンなどにも惹かれました。

 前に太田久画伯がルネッサンス以前のキリスト教の聖画を現代風に表現したいといっておられたと記憶しますが、まさしく今日の2点もシンプルで生々しさを消し去った秀作と見ました。ホッとする画面です。まさに私にとって「レエクレイム、安息よ」のひとときでした。この美術展は7月29日(日)までで23日は休館日です。

 

 

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海の日に東京港をひとめぐり

2012-07-17 12:32:36 | 活版印刷のふるさと紀行

 東京ゲートブリッジのところでたいていの東京港遊覧船は引き返すことになっているらしいのです。私たちの乗っている水上ボート“海舟”もそうでした。このゲートブリッジが開通したのは、今年、2012年2月でした。何度かクルマで通ったことはありますが、こうして海から対面するのははじめて。想像通りちょっとしたもの。本日見た最高の景色でした。ゲートの長さ2,618m、海面から道路までの高さは54、6メートルと聞くとかなりのはずですが、新参者のくせに意外に胸をはって東京港の風景にとけこんでいます。

 「海の日」、たまには身近でもめったにつきあいのない東京港を見てやろうと出かけたのですが、目に飛び込んでくるのはコンテナふ頭と赤いキリンのニックネームを持つ荷役機械ガントリークレーンの行列ばかり。だから、ゲートブリッジと羽田空港に降りる航空機の遠景が救いでした。それと、舷側のすぐ下で波を縫って飛ぶ小魚(あじ?)の多さが意外でした。

 “海舟”のコースは青海客船ターミナルを出て、レインボーブリッジ、大井ふ頭、羽田空港D滑走路、東京ディズニーリゾート沖、東京ゲートブリッジ、お台場海浜公園でした。

 たしかに、年間6,000隻を超える外国船が入る国際貿易港であることやコンテナふ頭の多さから東京港が物流拠点であることはわかりますが、もうちょっと詩情を期待していました。でも無理でした。やっぱり、夜の方でしょうか。夜景と納涼を売り物に日の出桟橋から出る御座船安宅丸を見かけましたが、安宅丸の飲み放題つきの料理コースはちょっと魅力です。

 しかし、私の個人的体験や趣味からいわせていただくと大田区の城南島海浜公園で海の景色と羽田空港へ着陸する航空機の巨大な翼やおなかを仰ぎ見た日の方が東京港が身近かで楽しかったと思います。

 船をおりると、お台場海浜公園の砂浜でペーパーランプにろうそくの灯をともして地上絵を楽しむ「海の灯まつり」の準備が始まっておりました。写真の左の船は安宅丸。右はご厄介になった“海舟”

 

 

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美女が弾くバンドゥーラ

2012-07-11 10:14:10 | 活版印刷のふるさと紀行

 演奏を聴く前にきょうのバンドゥーラ奏者 カテリーナが調律しているところを垣間見てしまったのです。このウクライナの伝統民族楽器が意外に大きいのにビックリ。あとから彼女に聞いたところによりますと、重量は8キロ、弦の数が62本?とか。美女がかるがるとバンドゥーラをかかえて演奏するイメージを描いていたのですが間違っておりました。

 バンドゥーラはちょっと見、天正少年使節がヨーロッパから持ち帰ったというリュートに似ていました。弦の多さからいってもリュートにハープを組み合わせた感じだなと思ったのでしたが、当たらずといえども遠からず、さわやかで深みのある音色でした。

 さて、カテリーナ嬢は1986年、ウクライナのプリピャーチ生まれで10歳のとき、民族音楽団「チェルボナカリーナ」の日本公演で初来日、その後、バンドゥーラの演奏技術はもちろん、音楽理論や声楽の本格的教育を受け、2008年再来日、以来、日本で数少ないバンドゥーリストの一人としてツアーやライブで大活躍中です。

 きょうはウクライナ民謡を数曲弾きながら歌い、「上を向いて歩こう」など日本の歌曲もきかせてくれました。梅雨の蒸し暑さを一掃してくれるような心地よい演奏でした。ウクライナといえば、東ヨーロッパの国、東がロシア、西がハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、モルドバ、北がベラルーシ、南が黒海を越えてトルコ、首都のキエフはテレビでもときどき紹介されています。

 休憩時間にとなりの家人と「そういえば相撲の大鵬親方の父上がウクライナ人だったのでは」とか、「チェルノブイリはウクライナではなかったか」などと話し合ったのですが、からきし、知識がないのが残念でした。しかし、カテリーナのバンドゥーラの響きと美声と美貌でぜひ、行ってみたい国になりました。

 

 

 

 

 

 

 

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造本装幀コンクールで

2012-07-10 11:43:34 | 活版印刷のふるさと紀行

 このコンクールで審査委員長をつとめておられた児玉 清さんが亡くなられたのが昨年の5月でした。審査委員長というよりも本が大好き、こよなく読書を愛しておられた読者代表でもある児玉さんのいらっしゃらない造本装丁コンクールはなんだかさみしい気がします。

 ところで今年の三賞は文部大臣賞が『蒸気機関車讃歌 白い息遣い』雪原の中を迫ってくるD51の黒い巨体それにかぶせて簡潔なタイポグラフィの書名、妙に惹きつけられる装丁でした。本文のレイアウトも美しい。著者は山岸起一郎、版元は(株)クレオ、装幀は加藤勝也、印刷・製本は凸版印刷。 経済産業大臣賞は『透明人間→←再出発』これはまさに造本装幀コンクール向きの造本、審査員の先生方も兜を脱いだのでは。詩:谷 郁夫・写真:青山裕企 版元はミシマ社で装幀は斉藤文平、鈴木千佳子、印刷(株)サンエムカラー製本印刷設計(株)。東京都知事賞は『フィジカル・グラフィティ・ツアーせつだん81面相』これも異色、実験的造本といえます。版元牛若丸、装幀は松田行正、印刷は三永印刷(株)、製本は小高製本。

 個人的な感想としては奇を衒った造本装幀が高位入賞する傾向はどうかと思います。おそらく児玉さんが加わっていたらひとことあったでありましょう。美しい造本、格調高い装幀、優れた印刷、高度な製本技術でいつまでも残る造本装幀遺産選びのような審査であってほしいのです。

 我田引水と思われそうですが、私が選んだ一冊は日本書籍出版協会理事長賞の『明解活字の美しさ』、明朝体活字の美しさを追求した矢作勝美著、版元は(株)創元社、装幀は濱崎実幸、印刷・製本図書印刷。表紙や函の箔の使い方から花布やスピンの扱いまで神経が行き届いていて高潔なオーソドックスさがいいと思うのです。

 

 

 

 

 

 

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楽しかったコドモノクニ展覧会2

2012-07-09 09:49:34 | 活版印刷のふるさと紀行

 多摩美大美術館の展覧会では古い話ではあっても「そうだったのか」と新しいことを知ることがあってなんだか得をした気分になりました。その最たることは日本が戦争へ、戦争へと傾斜している時代に、こんなに子どものために真剣に絵雑誌作りに取り組んでいた人たちがいてくれたのかという畏敬の念を覚えたことです。

 発行の代表者の鷹見久太郎(思水)さんはもとより、座談会のレクチュアーで名前が挙がった人に当時、東京女高師の幼児教育に携わっていた倉橋惣三さんや前出の多くの画家や詩人のエピソードには耳を傾けることがたくさんありました。また、ここにお見せするのは野口雨情の「兎のダンス」の草稿ですが、雨情に限ってもコドモノクニで発表した詩がこの「兎のダンス」始め、「あの町、この町」、「雨降りお月さん」など今に残る有名な童謡になったことも初めて知りました。

 意外だったのは、やはりレクチュアーで鷹見本雄さんが話されたコドモノクニの画料や原稿料が当時としては破格で、稿料を手にしたとき足が震えた作家がいたという話、それと、会場で東山新吉の童画を発見したことです。ここにお見せするのは1934年に描かれた「ロンドン動物園」で26歳のときの東山魁夷作品です。ここで思い出したのは以前、といっても30年ほど前には「童画会」というような団体があって毎年数多くの優秀作品が発表されていました。あれはどうなったのでしょう。いまは、コミックが優位ですが、もっとコドモノクニ的なイラストがでてきてもよいのではないでしょうか。2歳から7歳児が対象とありましたが、当時の子どもにとってコドモノクニの存在はしあわせでした。

 

 

 

 

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楽しかったコドモノクニ展覧会 1

2012-07-08 13:06:57 | 活版印刷のふるさと紀行

 きのうの大曲塾の研究会は多摩美術大学美術館「絵が歌いだすワンダーランドコドモノクへようこそ」の展覧会見学と座談会の聴講でした。絵が歌いだすとは、つけもつけたり、すばらしいキャッチで、塾員一同、実に半日楽しい時間を持たせてもらいました。

 『コドモノクニ』は1922年(大正11)1月から日本の敗色が濃くなる1944年(昭和19)3月まで約3年間に287冊が発行された月刊の子ども向き絵雑誌です。“子どもたちに本物を、芸術性高いものを”というコンセプトのもとに当時の若い画家、詩人、音楽家、文学者が真剣に作品を創り、寄せています。ここに主だった人の名前をあげますと、画家では武井武雄、岡本帰一、清水良雄、初山滋、深沢省三、川上四郎、竹下夢二、村山知義ら、詩人では野口雨情、北原白秋、西条八十作曲家の中山晋平とそうそうたる顔ぶれでした。

 会場にはコドモノクニの雑誌現物多数をはじめ、寄稿画家の原画(コドモノクニだけではない)や発行元の代表である東京社の創業者鷹見久太郎や協力者の窪田空穂、あるいは野口雨情などの書簡など思わず立ち尽くしてしまう展示物でいっぱいでした。とにかく、大正から昭和にかけて日本にこんなに芸術の香り高い子ども向きの雑誌があったかと驚かされるはずです。百聞は一見に如かず、ぜひあなたも会場に足を運ばれることをおすすめします。会期は9月2日までです。

 座談会は最初に元学芸員の仙仁 司さんのコドモノクニのエディトリアルの背景、鷹見久太郎の孫、鷹見本雄さんの久太郎論、野口雨情の子息野口存彌さんの久太郎と雨情の交わりについてのレクチャーがあり、その後質疑を交えて、コドモノクニ制作の裏話が飛び出す楽しいもので、その雰囲気はあとのパーティまで続いていました。

 ただ、唯一不満だったのは、このすぐれた絵雑誌がオフセット5色刷りで印刷会社は秀英舎(大日本印刷)であることはわかりましたが、会場でそれ以上精査できなかったことでした。いまのところ手元の資料ではわかりませんので後日、調べることにします。なお、写真はコドモノクニ創刊号で武井武雄の表紙画です。




 




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電子ブックリーダーの時代は来るか

2012-07-07 08:11:28 | 活版印刷のふるさと紀行

 今年の東京国際ブックフェアでやたら目についたのが、Koboと楽天のロゴの入った袋をかかえた人たち。そこでDNPと凸版のブースの次に馳せ参じることにしました。驚いたのは写真で見られるように展示されている新しい電子ブックリーダー《KoboTouch》の実機を手に手に性能を確かめている人たちの多さと熱心さ。

 さっそく美人のマドモアゼルのうしろに並んだが、そうそう簡単には順番は回ってこない。なんでもKobo本家のカナダはもちろん、アメリカやフランス、イギリス、ニュージーランドなど欧米諸国では一昨年から販売され、既に900万人の利用者がいるそうです。そのKoboが日本ではいよいよ楽天が今月中旬、発売を開始するというので力が入っていることに納得しました。

 私の感想、まず小さい。114㎜×165mm。それに厚さ10mmで185グラム。携帯に便利な点が気に入りました。その点、いま使っているipad2はちょっと大きいし、重いので、持って出ようか、置いて行こうかためらうことがよくあります。

 それと、アルファベットと違って日本文字の場合、ディスプレー画面が小さいのが可読性を損なうことがあります。少なくとも目の弱い人にとっては大きな文字サイズを選ぶとコマギレ状態で読まねばならないので文学作品などは頭に入りにくい難があります。私の場合は重いのを我慢すればipadかとも思いました。

 しかし、タッチパネルで操作はスムーズにできるし、無料でダウンロードできるタイトルも多いし、電池も長持ちしそうですし、「通勤用リーダー」としては最適でしょう。ただし、アマゾンのキンドルやソニーのリーダーとの比較検討もしなくてはなりません。値段では7980円というKoboがいちばん安すそうですが。

 本当のことをいうと、私の最大関心事は果たして日本で電子ブックリーダの時代が来るだろうかということです。そんなに簡単に「読書革命」ができるでしょうか。私はまだまだ、ノンだと思います。その理由の第一は日本のフォント、漢字、カナ、カタカナそれにアルファベットや数字の混在する日本文は欧米諸国と同じにいくでしょうか。まだまだ、紙です。印刷です。

 

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紙の本と同じ本の電子本を同時に出す話

2012-07-06 12:43:24 | 活版印刷のふるさと紀行

 今年も東京国際ブックフェア電子出版EXPOが東京ビックサイトではじまりました。梅雨といっても幸い東京は雨抜き、蒸し暑さだけなので2日間見て回りました。1日8000歩、2日で1万6千歩、その中から2.3ご報告することにしましょう。

毎日、会場ではたくさんのセミナーが開かれていますが、出展企業のメインステージでの公開セミナーにもなかなかおもしろいものがありました。『ジョブスの本、ここだけの話』、講談社が『スティーブ・ジョブス』を紙の本と電子版と同時発売をして話題になりましたが、そのウラ話を凸版印刷のブースで聞いたのです。

写真の左側が講談社の学芸図書出版の青木 肇さん、右側がデジタルコンテンツ営業部の廣瀬良周さん、つまり紙の本を手がけた青木さんと電子版を手がけた廣瀬さんのかけあいの形で進行したのです。この企画は一昨年のフランクフルトのブックフェアでの版権取得交渉に端を発したそうですが、その交渉には莫大なお金が伴うわけで、それにOKを出した野間社長の英断を讃え、、幸い現在で、紙の方は100万部を超え、電子版も5万部を超える好売れ行きと胸を張っておられました。「同時刊行、おめでとう」です。

ただ、紙の本の方が校了にならないと電子版は動き出せないわけですから同時発売はかなり大変なことはよくわかります。まして、この『スティーブ・ジョブス』の場合、たしか世界32ヶ国同時発売という足かせもあったわけですからより大変だったろうと思います。

それにしても、あの名にしおうアップルコンピュタの総帥でアイフォーンやアイパッドの生みの親のスティーブさんが昨年10月に56才という若さで逝かれたのも売れ行きに大きな影響があったのではないでしょうか。

それよりも紙の本と電子版の同時出版はこれから当たり前になるはずです。出版社の編集担当者もハードを受け持つ印刷会社もそれにどのように対応するのか、むずかしい局面に双方がぶつかることになりそうです。ここだけの話、先行きを知りたいものです。

 

 

 

 

 

 

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