活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

紅葉の季節に友を送る

2012-11-30 13:38:05 | 活版印刷のふるさと紀行

 また、ひとり、肺がんが親友を奪って行ってしまった。霜月の終わり、家族葬の会場の外はモミジが燃えていました。

 翌朝、彼がほとんどの生涯を捧げたといっていい新聞の朝刊に訃報を見つけました。7行でした。おそらく勤務中に彼が書いた記事は何万行にも及んだでしょうが、その彼の訃報がたった7行か、友人としてやりきれがれない思いがしたものです。

 豪快でいて繊細さのある男でした。飲んで談じて、談じて飲む、酔うと多弁でした。学生時代からいろいろな場面で一緒でした。芝居も展覧会も音楽会も彼とツルンダ日々が彼の死でストンと私の記憶の中からこぼれ落ちていってしまった感じです。

 学生時代、彼と共に通った大学図書館は玄関から大階段を上がるところに「明暗」と題する直径4,5メートルの和紙に横山大観と下村観山が描いた日本画が象徴でした。記憶に間違いがなければ、雲間から昇る太陽は観山、雲は大観によるということでした。

 「こうして、階段を上っていくだろう。そうするとだんだん雲が切れて。雲海から日輪が拝める。つまり、図書館通いによってわれわれの頭も開けるというわけさ」彼の真面目な解説が思いだされます。そういえば、今は、図書館もあの建物ではなくなってしまいました。

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

八丈島で焼酎に出会う

2012-11-28 10:10:36 | 活版印刷のふるさと紀行

 「これは幻の島焼酎ですよ。いけますよ」と薦められたのが「黄八丈」という銘柄。麦焼酎で3年古酒とありました。飲み口がやわらかく、心もち甘い。「女性にも人気です」には納得。

 幻は味にもあるでしょうが、蔵元が後継者がいなくて廃業、いまは手元に残っている分を売っているだけなので在庫が底をつく寸前、なるほど、存在自体が幻になる日が近いと薦めた人は憂い顔でした。

 考えてみると私の焼酎とのつきあいもかなり長くなりました。学生時代、編集者時代、新宿でつきあったのは強烈な臭いがする芋焼酎でコップ2,3杯で不覚にもダウン、翌朝は寝具にまで臭いが移り、頭がガンガンしたものでした。あのころは銘柄など飲み屋さん任せ、ひょっとしてノー・ブランドだったのではないでしょうか。

 そしてビール・日本酒・ウィスキー・ワインと腕を上げ、ふたたび焼酎とめぐりあったのは数年前、痛風予備軍になってドクターから「焼酎なら」とお墨付きをもらってのことでした。

 ひさしぶりの焼酎はまったく昔とは別物。以来、昵懇の仲になりました。芋なら宮崎の「赤霧島」、麦なら壱岐の「壱岐」と決め、深いおつきあいです。

 いかに気に入ろうとも幻ではつきあいを深めるわけにはいかず残念です。帰り道、「黄八丈」の700ml瓶を後生大事に抱えて来たのはもちろんです。八丈は焼酎の島でした。プラス、空港のレストランで食べた「島ピザ」唐辛子がピリッと効いて旨かったこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

本木昌造の八丈島

2012-11-26 14:23:37 | 活版印刷のふるさと紀行

 連休に八丈島に行って来ました。

 こう書くと、空港やホテルの土産物コーナーにそっくりそのまま「八丈島に行って来ました」というタイトルのクッキーだったか、サブレだったか、きれいなパッケージが積み上げられていた光景を思いだして思わず笑ってしまいました。

 なんの物音もしないホテルの窓いっぱいに広がる太平洋に相乗りの釣り船が魚群を求めてグルグル回っているのをじっと見ているのは悪くありませんでした。

 島が東京都八丈町で、富士箱根伊豆国立公園のひとつとは知っていても、こんなに心休まるところとは。羽田から実飛行時間は40分あるかないか、これで飛行機代がもっと安ければ何度も来たくなるというのが実感。往復で2万5、540円です。

 ところで、八丈島は本木昌造がヴィクトリア号船長の頃、漂流の挙句、幕府からの迎えの船を待つ間50人をこえる乗組員と滞在した島で、印刷史とも無縁ではありません。時代は元治から慶応に変るころ、島には流人が300人もいたといいます。

 もっとも船長本木昌造も機関士として乗組んでいた平野富二もまだ、「印刷」には直接かかわりがなかったときの話です。

 しかし、本木はここで島の女性とねんごろになって、こどもを授かっています。平野にはいっさい女性との話はなかったようです。八丈というと流人頭だった近藤富蔵のかずかずのエピソードが知られていますが、本木と近藤富蔵とのかかわりなどが残っていると面白いと思いましたがだめでした。ただ、ひねもす、海や八丈富士とむかいあって島焼酎をチビリチビリとやるのは至福の時間ではないでしょうか。

 

 

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「猿投」って読めますか

2012-11-19 13:43:11 | 活版印刷のふるさと紀行

 ハイ、「さなげ」が正解です。

 唐突になんだと思われそうですが11月17日の日経夕刊「文学周遊」の、芝木好子「青磁砧(きぬた)愛知・猿投に目が留まったのがきっかけだと思ってください。

 猿投神社、名鉄猿投駅、名鉄平戸橋駅、編集委員の岩田三代さんの書かれた紀行文のあちこちに踊っている地名活字に懐かしさが込み上げてきたからです。

 猿投は父の生地で、私の戦争末期の疎開先でした。毎朝、通学で猿投駅に向かう道に猿投神社の「一の鳥居」があり、きまって山鳩が鳴いていました。朝は猿投山を背に、夕方下校時は猿投山に向かって4キロ歩きました。

 猿投山は標高600mちょっと、稜線がなだらかでやさしい山でした。戦争中に登ったら、米軍機が電波妨害のために落とした銀箔テープが木の枝にひっかかっていて、友人と取りっこをしました。菊の花弁の文様を散りばめたような花崗岩「菊石」が名物で、地酒の名称になっていました。「猿投山は降下訓練の目標」と話してくれたのは近くの伊保原海軍航空隊の予備学生だったと覚えています。

 平戸橋はダムの近くで桜の名所です。名古屋や岡崎からのバスのターミナルがありました。上流のダムでボートを漕いだのは戦争が終わってからでした。 芝木さんの作品は未読ですが、平戸橋で加藤陶九郎さんを見かけたことも思いだしましたし、陶土を瀬戸に運ぶ牛車や山裾でまわっていたいた砕土用の水車も知っています。

 先日、大阪への途中、新幹線の窓から猿投山を探しましたが、曇っていたために見落としてしまいました。

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手に取って見る美しい本2

2012-11-18 11:40:23 | 活版印刷のふるさと紀行

 世界のブックデザインのつづきです。8ヵ国の出展作品はさまざまで面白かったのですが、しいて私が気にいった1冊をあげるとするとこれです。「カナダの優れたブックデザイン、アルクイン・ソサエティ賞2011」は今回で30回目で、252点の応募作から35点選ばれたなかの1点です。

 Wellinton's Rainy Day カナダからの出展作品です。カチッとした上製本で愉快で美しいイラストが秀逸の絵本でした。最近は日本でもユニークな絵本がたくさん出版されていますが、難をいうと製本が弱々しいのが多すぎです。こうした絵本ですと、親が幼児といっしょにページを繰りながら想像の翼をひろげる楽しみが膨らみそうですし、やがてその児が成長してこの本と親しみ終わったあとも書架の一隅を占めさせておけるりっぱな絵本と見ました。

 何をいいたいかといいますと、絵本の場合こそ、「電子本」だけだとあまりにも寂しいのではないでしょうか。その本が視界に入るたびに、紙の上に印刷された世界を思い描いた幼児体験私1人だけではないと思います。たとえ印刷本も電子本と同じようにこどもにとってヴァーチャル世界であっても、臨場感、実在感の重みが違うと思うのです。

 それはそれとして、台湾の出品作には装幀に凝ったものがたくさんありました。母体になったコンクールの傾向次第ですが、日本の造本装丁コンクールでも一時期、奇抜なものが入選する時期がありました。それを過ぎると、前回のドイツの「キリンの首」のようなオーソドックスな本作りが認められるようになるのでしょうか。下の写真はカナダの出品作について話すカナダ大使館の書記官です。

 

 

 

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手に取って見る美しい本1

2012-11-17 15:59:10 | 活版印刷のふるさと紀行

印刷博物館のP&Pギャラリーで始まった(2012年11月17日(土)~2013年2月24日日)のWorld Book Designを観て来ました。昨年までは毎年3月にドイツのライプツィヒ・ブックフェアの『世界で最も美しい本コンクール』の入賞作品が幅をきかせておりましたが、今年はドイツ、日本はもとより、オランダ、スイス、オーストリア、カナダ、中国、台湾と8ヵ国のコンクールの入賞作品で構成され、なかなか圧巻でした。

私がこの展覧会で気に入っているのは、1冊、1冊、手にとって見られることです。もっとも凝りに凝った製本で手に取るとばらけそうな本もあって怖かったのですが。

おもしろかったのは東京ドイツ文化センターのコンクール担当の女性の方の話で、「今年からコンクールの審査方法を変え、装幀と製本の技術を育成するためにかなり、造本にウェイトをおいた審査を行うようになった」という紹介で、電子ブック時代に60年美しい本を選び続けてきた国らしいと思いました。

彼女がいちばん推薦したドイツでのコンクール入賞作品は「キリンの首」というベルリンの壁崩壊前後のドイツを舞台にした小説Der Hals der Giraffeで、著者がグラフィックデザイナーで装丁はもちろん、本文レイアウトもイラスト処理も全部自分の手で処理していて作品内容と渾然一体すばらしい美しい本に仕上がっているという評価でした。私はトラディショナルというか比較的地味で落ち着いた雰囲気とは思いましたが、さほど感心はしませんでした。みなさんが会場で手に取られてどんな感想をいだかれるかうかがいたいものです。

 

 

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

もっと小・中学生に知ってほしい「印刷の歩み」

2012-11-15 12:27:14 | 活版印刷のふるさと紀行

 前回、「百万塔陀羅尼」の中でモリサワコレクションについて触れました。モリサワについてはインターネットで検索していただくことにして、以前は写植機メーカーだった同社が、いまや文字の電子化で情報デジタル化での先端を走っている企業と申し上げておきます。

 東京には印刷博物館をはじめミズノプリンテイングのコレクションなど、印刷の歴史や技術の進歩を展示を通じて辿ることができるミュージアムが知られており、小中学生の学習にも利用されております。ところが関西圏には比較的にそういう施設が少ないようです。

 「ウチのコレクションが意外に洋の東西の「印刷」の歩みがよくわかるといっていただいて」会長の森澤嘉昭さんによると児童・生徒の見学が多いそうです。モリサワコレクションのコーナーの中に日本と海外にわけて印刷の歴史が手短にわかる展示があります。おそらく蒐集にかなりの費用を要したでしょうが、会長の文字表現に関する情熱のあらわれと敬服した次第です。

 ちなみにモリサワコレクションは大阪の市営地下鉄御堂筋線「大国町」から徒歩数分の便利なところにあります。写真は東西の印刷の歩みの展示コーナーです。

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

百万塔陀羅尼の謎

2012-11-14 16:30:17 | 活版印刷のふるさと紀行

 「ひゃくまんとうだらに」、まさか百万回には及びもつきませんが、私自身、過去に1万回は「百万塔陀羅尼」を口にして来たはずです。いや、百万塔陀羅尼にご厄介になって来たといってもよいと思います。

 なぜか、それは日本の印刷の歴史を語るとき、この世界最古の印刷物としての百万塔陀羅尼を抜きにできませんし、印刷会社の広報マンという職掌柄、日本の印刷の歴史のアタマでどうしてもおつきあいしなくてはならない対象でした。

 さて、この写真の百万塔は11月7日に大阪のモリサワ本社のコレクションで撮影させてもらいました。いまさら、解説は不要でしょうが、百万塔陀羅尼は陀羅尼経を印刷した100万巻の紙(写真下部)を100万の小さな塔に収めて、法隆寺、東大寺、西大寺、興福寺、薬師寺など10寺に奉納したものです。 この百万塔もその100万基のうちの一つで、おそらく法隆寺に収められいたものでありましょう。白い塗料が剥げ落ちていますが、どこにあったのでしょう。

 百万塔陀羅尼には謎がたくさんあります。木版で印刷したのか、金属に文字を鋳造して印刷したものなのかも断定されていません。また、この膨大な印刷物が764年(天平宝字8)から794年(宝亀元)にかけてどこで、どのようにして印刷されたかも解明されていません

 それと藤原仲麻呂の乱で戦死した将兵の鎮魂のために称徳天皇が造らせたといいますが、日本の歴史上数少ない女帝で1代前の孝謙天皇と同一人であられたこともなんとなく謎めいていてここにも謎や古代のロマンが隠されていそうです。

 

 

 

 

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする