ビタミンジョージの死ぬための生き方

ふるさとを捨てて、もう戻らないと決めたあの日。男は全てを失い戻って来た。そして、また歩き出す。

いつか落ちていく

2024-04-08 19:59:00 | 日記


誰だって人生の全盛期はあるはずだけど、人はいつか必ず落ちていく。



それは有名人なら人気が落ちることかも知れないし、美しい女性ならモテなくなることかも知れないし、大金持ちなら貧乏になることが人生の転落と言えるかも知れない。


落ちる、転落、と書くから印象が悪い方になってしまうかも知れないが、良い時期が長くは続かないと書くと、生きてる生物には絶対に避けることが出来ない自然の摂理だとも言える。


そう考えると、金持ちは年月と共にお金が増え続けることもあるから、金に関しては必ず落ちるとは言えないかな。しかし、お金が増えてもお金を持ってる人間は必ず老いて衰えていく。



俺は意地が悪いのか、絶頂期の人が落ちていくのを見ると、その人に優しくしたくなる。


「ざまぁ見ろ!」などとは、よっぽど嫌な奴じゃない限りは思わない。



「ようこそ!我が世界へ!」



こんな気持ちだ。勝手に俺と同じ底辺の世界に落ちてきたと思ってしまうのも意地が悪いかな。でも、落ちた時の気持ちはものすごく分かるので、



「大丈夫、あなたは何も落ちてない。周りが変わっただけだ」



こんな言葉も言ってあげたい。



俺が綺麗で若い女性なら、小さな時からモテモテで、周りは優しく接してくれるだろうな。



もし俺が綺麗な女性として生まれてたら……


(ここからフィクション、くどい文章が続きます)




私の名前は「未来」(みく)、高校3年生の時にTikTokに何気なく投稿した、



「ボケてるおじいちゃんにオレオレ詐欺のドッキリしてみた!」



動画がバズりにバズって、芸能事務所にスカウトされた。


私は小さな時からモテモテで、月平均10人は告白される人生だったから芸能にも興味があったし、声をかけてくれた事務所にお世話になることにした。


孫兵おじいちゃんも賛成してくれると思ってたのに、孫兵おじいちゃんは事務所に入ることに大反対。でも、私じゃなくて象印の電気ポットに向かって必死に話しかけて説得してたから、反対してるのもただボケてるだけなのかも?



「金むしりスタープロモーション」という、今はまだ小さな事務所にお世話になることにした。



事務所の社長は「腹黒としぞう」社長



昔は「ヤリステキッズ」というアイドルグループに所属してたみたいだけど、今は引退して若者の夢を応援する事に全力投球みたい。昔のニックネームは「トッシー」なんだって。


普通は雇用契約書にサインすると思うんだけど、トッシー曰く「若者の自由を奪いたくない!」との事で、寮の手配やガスや水道の契約のために印鑑だけ渡すことにした。


とにかく私にはSNSで発信することだけに集中してくれと言われた。


だから私は、最初にバズった「ボケてるおじいちゃん」との動画をシリーズ化することにした。



「ボケてるおじいちゃんを限界集落に置き去りにしてみた!」



「ボケてるおじいちゃんを山登りに行くと誘って、本当は富士急ハイランドのFUJIYAMAに乗せてみた!」



「ボケてるおじいちゃんに初恋の人の墓参りツアーをプレゼントしてみた!」



これも大バズリ!


TikTokとYouTubeの登録者も5万人を突破!



今も忘れない。初めてYouTubeでスパチャをしてくれたのは、真心たろうさんだ。千円だったけど、初めて「スパチャありがとうございます!」が言えた日だった。


そして、しばらくしたら、なんとYouTube登録者15万人の有名人からコラボ依頼が来た!チャネル名は、



「ボンレスハム男の世界を縛って行く!」



私も昔から見てたチャネルだったから、喜んでコラボを受けた。ハム男さんは本当に優しくて、コラボは大成功!私のチャネルの登録者数が10万人を突破!


本当にボンレスハム男さんのおかげだ。「ボンボン!レスレス!YouTube!」の最初の挨拶の声は今も心に刻み込まれてる。


登録者が30万人を超えた辺りから、有名人からもDMが届くようになる。有名YouTuberや有名TikToker、サッカー選手や格闘家、さらには中東の王族からも第三夫人にならないか?とのDMも来た。



私は昔からモテて来たから、簡単には誘いには乗らないよ。



それに、今はもっと有名になりたい夢もある。



毎日投稿を続け、ライブ配信を毎日1時間は続ける日々を過ごした。そして、



20歳の誕生日に、ついにYouTubeの登録者が100万人突破!



この頃にはライブ配信では1万円超えの高級スパチャが飛びまくってた。真心たろうさんは最初からずっとスパチャしてくれるけど、千円や千円にも満たないスパチャばかりだから、私はついつい名前すら呼ばない時も増えた。


ボンレスハム男さんからのコラボの誘いも再三あったけど、ハム男さんの登録者は今だに16万人…



今の私にはハム男さんとコラボするメリットは何もない。



最初はなんとか理由をつけて断ってたけど、最近では平気でハム男さんからのLINEを既読無視してる。



それより、登録者400万人超えのYouTuberのベテルギウス翔さんからコラボの依頼が来た!ここはさらにジャンプアップのチャンスだ!



このコラボも大成功!



私は22才となり登録者は200万人を超えた。


さらに、コラボを繰り返すうちにベテルギウス翔さんと付き合うことに…


しかし、私にはガチ恋勢が多いから、翔と付き合ってる事は絶対に秘密だ。




私の月収は2000万を超えて、イケメン彼氏もゲットして、まさに人生の絶頂期だ!




事務所も本当に良くしてくれて、私の収入も管理してくれて、いろいろ投資してくれて、それも順調に増えてる。



この幸せがずっと続くと思ってた……でも……



でも、そんな幸せの絶頂期に翔が酔っ払って新宿でスマホを紛失する事件が起きた。そこから私との親密な写真が流失するだけじゃなく、翔が私に隠れてたくさんの女性と浮気してたのが発覚。



私は翔と同棲してたのがフォロワーにバレたので、焦って、すぐさまフォロワーに謝罪。



しかし、ライブ配信での視聴者数は激減…



高額スパチャなど、全く投げられない状態になった。



こんな時でも、真心たろうさんは自分の精一杯のスパチャを投げてくれてる。でも、私はこんな時でも、本当に大事にしなきゃならない人が見えなくて、真心たろうさんを雑に扱ってしまった。


さらに焦った私は、原点回帰として孫兵おじいちゃんをさらに酷使する企画を連発した。



「ボケたおじいちゃんを真冬の六甲山に放置してみた!」



「ボケたおじいちゃんだけで池の水抜いてみた!」



「ボケたおじいちゃんを薬物の売人事務所に突撃させてみた!」



しかし、前と同じような動画を投稿しても、まったくバズらない。どうして?何が違う?



広告収益がまったく入らなくなり、編集者を1人辞めさせ、2人辞めさせ、最後は結局、自分で動画編集をするようになった。



もう、この時には私は25才になっていた。



世間的にはまだまだ若いけど、インフルエンサーとしてはベテランだ。どんどん若くて綺麗な子が参入して来る。



もう潮時だ……事務所の社長トッシーに言って、預けてるお金と投資のお金も返してもらおう。



家に帰ろう。孫兵おじいちゃんとパパとママに会いたい…



でも……トッシーからの説明で、今やっと分かった。私の預けてたお金は全てトッシーのキャバクラ代や高級車代、会社の経費に全て消えていた。



私の渡した印鑑で、私の名義で、私のお金は全てトッシーに使われていたのだ。



私は人気もお金も、そして、私の一番の財産だった若さも失ってしまってた。



若くて綺麗なだけで、見聞を広める努力もせず、人を思いやる心も育てず、何より大事な家族さえ大事にしてなかった。



全て失って、どん底に落ちないと本当に大事なものに気づけないなんて…



でも、こんな私でもパパとママ、孫兵おじいちゃんは「気にせず家に帰ってこい」と優しく言ってくれる。



孫兵おじいちゃんは私の頭を撫でながら、



「おかえり未来。また一緒に動画を撮ろう!」



そんな優しい言葉を言ってくれた。



孫兵おじいちゃんは最初から結末を分かってたのかな?



だから、あんなに事務所に入る事を反対したのかな?



また楽しく、孫兵おじいちゃんと動画を撮ろう。



人気にならなくていい。



みんな、いつかは年老いて落ちていく。



その時に何が大事なのか?



誰といるかが大事だ。



私には、大事な家族がいつもと変わらず側にいてくれる。



もしかしたら、どん底に落ちたと思ってたけど、私の人生は何も落ちてなかったのかも。



今日の企画は特別企画で久しぶりのライブ配信。




「ボケたおじいちゃんの誕生日を家族みんなで祝ってみた!」




食卓にはハム男さんからの差し入れのボンレスハムが使われ、今日も真心たろうさんがスパチャをしてくれる幸せな1日だった。




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