ライブ インテリジェンス アカデミー(LIA)

日本の伝統文化の情報を国内外に配信していくための団体です。 その活動を通じ世界の人々と繋がっていく為の広報サービスです。

銅の特性を生かして造る銅鍋は、叩いて硬くする。【逸品殿堂シリーズ記事追想】

2021-02-12 10:30:01 | 文化想造塾「逸品殿堂」

10年前に取材で訪れた「甲野製作所」。大阪平野区にある、手打ちの家庭用銅製品を製造する家内工場。昨年、コロナ感染が拡大する前に2回目のYoutube取材を申し込んだが、残念ながらコロナ騒動で実現しなかった。

10年後の現在、当時お話を聞いた3代目甲野通弘さんは87歳。電話で聞くと今も、4代目ご子息浩正さんをサポートしながら現役のようである。

古くから和菓子に使われる"餡子(あんこ)"を炊くのに欠かせない道具として銅版の鍋が使われている。いまも家内工業的な和菓子屋さんの奥には必ずといっていいほど大きな銅鍋がある。

銅鍋が使われる一番の理由は、あずき色が出ること。それとあずきのふっくら感が違う、ということ。和菓子屋さんにとって銅鍋は欠かせない道具である。
それと天ぷら屋さん、和食割烹などのプロの料理人の道具必須アイテムとして君臨している。卵焼きは銅鍋に限る、と言われてきた。さらに炊く料理は、水分をほどよく飛ばしながら食材に味をしみこませるのを得意としている。そのレパートリーは肉じゃがや魚の煮付け、煮豆といった和風のものから、ホトフ、カレー、シチューなどがある。さらにフレンチのソースづくりにも最適とされている。

これらの銅鍋を、昔ながらの手打ちで造り続けているのが甲野製作所である。手打ちとは、機械に頼らずに長年培われた技術と勘で仕上げていること。ここ甲野製作所は、3代目の甲野通弘さんと、跡継ぎで4代目になる息子さんの浩正さんのふたり。バブル時までは職人さんが何人かいたのだが、いまは親子二人三脚でがんばっている。

3代目の通弘は、銅鍋づくり60年の大ベテラン。作業は、とにかく叩く。銅版を金床に置いて金槌で叩いて叩いて、また叩く。

なんで叩くのか、というと、銅の分子が詰まり硬く頑丈になっていくから、という。銅鍋は、叩いた跡の槌目が特徴である。ここ甲野製作所のものにはどの部分にも槌目が入っている。だから頑丈なのである。出来上がりのものを手に持ったとき、手にズシリとくる。その存在感は鍋の王様の風格を感じさせる。

 

造る過程は、まず鍋の胴部分の製作、底板の接合、磨き、槌目入れ、柄の接合、スズの塗装といった行程に分かれている。そして銅を火にあぶり軟らかくして焼きいれをする。鍋を造るのには、一枚モノの銅版を押し込んで造るものだと思っていたが、胴回りと底板を接合している。接合部が見えないのは、ここでも叩いているからである。

すべてが手造り。手間をかけて造る。鍋の出来が料理を左右することまで頭に入れて造っている。生産性は低いが、職人の魂が入っている。時代遅れかも知れないが、本物である。たかが鍋、されど鍋。すばらしい逸品に出会った。

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ネコ好きの宝箱、「夙川ネコ... | トップ | 柴門草舎絶風塵 世俗を絶っ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

文化想造塾「逸品殿堂」」カテゴリの最新記事