ゆるゆるらいふ

とりあえず、今日も一日機嫌よく・・・

【観劇メモ】鴎外の怪談

2014年10月19日 | 演劇

 

流れがとても美しい、と思った。

無駄がないと言おうか、発せられる言葉がすべて必要だった、と言おうか・・・。

明治の文豪、森鴎外が大逆事件にどうかかわったか、という内容のこの舞台。
人の尊厳や命、国家のあり方にかかわる重いテーマにもかかわらず、喜劇調にさらっと進んでいく。

最初から最後まで鴎外の部屋の中の会話ですべてが綴られる。

森鴎外を演じるのは金田明夫さん。

この時点で喜劇の気配が漂う。

鴎外の2度目の若い妻しげには水崎綾女さん。
ぱっちりとした切れ長の目がわがままで気の強くキュートなしげ役にぴったり。

鴎外の母、峰に大方斐紗子さん。
なんともコミカルで出てくるだけでおかしいんだけれど、
エリートの息子を育て上げた自信と誇りがみなぎり、気品が漂う。

文豪としての鴎外は、海外の書物に対する弾圧にひそかに抵抗し、書斎には海外の小説や
国が危険思想とする書物もたくさん所有し、おかしいことはおかしい、ということを冷静に判断している。

が 一方、陸軍軍医総監というトップ官僚としての立場では、
元老山縣有朋と密会をかさね、大逆事件のでっち上げに加担する現実主義の超エリート軍人森林太郎の顔になる。

また、妻や子供たちの前では家族を愛し、嫁と姑のバトルに巻き込まれ、おろおろする家庭人「パッパ」となる。

さらに幸徳秋水らが処刑される出来レースの裁判の行方を知っていながら、
彼らを弁護する「すばる」の編集者でもあり弁護士でもある平出修を励まし、道筋を示したりする。
人道派の誠実な弁護士に内田朝陽さんのルックスはぴったり。

時折現れては好き勝手なことをいい、どんどん遊び人になっていく永井荷風を諭したりもする。

大逆事件の犯人の首謀者の一人とされている紀州の医者の減刑を同郷出身の女中から嘆願され、
優しく励ましたり、なんてことも。

軍医で親友の賀古鶴所(かこつるど)の前では、国の在り方に対する悩みを打ち明ける一人の男になり、
人間らしい姿を垣間見せる。

時には優しく、時にはきびしく冷淡に、時には媚びへつらい・・・。
向かい合う相手によって、ころころと態度を変える鴎外は2枚舌のずるい男のようだけれど、
その都度誠実に接しているんだろうな、という感じが金田さんの表情から伝わる。
一人になったときの鴎外は、過去に捨てたドイツ人のエリスの「裏切り者!」と言う声に苦しみ、
子供のころに見たキリシタン弾圧の悲鳴におびえる。
ありえないほど頭脳明晰で、天は二物も三物も与えたかのような超エリートの人間臭い苦悩がひしひしと伝わってきて
観ている方もく~っと辛くなってくる。

とにかく来客の多い森家において、訪れる人たちとの会話の中から、そこにいない人たちの姿や、見えないはずの景色が浮かんでくる。
一度も姿を現さない山縣有朋の小心さとずるさ・・・
二人の娘のかわいらしさと奔放さ・・・。
紀州の医師の貧民に対する限りない慈悲の心・・・。

自分の中の正義をつらぬこうと、意を決して山縣有朋に直訴しようと立ち上がるも、
親友と命がけの母に止められ結局は・・・。

鴎外が「あんな人生もこんな人生もあったはずなのに」とつぶやくシーンでは、
ああ、鴎外でもこんなこと思うんだ・・・と偉人がちょっと身近な人間に思えたり。

ここに出てくる男たちは、それぞれに、国を憂い、自分に何ができるかを真剣に考え、
悩み苦しんでいる。

今の政治家たちはどうだろう。
ここ数日の情けない退任劇を明治の政治家たちが見たら、どう映るのだろう。
国を預かる人たちが道徳心を持たずに、道徳を教科にしたところで・・・、
私ごときでさえ、あれ?と思う今日この頃。

現実って喜劇のように見ていないとやっていられないのかもしれない。

さて、この日、終演後、アフタートークがあった。
パネラーは脚本・演出の永井愛さん、主演の金田明夫さん、ゲストの宅間孝行さん。
ちょっとラッキー

永井愛さんが鴎外役に金田さんを、と思ったきっかけとなったのは、
なんと宅間孝行さん脚本の深夜ドラマでの遺影の中の金田さんの存在感だったそうだ。
チャンスってどこに転がってるかわからない。

来年、宅間さんの舞台に主演が決まっているという金田さん。
映画化もされた「くちづけ」が再演されるらしい。
話題作だったのに、映画も舞台も観ていないので、絶対に観に行こうと思う。
























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