庭木師は見た!~ガーディナー&フォトグラファー~

庭木師が剪定中に見たあれこれ。

庭木師は見た~キューポラのある街~

2023-12-08 17:28:01 | 日記

             

            (中央の高い煙突の右手が、溶解炉「キューポラ」)

 入院中に知ったことと言いますか、納得したことの一つに病院内で働く皆さんの役割分担があります。当然と言えば当然ですが、それは職場内のランク的意味もあり、働く人の表情にも仕事内容は反映されます。

 病院で一番上が医師、次が看護婦(師)、そして介護士、その下に掃除などを担当する雑役係りがいます。

 入院して数日後、あることに気付きました。

 毎日朝と夕に部屋の掃除に来る70代後半風の男性が、ただ下を向いて黙々とモップをかけるだけで、入院患者らと言葉を交わすことがないということです。与えられた仕事を、淡々とこなしているだけでした。私にはそう見えました。入院患者も掃除担当者も互いに意識の外-といった感じなのです。掃除係りの時給は恐らく、この地区の最低賃金ゾーンでしょう。ですから、時給1,000円あるかないかと思われました。

 筆者は2人相部屋に入院していたのですが、たまたま隣のベッドは空いていたので、部屋を一人で使っていました。その掃除夫はいつも、小生を軽く一瞥するだけで、表情一つ変えず床にモップをかけ、ゴミ入れを部屋の外に出すことを繰り返していました。筆者は、いつも「どうもです」「ご苦労様です」と、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、お礼を伝えていました。

 そんなある日、ベッド横の小テーブルに置いていた読みかけの本『キューポラのある街』(早船ちよ著)を、その男性が目にしたようで、いきなりこう話し掛けてきたのです。本は、休憩室の図書コーナ-にあったものです。

「見ましたか、この映画?」

 思わぬ問いかけに、あいまいな返事をしたら、

「…こういう本があること自体、ここに入院している人の年代層が分かるというものですね。図書コーナーの本は多くが寄贈品なんですよ。…私も、この映画、何度か見ました。この映画の監督は当初、主演が吉永小百合ではミスマッチ、というようなことを言ったらしいが、結果として、彼女の代表作になりました。…人生、不思議ですよね。わかんないですよね」

 -いろいろ思うところがあったのだろう、彼は一方的に話し、そして部屋から出て行こうとしました。掃除のノルマがあり、一部屋にかける時間が限られているのです。ふと、言い忘れたかのように彼は振り返って、「キューポラならこの町にもありますよ。知っていますか? 保存されていて、この病院から15分ほどかな、車で…」と言って、消えました。

 ■冒頭の添付写真は、筆者が退院後、教えられた場所に行って撮ったものです。

 (※高い煙突の右手が、金属を溶解する「キューポラ」です)

                                     以上

 

 

 



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