万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

富裕層の道楽となったグローバル企業

2024年04月23日 14時12分25秒 | 国際経済
 今日の世界情勢を観察しておりますと、人類は、あらゆる面においてグローバリストに翻弄されているように見えます。全世界を裏からコントロールし得るパワーを握るグローバリストの出現については、株式取得を勢力拡大の手段とする‘資本主義’の問題を抜きにしては語れないのですが、グローバリストによる経済支配は、企業の役割を大きく変えつつあります。

 企業の規模が拡大するのには、凡そ二つのタイプの手段があるように思えます。第一の手段は、当該企業が提供する製品やサービスが優れているために、多くの消費者が購入・利用するようになった結果、市場のシェアが拡大し、生産量の増加に伴い企業規模も大きくなるタイプです。自由主義経済において教科書的に説明されているのは、主として同タイプです。この拡大経路にあっては、企業は、できうる限り消費者に選んでもらえるような製品やサービス、すなわち、低価格・高品質を目指して企業努力を惜しまないこととなります。もっとも、発展性を伴う経済成長や多様性を維持するためには、常に競争状態が保たれる必要があるために、一社や数社による独占や寡占は競争法によって禁じられています(無制限な拡大は×)。

 第二の規模の拡大手段は、競争関係にある同業企業が発効している株式の取得です。企業合併やM&Aと称される手段であり、友好的買収であれ、敵対的買収であれ、他者を取り込むことで規模を拡大させることができます。同タイプでは、消費者の志好やニーズ、あるいは、価格や品質等にも関係なく、事業規模が拡大します。つまり、企業の経営戦略が拡大の決定要因なのです。

 もちろん、上記の二つのタイプが結びつくハイブリット型もあります。むしろ、規模の拡大はコスト逓減効果がありますし、製品の品質向上にも有利となりますので、市場における価格競争に勝つために他社を合併しようとするケースも少なくありません。否、産業革命以降、ハイブリット型で事業を拡大した企業が大量消費社会を牽引し、消費者に対して安価で高性能な製品を大量に提供した結果、大企業が出現したとも言えます。しかも、グローバル化のかけ声と共に各国政府ともに自由化の旗印の下で資本市場を含めて自国市場を開放したため、企業規模の拡大は国境を越えて全世界に広がるようにもなったのです。今日、グローバル企業と称される世界市場において事業を展開している企業の大半は、こうしたプロセスを経て今日の地位を築いたとも言えましょう。

 M&Aといった目に見える形での企業統合の他にも、資本提携などの他社をコントロールする手段はあるのですが、何れにしましても、マネー・パワーが、巨大なグローバル企業を生み出す原動力であったことは確かなようです。加えて、巨額の開発資金を要する先端テクノロジーとプラットフォーム構築における‘早い者勝ち’や‘勝者総取り’的な性質が競争法をもかいくぐりかねないデジタル分野では、一部のIT大手による独占や寡占が経済のみならず、ユーザーとなる、あるいは、利用せざるを得なくされた個々人にまでコントロ-ルを及ぼしているのが現状と言えましょう。

 かくして、グローバル化の時代における経済とは、1%の富裕層ともされる極一部の‘株式を握る者’、すなわち、グローバリストとその恩恵に浴する配下の人々にコントロールされる世界となったのですが(現実には、1%ではなく一億分の1以下かもしれない・・・)、ここに、企業経営において一つの大きな変化が生じることとなります。それは、グローバリストのコントロール下に置かれた企業は、もはや消費者のニーズや志好に対して関心を持たない、もしくは、意に介さなくなる、という現象です。

 戦争ビジネスや環境ビジネス等には余念がない一方で(これらの分野では計画化・・・)、実際に、今日のグローバル企業が自らの持てる資源をつぎ込んで熱心に開発を急がされているのは、SFの世界を追い求めるような宇宙旅行や有人宇宙ステーション、あるいは、空飛ぶ車などです。多くの一般消費者が購入・利用できるとは考え難い分野ばかりであり、一部の富裕層向けの製品やサービスに関連する近未来技術開発に集中しているのです。また、より身近な事例に目を向けましても、衰退が懸念される日本国内にあって豪華なホテルが新設あるいは改装されるという報道があったとしても、それは、富裕層向けなのです。あたかも、消費者は、富裕層しか存在しないかのように。その一方で、グローバリストは、自らの‘夢’の実現や道楽に対する投資に加えて、人類支配の手段となる技術開発には投資を惜しみません。監視装置ともなりかねないIoT家電を開発するぐらいならば、むしろ、より利便性が高く、かつ、プライバシーが保護される遮断型の製品を売り出したほうが、よほど一般消費者は安心して購入・利用するのではないでしょうか。

 一般消費者向けに手頃な価格で高品質な製品を提供することで企業規模を拡大させてきた大企業は、今や、上位者となった富裕層に奉仕するための存在と化しているかのようです。この状態では、消費と生産の好循環となる回路は断たれ、成長の原動力が失われることとなりましょう。人々の経済活動はいつの間にか富裕層への奉仕となり、自らを含めた人々の生活を豊かにする方向には向かわないのです。人類史において経済の果たしてきた役割に照らしますと、現状は決して望ましいとは言えず、消費者牽引・主導型への経済への回帰、転換こそ、同問題解決の鍵となるのではないかと思うのです。

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