みけの物語カフェ ブログ版

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1454「臨床試験」

2024-04-16 18:15:27 | ブログ短編

 男は妻(つま)から勧(すす)められたサプリメントを口に入れると言った。「あの薬(くすり)は完成(かんせい)したのか?」
 前に立っていた女がそれに答(こた)えて、「はい、臨床試験(りんしょうしけん)は間(ま)もなく終了(しゅうりょう)の予定(よてい)です」
「そうか…」男は顔(かお)をしかめるとコップの水を口に流(なが)し込んで、「まったく、なんて苦(にが)いサプリだ。こんなのが身体(からだ)にいいとはとても思えんなぁ」
 女はメモを取りながら、「分かりました。善処(ぜんしょ)します」
 男は手を振(ふ)って、「ああ…、こっちの話しだ。気にせんでくれ。私の身体のことを気にかけてくれるのはいいんだが…。妻は、どうも心配性(しんぱいしょう)なんだよ」
 女は気を使ってか、「お優(やさ)しい奥様(おくさま)なんですね。あたしには、とてもそこまで…」
 男は真面目(まじめ)な顔になり、「この薬が完成すれば、この国のいろんな問題(もんだい)が一気(いっき)に片(かた)づくはずだ。そして、私は総理(そうり)への道(みち)を駆(か)け上ることができる。一石二鳥(いっせきにちょう)じゃないか」
 女は肯(うなず)きながら、「確(たし)かに。医療(いりょう)の進歩(しんぽ)で高齢者(こうれいしゃ)が増(ふ)え続(つづ)けていますから…。高齢者を苦(くる)しませずに減(へ)らすことができれば、若者(わかもの)たちへの負担(ふたん)も軽減(けいげん)できるはずです。何て素晴(すば)らしい考えでしょう。こんな仕事(しごと)に携(たずさ)わることができて、あたしはすごく…」
 その時、男は胸(むね)を押(お)さえてデスクにうつ伏(ぶ)せになった。女は駆(か)け寄ると声をかけた。
「苦(くる)しいですか? 答えて下さい。いま、どういう感(かん)じですか? ねぇ答えて!」
 男は顔をあげると、「君(きみ)…。まさか…私に…? つ、妻が命令(めいれい)したのか?」
<つぶやき>こんな薬を使う世界(せかい)って…、どうなんでしょうか。あなたはどう思いますか?
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