温泉クンの旅日記

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陸奥、川渡温泉(1)

2022-04-03 | 温泉エッセイ
  <陸奥、川渡温泉(1) >

「あのォ・・・貸切露天風呂ですけど、何時ごろからのご利用にしますか?」

 

 川渡(かわたび)温泉の宿、「旅館ゆさ」の玄関脇のフロントでチェックイン手続きが済むと、そう訊かれた。
 わたしが予約した宿泊プランには貸切露天風呂がセットされていたのである。三時半の予約が一組だけ入っているという。
 腕時計をみると三時ちょっと前だったので、すぐの利用を申し出る。四十分が利用時間らしいが、なあにわたしには十五分もあれば充分である。
 案内された部屋であっという間に着替えると、フロントで「入浴中」の掛札をもらい、サンダルで外にある露天風呂「瞑想の湯」に向かう。

 

 

 庭の奥にあった板塀の入口に掛札をかけて中に入ると、立派だが手造りのようにも見える温泉小屋があった。

 

 露天風呂からみえる景色の雪はいい具合の量に片づけてあるようだ。
 気温が冷えているので、入念に掛け湯をしてから湯に滑り込む。
 温泉の効用はさまざまあるが、煩わしいこと厭なことを温かな湯に浸かればすぅーっと見事に忘れさせてくれるのがいい。無念無想、ただ温泉だけをひたすら楽しめばいいのだ。
 川渡温泉の開湯は千年前といわれる。

 

 湯のなかで、瞑想というよりぼんやりしていると、来る途中に電車の中で読んだ宮本輝の本、「灯台からの響き」(集英社刊)の一節を思いだす。

『ひとりで旅館の風呂につかっていると、「一瞬のなかの永遠」という言葉がしきりに心のなかで繰り返された。
 すると、新聞に掲載されていたある作家の随筆の一節が浮かんだ。
 イギリスの理論物理学者であるスティーブン・ホーキング博士が来日講演を行ったとき、その作家は会場で講演を聴いていたのだが、宇宙時間における一瞬は、この地球時間ではどのくらいなのかと質問した。
 ホーキング博士は即座に「百年」と答えたという。』


 

(千年こんこんと湧き続ける、柔らかい泉質の温泉での一瞬・・・か。こいつはとにかくもう・・・堪らねえなア!)

 川渡温泉は、陸奥“鳴子温泉郷”の東の玄関口にある。
 北国の春は遅い。春の直前だというのに、気まぐれな寒波がやってきて大量の雪をドカリと落していく。

 

 陸羽東線(奥の細道湯けむりライン)の川渡温泉駅に降り立って、いかにもと実感した。
 湯けむりラインの線路はこの先、鳴子温泉、中山平温泉、山形に入って赤倉温泉、瀬見温泉を通って新庄まで続き、日本海側の酒田に向かう陸羽西線に繋がる。

 

 

 川渡温泉には日帰りで入ったことはあるが、宿泊は今回が初めてだ。迎えにきてくれた宿の主人によれば、このあたりでは、三月中は雪がいつ降るかわからないのでスタッドレスタイヤのままだという。

 

 宿泊棟に戻ると、左手奥にある内湯に向かう。
 内湯にたたえられた温泉をじっくりみると、露天風呂では浴槽の色に紛れてよくわからなかった川渡温泉の色が、赤褐色というか琥珀色に近いと知った。

 

 よく見ると浴槽の底のほうに、ふわふわと黒っぽい湯の花が揺れているのがなんとも好ましい。泉質は低張性弱アルカリ性の単純温泉とあった。

 

 貸切と違い時間制限がない。 
 酒も入ってないことだし、汗が噴き出すまでゆっくり入ってしまおう、そう決めた。
「♪ たとえどんなに 恨んでいてもォ~、たとえどんなに灯がほしくともォ~」
 ご機嫌になってつい「みちのくひとり旅」が鼻歌で出てくる。
 誰もいないし、よし、前奏部分からやるか。


   ― 続く ―


    →「鳴子温泉、名湯の宿(1)」の記事はこちら
    →「鳴子温泉、名湯の宿(2)」の記事はこちら


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