大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》

2024-04-14 08:28:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第139話《9個目の招き猫……たぶん》さくら 





 前々から言ってるけど勉強は好きじゃない。


 だから、中間テストも後半だっちゅうのに身が入らない。

 日本史のテストなんか、暗記したこと全部書いたら、見直しもしないでい眠ってしまう。そんで蟻さんとお話しする夢なんか見てしまう。一昨日は、試験の後、家の近所まで帰っていながら公園に寄って、ガキンチョのころから乗り慣れたブランコに腰かけて二時間。アンニュイに身を任せながら、結論も出ないあれこれをもてあそんでいた。

 残っている教科は昨日すませた。ノートやプリント見て、出そうなところをゆっくり読んで、一回ずつ紙に書いておしまい。もう一回やったらプラス5点くらいは取れそうなんだけどやらない。

 ボンヤリ紙に書いていて、引っかかったのは国語。
 
 小説の単元で習った太宰治の『富岳百景』。

 太宰は中学で10個ほど読んだ。読んだ中に『富岳百景』もある。いまさら違う解釈とか読み方されたら、最近ハマってる魔法使いアニメの弟子のようにムスっとしてしまって気分悪いからノートとってもらったプリント残してるだけ。

 漢字の読み、代名詞の「それ」とか「あれ」が何を指すかを斜め読み。
 読書力というか本を読む馬力はあるから、抜粋しか載っていない教科書を5分で読んで、文庫の省略無しのを一回読み直す。

 それからノートの中身を少しだけ力を入れて紙に書く。線を引いたところは、もう一度線を引く。

「富士には月見草がよく似合う」「棒状の素朴さ」「富士はなんの象徴か」「単一表現」とはなにか。プリントの答えを丸のまま頭に入れる。こういうことの答えを全部集めても、『富岳百景』は分からない。

 例えば「富士」というのは「軍国主義・封建主義・当時の文学などの権威」などと書けば正解。だけど、あたしは、これでは収まらない。権威の否定だけで納得できるほど人生は甘くない。太宰だって、そう思っている。それでも掴みきれない自分のいらだちが見えてこない。でも、そんなことを書いたって減点されるだけ。だから考えない。

 軍国主義への反対? 笑わせちゃいけない。太宰は、そこまで考えて書いていない。御坂峠の茶屋の母子に癒される……とんでもない。
 あの茶屋の主人は戦争に行って中国大陸で戦っている。もし、戦争というものの権威に反対するなら、太宰ほどの文才があれば、別の形で書いている。失礼だけど、教えてくれた国語の先生は、こんな事実も見落としたまま授業をしたんだ。あの先生の授業からは太宰の苦悩も、そこから出てくる命がけのユーモアも分からない。

 今日は録画したまま見てなかったロボットアニメを見た。わたしが生まれるずっと前からやってる国民的アニメ。

 なんで中学生が、ここまで苦しんでロボットに乗り込んで、正体不明の敵と戦わなければならないのか? 観ても読み込んでも答えは出てこない。主人公が痛々しい。

 あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、作者も「敵」の意味よく分かってないんじゃないだろうか。分かっていないからこそ、面白いと思っちゃうんだろうな。太宰の「不安」と共通する曖昧さ、漠然さ。それが「青春なんだよ」と言われても、あたしは納得しない。

 納得しなくても最終話まで観てしまう、観させてしまうんだからすごいよね。やっぱりすごいアニメなんだ。


「あ、しまった!」


 お母さんが台所で叫んだ。どうやら生協に注文しておいた食材に、注文のし忘れがあったみたい。

「あたし、行ってくるよ」

 アニメも最後まで観て「思わせぶり」を納得。当然消化不良。で買い物に行く。

 買い物は良い。メモしてもらったものを駅前のスーパーまで買いに行って、帰ってくる。お母さんが感謝してくれる。そして晩ご飯は滞りなく食卓に並ぶ。

 あたしは、こういう単純な問題と、問題解決が好き。

 一度はアイドルとか俳優になる夢を見た。確かに夢なんだろうけど、実際に、そんな人生を途中まで生きていたような気がするけど、あれは長い白昼夢。でなかったらパラレルワールドのわたし。なんかの拍子で、あっちへ行って戻ってきたんだろう。
 もしくは、向こうに戻っていないか。言えることは、どっちも生まれ育った世田谷は豪徳寺で起こったということ。どんな生き方をしようと、生まれ育った豪徳寺から道が伸びていくんだ。やっぱり不器用なんだろうね。

 長い話に付き合ってくださってありがとう、中間テストが終わったら豪徳寺名物の招き猫を買いに行きます。

 めったに行かない豪徳寺駅の向こう側、新しいファンシーショップが出来ているのを発見。そのウィンドウに可愛い招き猫があるのを発見したから。むろんレトロに作られた新製品。ひょっとしたら焼き物でさえなくてプラスチックかもしれない、高校生が、ふと買ってみようかと思うくらいの値段だしね。

 これで、うちの招き猫は8個……9個目、たぶん。

 9個目は机の上に置いて、新しい温故知新が湧いてきたらね、またお目にかかります。


 佐倉 さくら



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