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映像作品とクラシック音楽 第81回 『ブラック・スワン』〜「白鳥の湖」の狂気の舞台裏

2023-01-14 00:56:00 | 映像作品とクラシック音楽
あけましておめでとうございます。100回目指してコツコツと今年も書き続けます。
今回は2010年のダーレン・アロノフスキー監督作品『ブラック・スワン』です。

物語はニューヨークのとあるバレエ団でプリマを目指すナタリー・ポートマン演じる若いバレエダンサーが、新解釈『白鳥の湖』のプリマに大抜擢されまして、しかし極度のプレッシャーと、白鳥と黒鳥の演じ分けで神経をすり減らしていき、狂気に支配されていく…というものです。

ナタリー・ポートマンは『レオン』の女の子で男女問わずキャーキャー言われた少女時代でキャリアをスタートさせたアイドル女優でした。『スターウォーズ』新3部作で後のルークとレイアの母となるパドメ・アミダラに大抜擢され、愛するアナキンがダークサイドに堕ちていく事で心を病んでしまったパドメがちょいとだけダブってくる『ブラック・スワン』の役所であります。
ところで『ブラック・スワン』にはウィノナ・ライダーが引退しプリマの座をナタリー・ポートマンに奪われる看板プリマの役で出演しています。かつてのアイドル女優で一時期大人気だったのに女優として花咲かせることできなかったウィノナ(彼女自身のスキャンダルのせいでもあるのですが)と、本作でアイドルから女優へと見事に花咲かせたナタリーという配役に、映画と現実のリンクを見る思いです。

さておき本作は「白鳥の湖」ファンも満足できること間違いないです。

映画のオープニングは、ナタリー演じる主人公の悪夢から始まります。
私、映画のファーストショットあるいはファーストシーンはその映画全体を象徴するようなものであるべきと思っています。その意味で本作のオープニングは完璧です。
主人公は悪魔のような異形のものと踊っています。そしてそのバックにかかる音楽がちゃんと「白鳥の湖」の序曲なんですね。
この映画の全てを、「白鳥の湖」に本気で取り組むことも示した、完璧なオープニングだと思います。

この映画、「白鳥のの湖」と言えば誰もが思い浮かべる例のあの曲以外も、結構聞くことができます。監督も脚本家もかなり白鳥の湖好きなのだろうと思います。

ヴァンサン・カッセル演じるバレエ団の演出兼振付師が、白鳥と黒鳥は正反対のキャラクターだと言って「白鳥の湖」の基本ストーリーを説明してくれます。
そして
プリマを志願してきたナタリー・ポートマンに対して、白鳥だけなら君は完璧だと言います。
ナタリーは世間知らずの純真な女の子っぽい役を演じます。『レオン』のマチルダや『スターウォーズ』のパドメで彼女が演じてきたみんなに好かれる女の子の延長です。
しかしそんな娘には白鳥は演じられても黒鳥は演じられないのです。
黒鳥になるため、主人公は真逆の人間になろうと、欲望、快楽、嫉妬、執着…といったいわばダークサイドにわざと身を委ねるように、自分を変えていくのですが、当然ながら狂気に支配されていくのです。
妄想の中で自分の背中から黒鳥の羽が生え始めるのは、白鳥の自分を殺して黒鳥に生まれ変わろうとしているからです。
そしてミラ・クニス演じるナタリーと正反対のダンサーが彼女を狂気のキッカケとなります。ミラ・クニスがプリマを奪おうとしているという妄想に囚われたナタリーは、狂気の果てに彼女を殺すのですが、黒鳥を演じ切って悪魔が抜け切った彼女が目にしたものは…

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ところで私、そこまでバレエに詳しくないですし「白鳥の湖」もDVDでパリ・オペラ座の公演を見たくらいです。
だから浅い知識ですが「白鳥の湖」の物語の主人公は王子であり、王子の目線・主観で物語は進んでいくと思ってました。
白鳥の湖のストーリーは呪いで白鳥にされた姫様に恋して結婚の約束をした王子が、しかし悪魔に遣わされた黒鳥にメロメロになってそちらと婚約してしまう。絶望した白鳥は命を捨て、それを知った王子が己の愚かさに悲嘆する…って事かと思ってます。
ソ連時代の東側では最後は王子と白鳥が共に悪魔と戦って勝利するハッピーエンドな物語として描かれたとか。なんとなく娯楽映画的にはそっちの方が盛り上がりそうですね。
対して映画『ブラック・スワン』の物語は、どちらかと言えば白鳥の目線・主観での物語で、ラストは王子と悪魔の双方からどちらを選ぶかと迫られた白鳥がどちらも拒絶し自由を選ぶストーリーになっているように思いました。
だから新解釈白鳥の湖なんですかね。
だからプリマの白鳥と黒鳥を巡る狂気は、演目のラストに向けて自分を駆り立てていくような狂気の役者バカっぽくも写るのです。

映画のラストはどう考えても悲劇なのですが、しかしあの安堵感。やっとたどり着いた平穏の境地に、なにか安らぎすら感じます。「ハムレット」の読後感にも似ています。
これから「白鳥の湖」を観る時、特に黒鳥が出てきてスーパー大回転キメる場面など、見方が変わってきそうです。
それくらい白鳥の湖ファンには必見の傑作ですので、是非ともご覧くださいませ。
といっても後半の方ほとんどホラー映画見たくなってくるので、怖いの苦手な方はご注意ください。

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写真の白鳥の湖全曲集は映画に使われたものでなく、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団の1976年録音のものです。曲順が最近のものとやや違っていますが、演奏はどの曲もかなりイケイケで大興奮間違いなしの名演名盤だと思ってます

それでは今回はこんなところで!
また素晴らしい映画とクラシック音楽でお会いしましょう!

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