つらつら日暮らし

『大智度論』の「自法供養」批判について

以前、拙ブログで紹介した箇所だけれども、栄西禅師の『興禅護国論』には、常に自戒の範とすべき一文がある。

『大智度論』に云く「自法愛染の故に、他人の法を呰毀す。持戒の行人と雖も、地獄の苦を脱せず」と。
    「世人決疑門第三」


これは、『大智度論』から引用されたものであり、該当箇所は「初品第二」になる。いわば、『大般若経』の「如是」という語への註釈が示された箇所に該当している。そして、栄西禅師は偈を引用しただけだが、その前後の文脈をも引用すると以下のようになる。

 復た次に、一切の諸の外道の出家は、心に「我が法は微妙にして、第一清浄なり」と念えり。是の如くの人、自ら所行の法を歎じ、他人の法を毀す。是の故に現世には相打ち闘諍し、後世には地獄に堕ちて、種々無量の苦を受く。偈に説くが如し。
  自法愛染の故に、他人の法を呰毀す。
  持戒の行人と雖も、地獄の苦を脱せず。
 是の仏法の中には、一切の愛、一切の見、一切の吾我の憍慢を棄捨し、悉く断じて著せず。『筏喩経』に言うが如し、「汝曹若し我が筏喩の法を解せば、是の時、善法をも応に棄捨すべし。何に況んや不善の法をや」と。仏は自ら般若波羅蜜に於いて、念わず猗らず、何に況んや余法に猗著することあらんや。是を以ての故に、仏法の初頭に「如是」と称す。仏の意、是の如し「我が弟子は法を愛すること無く、法に染すること無く、朋党無く、但だ離苦解脱のみを求めて、諸の法相を戯論せず」と。
    『大正蔵』巻25-63b


とりあえず、『大正新修大蔵経』から引用しておいたが、まさに「自法供養」とは仏道以外の者の振る舞いであり、仏法を信じている者が、そのようなことをしてはならないのである。どれほどに、その法が勝れていても、それをそのように他人に対して同意することを強要し、更にその勝負を競うといったような事態になすれば、龍樹菩薩のいうように決して善行とはならない。

なお、何故にこれが善行にならないかといえば、結果としてどれほどに勝れた法であったとしても、それに把われ、愛し、執着してしまえば、その「自らの心」そのものが悪因縁を作ってしまうからである。龍樹菩薩は、仏法の中には、一切の愛や見や、自分自身の驕り高ぶり等があってはならないとしており、よって、自他の際のない、ありのままの法そのものの事実をもって、「如是」としているのである。

そして、おそらくは法に依って、どのように救済可能であるかという方法論自体が問題となっているはずが、いつの間にか同じ法を信じる者で徒党を組み、方法論ではなくて、数を競い、勢力を競うようになってしまう。実際には方法論について、優劣を競う必要はない。それこそ、河を渡るのであれば、自分で泳いでも良いだろうし、船に乗っても良いだろう。その船も、様々な材質や形状をしているかもしれない。しかし重要なのは、河を渡るということ、ただそれだけである。その方法に優劣はない。

よって、自分で渡る教えなら、自力門的な発想になるであろうし、他人の力を借りて渡る教えなら、他力門的な発想になるだろう。それのどちらが勝れているかなど、問題ではないし、どちらが渡れるか?といった問題も関係がない。縁があって、自分で渡らねばならないのなら、修行をして鍛えれば良い。他人に乗せていってもらえるのなら、悠々と渡してもらえば良い。

これこそ、「諸の法相を戯論せず」という発想であるし、それは「離苦解脱のみ」を求めることとも同義である。まずは苦を離れ、そして解脱することが肝心なのであって、「どれが解脱か?」など考える必要はない。その意味で、拙僧は今巷間で流行する「何が仏教か?」という議論にはほとほと呆れかえっている。先祖の供養を通して、仏教に触れ、そして安心を得ているのであれば、それもまた仏教というべきだ。先祖供養を行い、そしてそれで布施を得て、親子で寺院を相続していたとしても、我々は仏教の僧侶であり、断じてバラモン階級などではない。何故ならば、仏教の教えだと自覚をしているからだ。そして、そのように信じ共感する檀信徒がいるからだ。

結局、原始仏教や部派仏教など、一部の古い仏教に執着し、日本仏教を批判する者は総じて、この『大智度論』での批判の射程を逃れてはいない。『大智度論』は大乗仏教だから・・・という者がいるかもしれないが、それは問題の解決にならない。戯論を禁じたのは一体誰であったのか?それを再度、自らの信じる経典の中に問うてみれば良いだろう。

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