私的図書館

本好き人の365日

劉慈欣 著『三体』

2019-11-24 09:28:47 | SF

『三体』読みました!

あぁ、面白かった〜

久しぶりのハードカバーSF。

三部作の第一作目なのですが、中国のみならず世界的に評価も高く、アジア人作家として初のヒューゴー賞を受賞しています。

 

最初は文化大革命の描写から始まるので、ちょっと取っ付きにくいです。

登場人物も中国名なので漢字が難しい(葉文潔/イエ・ウェンジエ、とか汪淼/ワン・ミャオ、とか)

でもそこを通り過ぎると、もう早く次が読みたくって日が暮れるのも忘れて読みふけってしまいました。

物語は文化大革命による科学者たちの受難から始まり、国家規模の極秘プロジェクトに関わる事件へと繋がっていきます。

次々と自殺する科学者。

科学的にありえない怪現象。

そして人類に予想される危機。

その事件に巻き込まれたナノテク素材の研究者、汪淼/ワン・ミャオは三つの太陽を持つ星系を舞台にしたVRゲーム「三体」をプレイし、そのゲームに隠された真実に迫ります。

 

この「三体」というVRゲームの描写がもう面白い。

「三体」世界でプレイヤーはその世界の秘密を解明し、人類(異星人)の文明の進化を競います。

汪淼/ワン・ミャオは最初、古代中国の周の文王とその従者に出会います。

三人は朝歌の都で殷の紂王に正確な暦を献上するために旅をするのですが、太陽が三つあることを知らない古代の人々は激しい気候変動や長く続く夜と昼について何とか規則性を見つけようとしています。

三体世界の住民は生き延びるため、体内の水分を「脱水」して干物状態になることができます。

でなければ激しい暑さや寒さの続く「乱紀」を生き延びることはできません。

占いの得意な文王は、その占いの力によりこの「乱紀」がいつまで続き、人々が脱水体から「再水化」する「恒紀」の到来を予想しようとします。

もちろん科学的な裏付けのない占いは外れ、激しい寒さにより中国の戦国時代まで進歩していた文明は滅び、プレイヤーは再チャレンジすることになります。

 

三つの太陽を回る惑星。

そこで生きる三体世界の住民は、どうやって生き延びるのか?

どのようにしたら三つの太陽の規則性を見つけることができるのか? いや、そもそも規則性はあるのか?

そして、この「三体」というゲームを作ったのは誰で、何の目的があるのか?

なぜ科学者は自殺するのか?

自分の目にだけ映る科学的にありえないこの数字のカウントダウンは何を意味するのか?

 

アメリカのオバマ大統領も読者だったという本書。

スケールはどんどん大きくなって、まさにSFの醍醐味。

早く第二部が読んでみたい!

 

ゲームの「三体」世界では孔子や墨子、アリストテレスやガリレオ、ダヴィンチやアインシュタインなんかも登場し「三体」世界の惑星の運行について議論を重ねます。

何度も崩壊と再生を繰り返す「三体」世界。

彼らが最終的にたどりつく生き延びるための方策とは?

それが現実の地球におよぼす影響とは?

極秘プロジェクトとの関係は?

 

個人的にはニュートンとフォン・ノイマンが始皇帝の元で三千万人の人間(三体人)を使って人列コンピューターを作るところが興味深かったです。

プログラムを人間で代用し計算する!

兵士に旗を持たせて0と1の代わりにし、軽騎兵を走らせて情報伝達し、ハードディスクとして三百万人の教養のある人間に計算結果を書きとらせる。

原子力を利用し、さらに恒星間航行の技術を持つまでに文明が進歩した「三体」世界。

 

あぁ、早く翻訳してくれないかなぁ。

 

 

 


乙骨淑子『ピラミッド帽子よ、さようなら』(理論社)

2014-07-19 22:10:59 | SF

アニメ映画監督の新海誠さんがオススメ本として紹介されていたので読んでみました。

乙骨淑子さんの 『ピラミッド帽子よ、さようなら』(理論社)

初版が1981年。

ピラミッドパワーとかノストラダムスの大予言とか、宇宙人とか謎の生物とか、当時はそんな話があふれていて、私も夢中になりました。

携帯電話もなくて友達の家に電話をかけると十中八九親が出てあせったり、学校の先生がポカリとやったり(今なら大問題)、男の子にはまだ硬派がいたり、空き地や森が残っていた時代。
主人公の男の子は、数学が苦手で、頭がよくなるようにボール紙でピラミッド型の帽子を作りかぶってみることにします。

ピラミッドパワーで頭が良くなる?(笑)

頭が良くなったどうかはともかく、ピラミッド帽子をかぶっている時に不思議なことに気がつきます。

そして巻き込まれていく不思議な冒険!

同級生にそっくりの女の子。

立ち並ぶ団地の窓に輝く不思議な光。

エスペラント語を広める教師。

地下に広がる世界「アガルタ」?

自分たちの住む世界のすぐ隣にある異なる世界。

 

新海誠監督のアニメ作品『星を追う子ども』と重なるところがたくさんあって面白かったです♪

こう毎日暑いと、ひんやりした地下の世界に行ってみたい気もしますね~


 

ジョー・ウォルトン 『図書室の魔法』(創元SF文庫)

2014-06-07 23:57:16 | SF

最近私の中で何度目かの英国ブームが来ています。

NHKで放送の海外ドラマ「SHERLOCK(シャーロック)3」と「ダウントン・アビー」

前者はスマホやメールを使いこなし事件の真相に迫る現在版シャーロック・ホームズ。

後者は20世紀初頭の英国貴族のお屋敷を舞台にしたメイドや執事など貴族階級の生活をリアルに描いたドラマ。

これが面白くてたまらない!

そしてもう一つがこの小説。


『図書室の魔法』(上・下) (創元SF文庫)


東京創元社
発売日 : 2014-04-28

 

 

 

東京創元社
発売日 : 2014-04-28

 

 

 

作者のジョー・ウォルトンはこのブログでも紹介した『ドラゴンがいっぱい!―アゴールニン家の遺産相続奮闘記』などが邦訳されている、英国ウェールズ出身のSF作家。

日本人にはピンとこないかも知れませんが、ジョー(JO)は女性です。 

 

この小説、厳密にはSF小説ではないのかも知れませんが、SFファンにはたまらない作品!!

15歳の女の子の日記(本人いわく「鏡文字」で書いている秘密の日記)という体裁なので、どこまで真実が書かれているのか判断するのは読者しだい。

ほら、だって日記って本当のことばかり書くとは限らないでしょ? 

『アンネの日記』にも架空の友達「キティー」が登場するし、つらい現実を少し脚色して自分をヒーローにしたり、逆に自分が被害者のように思い込むのは思春期にはよくあること。たまに大人になっても治っていない人もいますけどね(笑)

この作品にも、たくさんの妄想と主観的な友達の美醜に性格、大人たちへの感想が書き込まれています。


母親の家を飛び出し、顔も覚えていないような家を出ていった父親に引き取られることになった主人公。

事故の影響で片足が不自由な主人公は、足の痛みに悩まされながら、中流階級である父親と父親の姉である三人の伯母たちと対面します。

ウェールズで生まれ育ち、森や山を愛する彼女にとって、イングランドの人々は言葉も習慣もまるで外国人。

伯母たちに押し込められた(と彼女は思っている)、お金持ちの子女が学ぶ立派な寄宿学校でも、周りの娘たちになじめず、足のこともあって学校の図書室ですごすことが多くなります。

ウェールズにいた頃から無類の本好きで、特にSFに関してはかなりの量を読んでいた彼女。

トールキンやル・グィンを愛し、同年代の友達よりハインラインやゼラズニイ、ディレイニーやアシモフに親しみをおぼえる彼女は、学校での派閥争いや友達付き合いを機転と本の知識で何とかこなし、問題の多い現実にも、自分の知る”真の世界”の手助けで何とか立ち向かって行きます。

本屋さんを巡ったり(足が痛いのに!)、好きな作家の新刊を見つけて喜んだり、それを本好きの知り合いにすぐ報告したり(笑)、思いがけず書籍のコーナーを見つけて幸せを感じるのは、同じ本好きとしてとっても共感できる♪

時代が1979年から80年ということで、「銀河ヒッチハイクガイド」がラジオで放送されていたり、ハインラインの『獣の数字』が新刊だったりと、時代背景を活かした演出も楽しい!

町の図書館で行われている「読書クラブ」に参加したことで、自分と同じ趣味の仲間を見つけ、学校とは違う友達との出会いが彼女を大きく変えていきます。

読書が趣味というと、内気でおとなしいイメージを持たれる方がいるかも知れませんが、彼らが交わすSF談義や熱い議論、愛する作品をめぐっての喧々諤々の騒ぎは、これぞ本好き! という読者にとってもとっても楽しい時間です。

「スター・ウォーズ」を英国人がケチョンケチョンにけなすところなんて、可笑しくて可笑しくて(笑)

英国らしく、エルフやフェアリー、『指輪物語』などが多くの場面で登場します。

『ナルニア国物語』とキリスト教の関係を知って怒りを覚える主人公にはちょっと驚きでした。

ふとした場面で、お茶や服装、階級社会の見えない壁が顔をのぞかせるのもいかにも英国という感じ。

寄宿舎での生活もテーンエイジャーらしく、宿題を写したりだとか、親との関係の悩みだとか、男の子のことだとか、ブラジャーやピルなんて話題も出てきます。

中流階級と労働者階級の違いだとか、Aレベル試験と呼ばれる統一試験のことだとか、ユダヤ人の生活でのきまり事の多さとか、ウェールズとイングランドの違いだとか、日本人にはあまりなじみのない事柄も登場しますが、雰囲気で読みました(笑)

 

本を読むことが救いだった主人公。

自分の内面と向き合い、新しい物の見方を発見し、主人公の人生に積極的に影響していくのがとっても素晴らしい!

主人公が時に辛辣に、時に偏愛的に、時に絶賛する実在のSF作品の数々を探して読んでみたくなります。

自分も読んだことのある作品が登場すると、それだけで嬉しかったり。

本を読むこと、新しいことを発見すること、興味をもったり想像すること、それは現実を生きる力になるってメッセージが、本好きには心強い!

 

この物語には様々な読み方があると思います。

SF小説というよりは、少女の成長の物語とも読めますし、書かれていることのどこまでが妄想で、どこからが現実なのか考えてみるのも面白いかも。

『ナルニア国物語』にこんな一節がありますね。

 

    ーうちがわは、そとがわよりも大きいものですよ。

             ~ナルニア国物語「さいごの戦い」より~


たった数センチの厚みしかない紙とインクの複合物の中に、世界を閉じ込めることのできる想像力。

そういう意味では、たしかにSF作品なのかも知れません(笑)

 

あー、久しぶりにル・グィンが読みたくなった。

この本で紹介されたル・グィンの作品のいくつかは、私の本棚にもあります。

こういう時、無駄に買いためていたのが報われますね♪

読書熱が再燃させられるという点では、実はとっても迷惑な作品なのかも(笑)

 

とりあえず、今年読んだ本の中では(今のところ)最高に面白かったです☆

 

 



 


『續 さすらいエマノン』

2013-12-15 23:47:43 | SF

久しぶりの続編。

梶尾真治さんの小説「エマノン・シリーズ」を鶴田謙二さんがマンガ化した作品。

 

『續 さすらいエマノン』(徳間書店)

を読みました! 

 

著者 : 鶴田謙二
徳間書店
発売日 : 2013-11-30

 

地球に誕生した原始の生物の時代から延々と記憶を受け継いでいるエマノン(No name を逆から読んだ名)

そんなあらゆる時代の記憶を持つ彼女の、世代交代の様子をはさみながら、素朴な青年とのつかの間の生活を描きます。

セリフのないコマが多いのに、周りの景色や、彼女の表情、雨や風、町の建物や道路が、エマノンの感じている空気を言葉よりも雄弁に語りかけてきて、もう鶴田さんの画力には脱帽です!!

あぁ、また読めて良かった♪

 

梨木香歩さんの『冬虫夏草』(新潮社)もようやく買えたので、年末年始で読むつもりです。

 

ちくま文庫から出た、東雅夫さんの『日本幻想文学事典』も面白い☆

少々お高い値段でしたが、ちょっと無理して買ってしまいました。

 

あと読んだのが、矢崎存美さんの、

 

『食堂つばめ①②』(ハルキ文庫)

 

著者 : 矢崎存美
角川春樹事務所
発売日 : 2013-05-15
著者 : 矢崎存美
角川春樹事務所
発売日 : 2013-11-15

 

こちらは1巻と2巻まとめ読み!

現世と死後の世界の中間にある(?)街に出現する「食堂つばめ」を舞台にした、生きることと食べることをからめた人情臨死体験物(笑)

設定が面白いのと、何より出てくる食べ物が美味しそうなのでひかれました。

ただこういうシリーズは難しいんですよね。

すでに食べ物のバリエーションが苦しそうだし、説明が多くなっちゃうし。2巻で登場人物の関係を全然説明していないのはわざとなのか、作者が忘れたのか?(苦笑)

キクばあちゃんの変身ぶりには驚きましたけど♪

ぬいぐるみつながりで、作家の新井素子さんオススメの「ぶたぶた」シリーズも読んでみたくなりました。

 

著者 : 梨木香歩
新潮社
発売日 : 2013-10-31
著者 : 東雅夫
筑摩書房
発売日 : 2013-12-10

山本弘 『MM9ーdestruction』(東京創元社)

2013-07-08 20:00:00 | SF

東海地方も梅雨明けしました。

それにしても暑いですね~

暑さと忙しさであまり本も読めていませんが、山本弘さんの新刊をようやく読むことができました。

 

『MM9ーdestruction』(東京創元社)

 

著者 : 山本弘
東京創元社
発売日 : 2013-05-30

 

 

特撮怪獣小説の第3弾。

ウルトラマンやゴジラを小説にしたらどうなるのか?

というコンセプトで書かれている本書。ウルトラマンこそ出てきませんが、怪獣の足元でウロチョロする人間の描写や、その背後での騒ぎなど、特撮作品のパロディやオマージュがふんだんに盛り込まれています。

今回は登場する怪獣の背景にスポットをあて、日本神話やギリシヤ神話に描かれている神話の謎解きをからめながら、「実は怪獣ってこんなにアリなんだよ」とさかのぼる形で存在証明をしています。

トンデモ学説がたくさん出てくるので、肝心の怪獣バトル、人間ドラマがかすんでしまうくらい(苦笑)

男性優位にするためにすりかえられた神話とか、改ざんされた女神たちとか。

いいたいことがあるのはわかるけど、エンターテイメントとしてはどうよ?(苦笑)

この人の小説に登場する女性や女性型アンドロイドは、たいてい状況や環境に運命を左右され、最後は恋愛でハッピーエンドというなんとも古臭い女性観で描かれることが多いので、自分の足で立って運命を切り開く女性が好きな私としてはすごく嫌なのですが、今回も女神の「処女性」が取り上げられていて、せっかくのスケールの大きさが、単なる子孫繁栄国防愛国小説になってしまったのは残念。しかもなぜかその部分だけが暗い。それまでのライトノベル的な展開が、いきなり戦時中の悲劇になってしまうチグハグさ。

なんていうのか、登場人物が急にきゅうくつになってしまうんですよね。

つじつまを合わせるために登場人物がいるんじゃなくて、登場人物が勝手に動き出すような物語が楽しいんですよ。そこでリアリティは求めてないから。

例えばスタートレックみたいに「宇宙の意思」とか「存在理由」という方向に行って欲しかったなぁ~

自分の知識欲だけを満足させるために怪獣を開発する女性マッドサイエンティストとかさ(笑)

ま、ともかく特撮ファンとしては、怪獣が街を壊すシーンとか、敵の攻撃に対抗したり弱点を探したりする人間の努力とか、そこだけ読んでも楽しめます♪

 

そういえば、先日作ったカレーが一昼夜、鍋のままレンジの上に置いておいたらダメになるという事件がありました。

冷蔵庫に入れておけばよかった~

食中毒の危ない季節ですからね。

皆さんもどうぞお気を付け下さい。


『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

2012-06-30 23:27:56 | SF

最近日常生活が充実しているというか、忙しいというか、とにかく帰宅したらご飯を食べてお風呂に入って明日の準備をしたら就寝という、すごく健康的な生活を送っています。

おかげであまり本も読めていません(苦笑)

 

それでもいつの間にか積読本が増えていく…

最近買ったのは、アントニイ・バージェス著、

『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワepi文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

ラリィ・ニーブンの〈ノウンスペース・シリーズ〉、

『プタヴの世界』(ハヤカワ文庫)

 

ローレンス・スーチン編

『フィリップ・K・デイックのすべて』(ジャストシステム)

 

SFばっかり…

〈ノウンスペース・シリーズ〉とは、ラリィ・ニーブンの代表作『リングワールド』を含む一連のシリーズで、この『プタヴの世界』はその中でも初期の作品になります。

 海底でイルカたちが発見した〈海の像〉は、実は時間遅滞フィールドに入った異星人?

 

「フィリップ・K・デイック」は名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を書いたアメリカの作家。

『フィリップ・K・デイックのすべて』は、その彼の様々な場所で書いたりしゃべったりしたことをまとめた本で、私の好きな作家、アーシュラ・K・ル=グィン(『ゲド戦記』の作者)もデイックに影響を受けた一人として紹介されていたので、すごく興味を持ちました。

まだ読めていませんが(苦笑)

 

 


レイ・ブラッドベリ 『華氏451度』

2012-06-08 21:58:51 | SF

アメリカの作家、レイ・ブラッドベリさんが亡くなりました。

91歳。

私は主にSF作家としてのブラッドベリしか知らないのですが、『華氏451度』、『火星年代記』、『ウは宇宙船のウ』、『歌おう! 感電するほどの喜びを!』、『たんぽぽのお酒』など、多くの作品を残してみえます。

日本にもファンは多く、マンガ家の萩尾望都さんなどもブラッドベリの作品を原作にしたマンガを描いていましたね。

 

『華氏451度』は”本”を見つけて焼き払う消防士ならぬ「焚書官」が主人公。

なんとこの小説の世界では、有害な禁制品として”本”を持つこと、読むことが禁止されているんです!

小説や歴史、詩もすべて発禁。

人々は耳にはめこむ小型ラジオをつけて生活し、大画面テレビが四方を囲む「テレビ室」で過ごします。

自分で考えることをしなくなった彼らは、垂れ流される情報や企業の広告を始終頭に流し込まれ、しだいに心が荒廃していく…

 

「華氏451度」というのは、本のページに火がつき、燃え上がる温度。

 

密告により本を所持している人物の情報がもたらされると、消防車のような物に消防士さながらに「焚書官」たちが乗り込み、ホースから水ではなく石油を撒き散らして、家ごと本を焼き尽くす。それはもう灰さえ残らないくらいに。

そんな「焚書官」の一人、モンターグはある日、となりに越して来たという少女と道でばったり出会います。

夜中に散歩し、木や空を見上げ、雨の日には顔を上げて雨にあたるのが好きだというちょっと変わった少女。

彼女はモンターグをじっと見つめ、そしてこう訊くのです。

 

「あんた、幸福なの?」

 

この小説は1953年、まだデジタルTVも携帯電話もない時代に書かれました。

本を読むことを禁止され、与えられた情報を鵜呑みにする世界で、人々は睡眠薬に頼り、ラジオとテレビに脳みそを占領され、自分のやっていることに疑問を持つ思考力さえ失いながら、毎日の生活を送っています。

職場の同僚。

情緒不安定な妻。

染み付いた石油のにおい。

炎のついた蔵書の中に立ち尽くす老女。

画面に映し出されるフイルムの教師。

破壊衝動に走る子供たち。

抽象画ばかりの美術館。

燃やされる本。

 

本を愛し、それを書くことを職業にしちゃう人が書く「本のない未来」

 

SF小説でありながら、どこか叙情的な雰囲気のあるブラッドベリらしい作品。

短編集『ウは宇宙船のウ』では、ロケットに憧れる少年たちの姿を描いています。

私は男なので自分の体験しかわかりませんが、自分たちが「なりきって」道路を滑走路にみたてたり、山を怪獣にしてみたり、両手を広げて大空を飛ぶ飛行機になったつもりで走り回るというのは、たわいもないようで、実はとっても楽しいことなんですよね♪

そんな大人になっても子供心を持ち続けた一人が、レイ・ブラッドベリという作家だったと思います。

 

ふとしたきっかけで禁制品の本を手にしたことから、『華氏451度』の主人公、モンターグの人生も変わり始めます…

 

私は本が禁止されたらきっと反乱を起こすだろうな(苦笑)

レジスタンスになって地下活動で抵抗しつづける。

自分たちで本を刷ったりして☆

 

萩尾望都さんのマンガも探しているのですが、古本屋にもなかなか置いてなくて、出会いのチャンスを待っています。

というか、近所の本屋さんのSF小説の棚が縮小されててショックを受けました。

金環日食とか部分月食で盛り上がったら、ついでにSF小説でも盛り上がって欲しいなぁ。

 

レイ・ブラッドベリ様。

たくさんの作品をありがとうございました。

心よりご冥福をお祈り致します。

 

『華氏451度』(ハヤカワ文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウは宇宙船のウ』(小学館文庫)

 


『SFが読みたい! ベストSF2011』

2012-02-13 23:12:27 | SF

今年もこの季節がやってきました。

昨年、2011年に発表された書籍の中から、ベスト作品を選出する、SFマガジン編集部によるSFランキングの発表です。

『SFが読みたい! 2012年版 発表!ベストSF2011〈国内篇・海外篇〉』(早川書房)

ランキングだけでなく、各作品の書評、SF作家、評論家による座談会や、インタヴュー、SF映画の紹介や、これだけは読んでおきたいオススメ本が紹介されています。

本好きの女の子たちを描いたCOCOさんのマンガ「今日の早川さん」も掲載♪

まずは国内篇第1位に選ばれたのは、最近芥川賞を受賞された、円城塔さん。

『これはペンです』(新潮社)

2位は瀬名秀明さんの『希望』(早川書房)
3位は三島浩司さんの『ダイナミックフィギュア(上下)』(早川書房)

『ダイナミックフィギュア』は、謎の生物が地球に渡来し、軌道上にリングを建設、その一部が日本の四国に落下するという設定。そこから発生した生物は、学習し進化するため、「翼」を学習されて広範囲に飛散させないために、人類は歩行型大型兵器「ダイナミックフィギュア」で対抗しようとします。
いわゆる巨大ロボット物なのですが、その必然性を出すためにこういう設定を考え出したのが面白い♪

海外篇の第1位は、難解な作品が多いグレッグ・イーガンの短編集。

『プランク・ダイヴ』(早川書房)

2位にパオロ・バチガルピの『ねじまき少女(上下)』(早川書房)
3位にジャック・ヴァンスの『奇跡なす者たち』(国書刊行会)
が選ばれました。

『ねじまき少女』は石油が枯渇し、遺伝子組換え食品で育てられた動物が巻く「ゼンマイ」がエネルギー源になっている世界が舞台。
遺伝子工学で作られた人工生命体(ねじまき少女)に人権が認められていなかったり、少々猥雑で、退廃的な雰囲気。

私は国内篇第5位に選ばれた、北野勇作さんの『きつねのつき』(河出書房新社)が気になりました。
…大災害後の日常。保育園送り迎えSF。
どんな話なんだろう♪

映画やアニメ作品も紹介されていますが、昨年亡くなった小松左京さんや、ファンタジーの女王、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんのことも取り上げられていました。

海外と違って日本のSF作品って評価が低い(と個人的には思っている)ので、もっと盛り上げて欲しいなぁ。

最近NHKBSプレミアムで放送された「怪奇大作戦・セカンドファイル」は面白かった☆
人体発火現象などの、不可解な事件に挑むSRI(特殊科学捜査研究所)の活躍を描く特撮ドラマ!

あと現在放送中の、笹本祐一さん原作のアニメ「モーレツ宇宙海賊(パイレーツ)」
タイトルとキャラクターは若者向きだけど、SF設定はわりかしちゃんとしていて本格的!
恒星の光やイオンを受けて宇宙空間を航行する宇宙ヨット、太陽帆船(ソーラーセイラー)の描写とか。

ちなみに日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、世界初となる惑星間航行宇宙機、太陽帆船(ソーラーセイル)「IKAROS(イカロス)」の実証試験をすでに成功させていて、今後木星圏への探査を計画しています。(民主党政権ではどうなるかわからないけれど…)

小惑星「イトカワ」から帰還した無人探査機「はやぶさ」は映画にもなっていますからね。
YouTubeで公開された初音ミクを使った動画「はやぶさ~はじめてのおつかい~」は何度見ても感動してしまいます。

円城塔さんの『これはペンです』はまだ読んでいないので、探してみようかな。

また読みたい本が増えてしまいました☆


『新銀河ヒッチハイク・ガイド』

2011-09-12 19:21:00 | SF

2001年に急逝したダグラス・アダムズが書いた「銀河ヒッチハイク・ガイド」。
その世界観も登場人物もそのままに、アイルランド人の作家オーエン・コルファーが書いた続編、

『新銀河ヒッチハイク・ガイド』〈上・下〉(河出文庫)

を読みました。
内容は後でふれるとして、まず言いたいのは、

…文庫本値段高いよ!!

一冊760円(税別)、上下巻で1,520円(税別)ってどうなの!?
思わず新潮文庫の棚にあった夏目漱石の『こころ』を取り出し確かめました。
380円。
2倍で760円。4倍で1,520円。

上下巻で夏目漱石『こころ』の4倍!!

ウウゥ…昔は新潮文庫のシェイクスピアなんて200円で買えたのに(『今日の早川さん』(早川書房)より。岩波文子の嘆き)

値段はともかく、『新銀河ヒッチハイク・ガイド』は作者が変わっても相変わらずのドタバタコメディーで楽しい♪
名作の続編を別の作家に書かせるというのは賛否の別れるところですが、私はそこそこ楽しめました☆

ま、もともとイギリス人独特のキツイジョーク満載の作品でしたからね。
わけわかんない人にはとことんわけがわからないと思います(苦笑)

ホント、大英帝国が世界を支配しなくて良かった…

ジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男』といい、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』といい、『シャーロック・ホームズ』にアガサ・クリスティといい、イギリス人ってホントにひねくれているんだから…

そこが面白いんですけどね♪

高速道路建設のためにあっけなく破壊された地球。
たまたま宇宙船にヒッチハイクして助かった地球人アーサー・デント。
二つの頭を持つ銀河帝国大統領。
〈無限不可能性ドライブ〉により自分がどこにいたいか決めるまではありとあらゆる場所に同時に存在する宇宙船「黄金の心」号。
仕事熱心なヴォゴン人は”ヴォゴン人に破壊されなかった地球”にアーサー達をおびきよせ、あらゆる次元の地球を破壊しようともくろみます。
アルファベット順に人を侮辱して回っている不死のエイリアン。
銀河帝国大統領になるのが夢のアーサーの娘で(ただしアーサーは精子提供のみ)反抗的なティーンエイジャー、ランダム・デント。
アスガルドの神々に雷神トールのハンマー。

「Dr・フー」とか「宇宙船レッド・ドワーフ号」が好きな人なら楽しめると思います☆
   


『MM9―invasion―』

2011-08-09 00:59:00 | SF

山本弘さんの怪獣小説(笑)

『MM9―invasion―』(東京創元社)

を読みました。
本格怪獣小説として一部で話題になった前作『MM9』の続編です。

「MM」とは「モンスター・マグニチュード」の略。
その怪獣の体積を水換算した場合の大きさを表し、0~9と数字が大きくなるほど体積も大きくなる。現在確認されている最大の怪獣が「MM9」
そしてこの怪獣災害と日夜戦い続けるのが、気象庁特異生物対策課、略して「気特対」の面々です。

ま、戦うといっても台風に対する気象庁みたいなもので、ミサイルとか戦車は自衛隊におまかせ。
ひたすら情報の収集と予測進路、予測被害を計算し、避難勧告などを出すのがお仕事の公務員なので、だいたいいつも怪獣を追いかけたり追いかけられたりしています♪

まじめに怪獣小説って(笑)

ゾンビや吸血鬼の登場する小説ならありますが、体長40mの怪獣の出てくる小説はなかなかありません。

本格怪獣小説ということで、怪獣の存在を科学的(?)にちゃんと説明しています。

この小説の中の世界では「ビッグバン宇宙」と「神話宇宙」が共存していて、怪獣は「神話宇宙」の存在だから、「ビッグバン宇宙」の物理法則で説明できなくても問題ない!

うわぁ、何それ?

観察者効果というものがあります。
この世界のありようを決めているのは、観察者である人間(あるいはその他の知的生命体)の物の見方であるというもの。

簡単に言うと、世界は信じた人間の多い方にその姿を変えていくのです。
誰もが神話を信じていた時代には怪獣も存在することができた。その世界では神話が現実であるのと同様に怪獣もまた現実の存在。
ところが科学が発達し、誰もが神話や伝説を信じなくなれば、物理法則が優先され、神話的存在だった怪獣たちは過去にさかのぼってそもそも存在しなかったことになってしまう。

この「多重人間原理」という架空の学説が作者が広げた大風呂敷!

観察者によって世界が決定するという設定は、量子論や「シュレーディンガーの猫」を知っていると理解しやすいかも。
今回宇宙怪獣が登場するにあたり、「天動説宇宙(神話宇宙)」と「地動説宇宙(ビックバン宇宙)」のせめぎあいというのも出て来ました。

小説の舞台はまさに「神話宇宙」から「ビッグバン宇宙」に変わる過渡期の世界。
だから当然「神話宇宙」の存在である怪獣に「ビッグバン宇宙」の物理法則は通用しません。
通常の物理法則では体重を支えられないはずの怪獣もだから存在できる。

怪獣を存在させるためにここまで考える?
こじつけもここまでくると見事です!

あー、可笑しい☆

怪獣物の王道も外しません。
さっそく「東京スカイツリー」が怪獣に襲われてるし(笑)
日本各地の観光名所を襲うのは怪獣物のお約束ですからね。

今回は特に作者が意識したという、ライトノベル的な展開になっていて、ラブコメもふんだんに散りばめられています。
あと、恒点観測員の正義の宇宙人とか、活動限界が3分だとか、「ウルトラマン」世代にはおなじみの設定も。

娯楽作品としてとても面白い♪

まあ、内輪ネタ的な笑いであることは否めませんが、特撮や怪獣もの好きな人にはたまらない小説だと思います。

あー、楽しかった☆


『MM9』

2010-08-09 09:29:00 | SF

今日から会社はお盆休みです。

今年は一週間ほど休めます。

田舎はこの時期帰省する人々で人口が急増するのか、どこもかしこもすごい人。

傍若無人に走り回っている子どもたち。
夏休みの宿題は早目にやっておいた方がいいぞ~(私はギリギリまで遊んでいました♪)

今年はちょっと近場に出掛ける予定があるだけで、私は相変わらず家でのんびりしています☆

初めて購入した電子書籍、山本弘さんの、

『MM9(エムエムナイン)』(創元SF文庫)

を読み終わりました♪

…これは、日夜怪獣災害を防ぐために、その正体を調査し、進路を予測し、名前を決め、対処法を検討する、気象庁特異生物対策部(気特対)の面々の活躍を描いた物語である。

特撮マニア、かつて「ウルトラマン」に心躍らせた人々よ、刮目して見よ!!

♪ ♪ ♪

怪獣小説って(笑)

「MM9」の「MM」とは「モンスター・マグニュチュード」の略。

ゴジラやモスラはいわば天変地異のたぐいだからいってみれば自然災害。

自然災害ならば管轄は気象庁のはず。

台風の進路を予測するように、気象庁から怪獣予報が発表され、予報がはずれれば国民から抗議の電話がかかってくる…

その年発生した最初の怪獣は「怪獣1号」と呼ばれ、その後に固有名が決められる。

怪獣の大きさによる危険度、MM=モンスター・マグニュチュードも発表され、1~9と数字が大きくなるほど危険度は増し、その最大のものが「MM9」

山本弘さんはSF作品『アイの物語』がシリアスでけっこう面白かったので、この作品も読んでみたのですが、かつて子供心に「ゴジラ」や「ウルトラマン」でビルや街並みが破壊されるのを見てショックを受けた年代としてはとても面白く読めました☆

そうか、あの裏側はこうなっていたのか♪

この物語にウルトラマンは登場しません。
戦うのはもっぱら自衛隊。

しかも我らが主人公である気象庁の面々は一発の発砲もしない、基本戦わない♪

それでも怪獣の目撃情報があれば現地に飛ぶし、いざ怪獣災害となれば自衛隊に適切な助言をするために同行する。

戦いはしないけれど、怪獣の足下でチョロチョロしている人、それが彼らなのです♪

マニアックな内容のようですが、SF的な要素もたくさんあって、怪獣が日常的に出現し、我々の世界の歴史と似通っている世界を成立させるための辻褄あわせの理屈がこれまた面白い!

怪獣なんて”科学的”に考えればアノ体重では骨や筋肉が支えきれないはず…

口から光線!? そんなバカな!!

だいたいどうやって生きているんだ?

そんな疑問にちゃんと答えている☆

市民には税金の無駄と思われ、婚期は遅れ、ネーミングが悪かったりするとマスコミにも叩かれる!

そんな彼らがとっても愛しい!

お休みに読むにはピッタリの楽しい娯楽作品でした♪

こういうのが好きな人はどこにでもいるらしく、テレビでドラマ化され、放送もされているんだとか(2010年8月1日現在)

久しぶりに「ゴジラ」の映画が見たくなったなぁ☆



『スポンサーから一言』

2009-11-07 08:30:00 | SF

先日、仕事帰りにふと空を見ると、月が山に隠れるくらい低い位置にありました。

月デカ!!

いつもより大きく見える月にビックリ!

まさか月が近づいてる?

地球と衝突!?

政府はこの事を隠していて、今頃は対策におおわらわで、でもアマチュア天文マニアの間で騒ぎになって、今夜にも記者会見?

まるで走馬灯のように人類滅亡のシナリオが頭をめぐりました。

…もちろん目の錯覚です。

月が地平線近くにある時に、大きく見える現象は昔から報告されています。

だまし絵みたいな物?

私たちは目で見た物をそのまま見てるんじゃなくて、脳で加工した映像を見ているんですよね。

犬は白黒でしか世界を見れないし、モンシロチョウは紫外線でオスとメスを見分けている。花の蜜をエサとする昆虫には、花びらは黒く、蜜のある場所は白く反射して見えるそうです。

脳って面白いですね。

最近読んだ本は、復刊が嬉しいフレドリック・ブラウンのSFショートショート。

『スポンサーから一言』(創元SF文庫)



『未来世界から来た男』(創元SF文庫)

米ソ緊張の高まる冷戦時代。
いよいよ開戦かと思われたその日、世界各地のラジオから、同じ時刻にその声は聞こえた…


「スポンサーから一言」

………

「戦え」


疑心暗鬼になる各国。
しかもその放送は、日付変更線や夏時間を採用している地域があるにもかかわらず、現地時間で必ず同じ時刻に放送されたのだ。

つまり、一時間の時差のある地域の境にそれぞれラジオを置いて、同じコンセントから電源を取っていても、一方のラジオが「戦え」と放送したきっちり一時間後に、すぐ隣のラジオがもう一度同じ言葉を繰り返す。結果的に同じ時刻に放送されたことになるが、こんなことは不可能だ…

「戦え」と言われた人類は?

それにしても「スポンサー」とはどういう意味?

フレドリック・ブラウンは1940年代から活躍したアメリカのSF・推理小説作家。

ちょっとシニカルな作風で、クスリと笑わせながらも、大人の皮肉があちこちで顔を出しています☆

もう一冊は20世紀を代表するドイツの劇作家ブレヒトの

*(キラキラ)*『母アンナの子連れ従軍記』*(キラキラ)*(光文社古典新訳文庫)

『三文オペラ』などの作品で知られるブレヒトの、『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の新訳戯曲。

17世紀ヨーロッパの「三十年戦争」を舞台に、幌馬車を引きながら戦場で抜け目なく商売をする「度胸アンナ」と三人の子どもたち。

聖母も娼婦も超えた…と評されている愚かだけどたくましい「度胸アンナ」の姿に、人間の本質の一端があるように感じました。

あと一冊はマンガ。
竹本泉さんの「よみきりものの…」シリーズ第6巻☆

*(キラキラ)*『たちこめるバラのかおり』*(キラキラ)*(エンターブレイン)

竹本泉さんは小学生の時に「なかよし」に連載されていた『あおいちゃんパニック!』からのファン♪

今回もほんわかした女の子や男の子や魔法使いや猫耳(ホントは狼耳)の女の子やトンネル堀りなどが活躍(?)します☆

このシリーズ、力が抜けるので好きなんですよね~

めっきり寒くなって鍋焼きうどんの美味しい季節になりました。

私は最後にコロッケを入れて食べるの好きです。

そろそろコタツも出そうかな。



五月の本棚 『エンダーのゲーム』

2007-05-21 02:11:00 | SF

SFに興味はありませんか?

サイエンス・フィクション。

ロケットとか、宇宙人とか、ドラえもんとか…☆

ま、それぞれ趣味趣向はあるとは思いますが、通りすぎてしまうにはあまりにもったいないジャンルです。

宇宙や銀河、異星人やレーザーガンが登場しても、いい作品はたくさんあるんですよ♪

フライパン工場で働き、田舎に帰るきっかけをどこかで心待ちにしながら、かといって思い切って仕事をやめる決心もつかない女の子が登場する、ロバート・F・ヤングの
『ジョナサンと宇宙クジラ』

大御所ハインラインの世のすべての猫好きな読者に捧げられた一冊、
『夏への扉』

おしゃべりな”宇宙船の女の子”が銀河を飛び回るアン・マキャフリイの
『歌う船』

不幸な宇宙船の船長が三人の小さな魔女に引っ掻き回されて、海賊やら帝国やらに追いかけ回されるJ・シュミッツの
『惑星カレスの魔女』

その他にもラリイ・ニーヴンの『リング・ワールド』
R・ラッカーの『時空の支配者』
アシモフの『銀河帝国の興亡』
などなど。

あと大爆笑のD・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』とか☆

その中でも、とっても好きで、印象深い作品が、今回ご紹介する物語。

オースン・スコット・カードの『エンダーのゲーム』です☆

エンダーことアンドルー・ウィッギンは6歳。

6歳の兵士。

人類は昆虫のような異星人の侵略に二度にわたりさらされ、危機に瀕しています。

二人以上の子供を持つことを制限され(エンダーは第三子)、優秀な子供たちはうなじにモニターと呼ばれる機械を埋め込まれ、将来優秀な兵士になれるかどうかを監視される未来。

エンダーはモニターをはずされた直後、対異星人組織、「国際艦隊(インターナショナル・フリート)」に徴兵され、将来、宇宙艦隊の司令官にふさわしい人材を育成するために設立されたバトル・スクールに入ることになります。

いきなりハードな出だし。

宇宙空間を模した無重力戦闘室での子供たちによるチームバトルが、心理戦、戦術、友情などがからまり、かなりの読みどころ♪

しかし、この物語の語るところは、実は宇宙でも戦闘場面でもありません。

自分とちょっと違うからといって、その人を憎む時、人は、本当は脅えているんです。

自分の存在を脅かす存在。

それは自分とまったく違うか、自分と似たところのある人間。

そんな人と出会ってしまった場合、理性的で合理的なゲームだったら、攻撃するか、無視するか。
自分の言うことを聞かせて安心するか、自分の行動で相手が反応するところを見て、やっぱり安心を求めるか、そんなところではないでしょうか。

誰もが自分の安全、損得、勝ち負け、そんな基準で思考するようになっている。

あいまいさを許さない。それは不安を呼び起こすから。

いいじゃないか、世界は広い。

そんな言葉が入り込む余地がないほど、自分の知っている世界だけがこの世界だと考えてしまう。

ある方がこんなような意味のことを言っていました。
「理性の行き着く先に暗闇が見える」

信じますか?
戦争は、実はとっても理性的なことかも知れないだなんて。

バトル・スクールに入ったエンダーは、他の子供たちと<サラマンダー隊>、<ドラゴン隊>などと名前のついたチームごとに別れて、一緒に寝起きし、生活することになります。

チームには14歳を越える子供はいません。
やはり子供の指揮官の下、そのチームを一単位としたゲーム、無重力状態での戦闘訓練をこなしていくのです。

銃を持ち、40人ほどのチームが互いに相手を撃ち合う。
ゴールの四隅に設えられたスイッチを誰かが押している間に、一人でもその中を通過できたら勝利。

そのゲームで天才的な戦略を使い、勝ち続けるエンダー。

年上の少年たちからの嫉妬。
わざとエンダーを孤立させるかのような大人たちの態度。
ゲームはさらに難易度を増し、今や公然と不公平な条件をつきつけられる。

それでも彼は勝ち続けるのでした。

通常、昇進するのに何年もかかるところを、異例の速さで指揮官に任ぜられ、さらに16歳にならないと進めないとされていたコマンド・スクールに、たった11歳でエンダーは進むことになります。

まるで、何か急がなければならない理由があるかのように…

ストーリーもアッと驚く展開で、読み進めるうち夢中になりました。
子供たちからの憎しみにさらされても、生き抜いていくたった11歳のエンダー。
大人たちの思惑。
そして意外な昆虫型異星人の正体。

なにより、読んでいて「理性って怖い…」と思ってしまいました。

割り切らなきゃいけないこと。

例えば、市役所の職員はすべての人を救うことなんて出来ません。
生活保護も無尽蔵の予算があるわけではないでしょう。
どこかで線を引く。
人間が相手なのに…

裁判官は、全ての犯罪者を死刑には出来ません。
どんなに被害者の方の悲しみが大きくても。

常に多数の意見が正しいなんてことがあるわけがないのに、多数決で決めなければならない。

そしてそれを納得させ、割り切る理由を与えているのは、たかだか人間の理性なのかも知れない…

物語自体は、こんな私の理性うんぬんなんて感想を抜きにしても、充分楽しめる作品です☆

現に、栄えあるヒューゴ賞、ネビュラ賞の両賞を受賞しています。

続編では、遠藤周作の『深い河』や、大江健三郎の名前が著者あとがきに出てきたりと、日本との意外なつながりも垣間見えたりするんですよ♪

なぜ大人たちはエンダーにゲームをさせ続けたのか?

異星人との戦争の結末は?

そして、天才戦略家、エンダーの下した決断とは?

私の中ではとても印象深い作品です。

どうです?
たまには、自分の知らない世界から、現実を眺めてみませんか?

SF作品って、突飛なようで、ちゃんと現実を映していたりするんですよね。

たまに裏っがえしに映したりもするんですが、そこがまた興味深いところです☆













オースン・スコット・カード  著
野口 幸夫  訳
ハヤカワ文庫






九月の本棚 3 『リングワールド』

2005-09-29 23:56:00 | SF

今回は、ハードSF小説の名作をご紹介します♪

最先端の科学を想像力でふくらませ、未来の技術や乗り物などを緻密な設定で描くSF小説。

その中でも、壮大なスケールと巧みなストーリー展開で、新しい世界の構築を見事にやってのけたのが、今回ご紹介する一冊。

ラリイ・ニーブンの『リングワールド』です☆

彼は、この本の中で、一つの”世界”を作ってしまいました♪

それが、本の題名でもある、「リングワールド」と呼ばれるものです。

その正体は、宇宙空間に浮かぶ人工の建造物。
ただし、やたらにデカイ!
見た目はリボンをクルリと輪にしたような形で、その内側に、大地や海が作られていて、リボンの輪の真ん中に、太陽が浮かんでいる。

そのリボンの幅は地球から月までの距離をほぼ四倍にした長さ!
直径に至っては、なんと地球から月までの距離の800倍!!

想像しにくい人はダイソン球を輪切りにしたような物と考えて下さい。
え? ダイソン球じゃわからない?
そういう方は、ジオンの密閉型コロニーを、真ん中で薄く輪切りにした物を想像して下さい(^_^)

とにかく、やたらにデカイリボンの内側に、これまたどれほどの広さか検討もつかないような大地が広がっていて、その様子が宇宙から見えるのです。

どうして空気がもれないのか?
そもそも誰がこんのものを作ったのか?
いったい何の目的で?
どんな技術で?

200歳になる探検家のルイス・ウーは、頭が二つあるカンガルーの親戚のような(ただし知能はすばらしく高い)パペッティア人のネサスから、この「リングワールド」の存在を知らされます。

ひどく臆病で、自分の惑星からもめったに出てこないようなパペッティア人が、この「リングワールド」への探検隊を組織しようというのです。

一人は地球人のルイス。
もう一人は凶暴で巨大な二本足の猫の姿をしたクジン人の戦士。
そして最後に選ばれたのが、地球人の若き女性、ティーラー・ブラウン。

最新鋭の技術で飛ぶ宇宙船に乗り込み、臆病なパペッティア人のネサスを隊長に、ルイスら4人は謎に満ちた「リングワールド」へと旅立ったのですが…



この本が発表されるや、その壮大な世界観と緻密な設定で、熱烈な信者まで出現したという「リングワールド」。

ラリイ・ニーブンの書く、<ノウンスペース>シリーズの一冊なのですが、1971年のヒューゴー賞、ネビュラ賞を独占しました☆

「リングワールド」でルイス達が見ることになる真実。
<建設者>とは?
そして、”幸運の遺伝子”とは?

あまりの人気に、続編も出されています。
こちらは、「リングワールド」崩壊の危機を救うべく、無理矢理に呼び集められたルイス達が、「リングワールド」だけではなく、人類の謎にまで迫っていく内容。

題名は『リングワールドふたたび』☆

もし、クジで当たりを引いた人だけが子孫を残していったら、その子孫は、とっても運のイイ遺伝子を持っていることにならない?

祖先から、一度もハズレを引いたことのない一族。

それでもやっぱり、次にハズレを引く確率は、二分の一?





十八歳以上で宇宙と冒険とSFの好きな方、オススメです☆









ラリイ・ニーブン  著
小隅 黎  訳
ハヤカワ文庫






九月の本棚 『銀河帝国の興亡』

2005-09-10 18:29:00 | SF

最近、知的興奮を感じたことはありますか?

化学の実験で、金属の燃える色の違いに驚いたり(マグネシウムは派手に燃える!)。

歴史の授業で意外な事実に出会ったり(遠山の金さんの実家はうちの近所♪)

虫眼鏡で太陽の光を集めて黒い紙をこがしたり(火事には気を付けましょう)

カミナリや雪でさえも、面白くっていつもながめていました!
小学生の頃、「知る」ことはとっても楽しみな事のひとつでした☆

双子のへその緒はどうやってつながっているのか?
北極星はどうして動かないのか?

ピラミッドの謎とか、聖書の暗号とかも大好き!
大人になってもついついそういう物に惹かれてしまいます☆

小説を読んでいても、そうした謎をはらんで展開していく物語に出会うことがあります。

特に好みなのが、その世界そのものの存在からして謎に包まれている、ファンタジーや、SF物♪

その中でも、特にわたしのお気に入りはこの作品。

さて、今回ご紹介するのは、SFの不朽の名作として名高い三部作。

アイザック・アシモフの『銀河帝国の興亡』1~3です☆

アシモフ博士といえば、映画にもなった『アイ、ロボット』などのいわゆるロボットシリーズが有名ですが、やはり代表作はこっちの作品でしょう。

時は、人類が太陽系から銀河に進出した遥かな未来。
地球も、そこが人類発祥の地であったことは忘れ去られ、もはや名前さえ知られていない。

広大な宇宙に広がった人類は、数百万の恒星系を従える「銀河帝国」を樹立し、政治、経済は発展し、その繁栄の中で科学技術は驚くべき進歩を遂げる。

だが、どんなに巨大な帝国にも、やがて滅びの時はやってくる…

盛者必衰の理。
一万二千年にも及ぶ繁栄を謳歌した銀河帝国にも、その時が近づきつつあった…

そして、そこに登場するのが心理歴史学者(サイコ・ヒストリー)、ハリ・セルダン!

このおじさん、もうとっくに死んでいて、何十年か、または何百年かごとに、過去の映像と共に現れて、メッセージを残していく。

そこには、銀河帝国の滅亡後、三万年と(彼の)予想する無政府状態から抜け出し、一千年以内に、混乱を収め、次の新しい国を建国させるヒントが隠されている、らしいのです。

一人一人の人間の行動を予測することは困難だが、数万人、数億人の集団心理は統計学によって予測できる。

こんなあやしげな心理歴史学によって立てられた「セルダン計画」。

ほんとうは、みんなのために帝国が滅んだ後の混乱を、少しでも早く収拾させようという、セルダン博士の善意の計画のはずが…

時には誰もセルダンの映像を見ていない時代(タイマーで自動的に再生されてる)もあるみたいで、誰もいないところで一人語るセルダンが悲しい。

それでも、忘れられても、疑われても、どんどん突き進むセルダン博士(>_<)

なんたって、まだ銀河帝国があるうちから「やがて滅ぶ」って言ってるんだから、評判も悪いわな。

ところが、歴史はしだいに、セルダンの予測した方向に向かい始めます。
そして登場する、セルダンが「セルダン計画」を実行するために設立した二つの<ファウンディーション>という組織。

一つ目には、多くの科学者や技術者が集められ、いわば科学の「箱舟」として、衰退していく帝国の中でやがて勢力を広げはじめます。

そしてもう一つ、<第二ファウンディーション>は、セルダンが”星界の果て”と暗示しただけで、誰もその所在地をつきとめられない。

やがて、各地で帝国の支配に反旗をひるがえす太守が現れ、崩壊していく銀河帝国。

追い詰められ、自分達に取って代わろうとする<ファウンディーション>に対し、帝国の最後の攻撃が開始され…

はたして「セルダン計画」は真実なのか?
どこまでが計算されていて、どこまでがセルダンの”予測の範囲内”なのか?
セルダンの予測を超えた変異体、ミュータントの出現が、銀河帝国に及ぼす影響は?
そして、”星界の果て”にあるという<第二ファウンディーション>は実在するのか?
その正体は?

次々と謎が明らかになり、歴史の歯車がかみ合った時の興奮!
SFの要素をふんだんに盛り込みながら、読者をグイグイ引き込んでいくストーリー!
読んだ後、「そうか、そうだったのか!」と叫びたくなりました☆

三部作、すべて時代も主人公も違うのですが、糸を操っているのはまぎれもなくセルダン(もしくは作者のアシモフ)博士☆

中年の市長や貿易商人、新婚夫婦に14歳の少女と、登場人物みんなが、セルダン博士の”あいまいな”予測に右往左往。
なんたって、へたな知識を与えると、そのために予測が狂ってしまうらしいので、知りたいことは自分で確かめるしかない!

セルダン博士、けっこう役立たずだったりして…死後何百年も後の世界を、こんなに心配してるのにねぇ(^_^;)

どんでん返しに、裏のまた裏を読む展開!
最後まで気の抜けないストーリーにどっぷりはまってしまいました♪

わたしの持っているのは、創元推理文庫版ですが、いまならハヤカワ文庫で「ファウンディーション」シリーズとして出ているので、そっちのほうが手に入りやすいかも。

この三部作の他、「ロボット」シリーズとつながっていく展開で、読者を驚かせた、その後の「ファウンディーション」シリーズもすでに刊行されています。

でも、やはりおすすめは、この三冊かな☆

ぜひ、あなたも知的興奮、味わってみませんか?









アイザック・アシモフ  著
厚木 淳  訳
創元推理文庫