私的図書館

本好き人の365日

二月の本棚 3 『解夏』

2004-02-22 01:06:00 | 日々の出来事
さだまさしの書いた小説です。
『解夏』と書いて、「げげ」と読みます。
いったいどんな意味なんでしょう?

さだまさしの曲は、十代の終り頃、中島みゆき、谷山浩子と共に、何度も何度も繰り返し聴いていました。
ちょっと世をスネた、生意気な少年には、ちょうどいいBGMだったのでしょう。

経験と年月で心の皮膚はすっかり厚くなりましたが、今も変わらず、大好きな歌手の一人です。

「解夏」とは、禅宗で使われる言葉の一つ。
昔の修行僧は雨期の間だけ、托鉢や辻説法を控えて、皆で共同生活をしながら座禅をして過ごしました。
その修行「行(ぎょう)」に入るのを「結夏」。明ける日を「解夏」と呼ぶのだそうです。

物語の主人公”隆之”は、小学校の教師。
しだいに両目の視力が失われるという難病に冒され、故郷長崎に帰ってきます。

病気が完治する時は、同時に視力を完全に失う時…

時にその恐怖に押しつぶされそうになる隆之。
目が見えなくなるということは、今見ているこの世界を失ってしまうということ。
その想像はすぐさま読者に「死」を連想させます。
失明の恐怖とは、死の恐怖の代弁者でもあるのです。

そんな時、墓参りの帰りふと立ち寄った寺で、そこの僧から「解夏」の話を聞くことになる隆之。

失明する恐怖、という行。
失明した瞬間にその「恐怖」から開放される。
それが自分にとっての「解夏」なのだ…

隆之と同じ病気で失明した元患者の言葉が胸を打ちます。
「暗闇というものはねえ、光が見えない者には存在しないものなんですよ。」
「私は失明して初めて知ったね。今まで自分は暗闇、という光を見ていたんだ、とね」

隆之を支える人々が切ないです。
誰もそんなに強くない…
だからこそ、他人のぬくもりが、こんなにも、心地いい…

映画化もされ、かなり好調のようで、今度はTVでドラマ化もされるとか。
ただし隆之の職業が教師からカメラマンに変わってしまうということなので、とっても残念。
実は、教師ならではのとってもいいシーンがあるんです。
職場で読んでいて、思わず涙ぐんでしまい、顔を隠すのに苦労しました。

表題作の他、うち(岐阜県)のご近所が登場する『秋桜』
ダムに沈んだ故郷で、失った絆を再び取り戻そうとする『水底の村』
壊れゆく家族の中で、父親の記憶の中の故郷を探してゆく『サクラサク』

四編の「故郷」を重要な舞台にした心にしみこむ短編集。

どれも読者を惹きつける魅力に満ちた作品ばかりです。
その中で、『解夏』だけは、何度読んでも同じところで泣いてしまいますね。

BGMに、さだまさしの曲なんか流したら、もうたまりません。
カラオケいって歌いたくなっちゃいます☆



さだまさし  著
幻冬舎文庫