ちょっと古い作品になりますが、木地雅映子(きじかえこ)さんのデビュー作、
『氷の海のガレオン/オルタ』(ポプラ文庫ピュアフル)
を読みました。
デビュー作は「氷の海のガレオン」の方。「オルタ」というのは小学一年生の女の子の名前ですが、文庫化のために書下ろされた短編になります。
木地雅映子、ここに極まれり!!
スゴイ!
とにかく読んで欲しい!
吉本ばななさんの『キッチン』を初めて読んだ時も感じたけれど、こうも複雑な感情をこうも的確に文章にできるなんて、その才能に脱帽してしまいました♪
「氷の海のガレオン」も「オルタ」も、現代の日本が舞台。
学校の中でいじめられているわけじゃないけれど、他のクラスメイトとなじむことを潔しとせず、孤立してしまっている小学6年生の女の子、杉子。
学校の中で女の子のグループははっきりと強者と弱者に分けられる。
強者には許される特権も、弱者には決して許されない。(流行の服を着るとか、髪にリボンを付けるとか)
自由な教育方針の親に育てられた杉子は、強者のグループに入りたいとも思わなければ、弱者同士でかたまることも嫌。休み時間は一人で本を読み、幼稚なちょっかいには極力無視を決め込んでいる。
…でもどこかで自分の価値観にとまどい、異質な自分に生き辛さを感じる彼女は、家の庭に植えられた大きなナツメの木、「ハロウ」の根元で一人泣くのだ。
友達をたくさん作れだとか、学校は集団生活を学ぶ場所だとか、無責任に言う大人がいますよね。
でも、もし、他人と同じであることに必死で、自分を殺し、同級生や先生の顔色をうかがうことが集団生活を学ぶことだとしたら、いったい学校って何?
学校には気をつけるんだぞ!
短編である「オルタ」では、小学一年生のオルタちゃんが隣の席の貴大(たかひろ)くんからイジワルをされます。
幼くても真面目なオルタちゃんは授業に集中しようとするのですが、消しゴムを取られたり、スカートをめくられたり。
「やめて」といっても貴大くんはやめてくれません。
先生も貴大くんを怒ってはくれますが、真面目な先生は「問題」のある貴大くんの方にどうしても関心がいってしまい、いい子で問題のない、しかし教室では圧倒的に”弱者”のオルタちゃんは我慢を強いられるのです。
(運命づけられた共同体の、優秀なる緩衝材)
先生はみんなのことを考えていて、貴大くんも問題を抱えてはいるけれど本当はいい子で、だから貴大くんが優先されるのはしかたがなくて、私が我慢しなくちゃいけない。
いい子だからこそよけいに理解してしまう。
理解してしまった子供は自分を抑えるしかない。そのうち先生に告げ口をしなくなり、親にも何も言わなくなり、耐え続ける。
最後まで……
つまり、
壊れるまで。
実は私も高校時代は休み時間に本を読んでいる生徒でした。
杉子ほど頭が良くなかったので、適当に友達に合わせ、適当に自分を抑え、適当に楽しい学生生活でしたが、常に他人との違和感に悩み、自分は他人とは違うんだと自分に言い訳をしていました。(杉子は「天才の悩み」と自分に言い聞かせます☆)
この本を読んでその頃のことを思い出し、すごく心に響きました。
共感できるところが多くてビックリ!!
本が好きだとか(杉子の家には図書室がある!)、休み時間を一人で過ごすとか、友達ってどういう関係のことをいっているの? 仲良くって何? ただの慰めあいじゃない! といちいちつっかかるところとか☆
木地雅映子さんの筆も冴えまくり!
兄貴が悩んでいる姿をみて(彼も杉子と同じように悩み、結局学校を辞める決意をします)、
かっこいい。…おにいちゃんがんばって。
と思いながらも、
薄情な妹は、それからもう一寝りしてしまった。
なんて書いてあって、そうそう、妹ってそういうところがあるよね♪
けっこう薄情で、でもそれがありがたいんだよね、と思ったり☆
…妹の薄情さは身をもって知っています(苦笑)
人間関係を俯瞰で眺めることができて、公平さと公正さに重きを置き、自分勝手な行動ができるほど愚かでもない人間は、ただ数が多いからという理由で、我がままな、もしくは問題を抱えた人間に蹂躙され続けるのか…
逃げ場のない学校という檻の中で…
木地雅映子さんは「マイナークラブハウス」シリーズを読んで、ただ者じゃないなと思いましたが、この作品は飛び抜けていました。
自分の生き方が苦労が多くて、みんなと同じような生き方ができたら、それはそれで幸せなんだろうとわかっている杉子。
それでもそうした生き方はできない。それもまた本能的にわかっているのです。
こういう作品に出会えると嬉しくなります☆
私の人生の中で特別な一冊になりました!
作中に出てくるブルガリアン・ヴォイスも気になって、曲を調べて、しばらくYou Tube で聴きまくっていました♪
この音楽も好き!
いい読書ができました。