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「戦場心理ノ研究 総論」-その3 「第三章 第二線将兵ノ心理」

 「第二線」とはどのような役割を持った部隊なのか。早尾はそれを次のように説明している。

 
「第二線将兵ニ至ツテハ一ツハ警備ノ任ニアリ一ハ残敵討伐ノ任ニアリ一ハ第一線補充ノ意味モアル。従ツテ一個所ニ長ク滞在シ其間支那人トノ接触モ自然多ク宣撫工作ニ従ヒ自治保安ニモ関係スルシ亦皇軍ノ為メノ慰安所ノ開設ニモアタルワケデアル。依ツテ腰ヲ落付ケテ掛カル仕事が相当ニ多イ。故ニ将兵ノ気持ニモ余裕ガアルノデ是ニ伴フ種々ナル問題ヲ論ズル要ガ起ル。」(37頁)
 
 
 「第二線」がまず行わなければならないことは宿舎の設営である。前回の「「戦場心理ノ研究 総論」-その2 「第二(ママ)章 第一線将兵ノ心理」」でも触れたが、「第一線」は宿舎を作ってもそこを出る際に放火する。だから「第二線」は新たに宿舎を作らねばならないのである。
 
 では「第二線」がつくる宿舎とはどのようなものであったか。
 
 
「第一線ノ後ヲ受ケテ第二線ノ将兵ハ宿舎ヲ作ラネバナラヌ。是ガタメニハ実ニ広範囲ノ徴発ヲ行フ。彼等ハ各自支那民家ヨリ自由ニ家具寝台ヲ徴発シ来リ忽チノ間ニ住心地善イ住宅ヲ作ツテ了ウ。余ハ住宅ト敢テ言ヒタイ。兵舎デハ決シテナイ。何トナレバ戦地ナレバコソ出来ル思考ヲ凝ラシ得ルカラデアル。富裕ナル都市ニ駐屯セル部隊ヲ見ルト将校室ト言ヒ兵士室ト言ヒ驚クバカリニ傲奢ナモノデアル。皆遠近ヲ問ハズ支那家屋ヨリ集メ来リシ品物ヲ以テ充満シテ居ル。此ノ中デ談笑スル間ハ到底戦地ヘ来アルトハ思ハレナイ。所ガ何故カ自分等ニ必要デナイ品物ヲ余リニ粗末ニ取扱フ。或ハ破壊シ燃ヤシ破リ其ノ中ヘ大小便ヲナス。自分等ノ欲シイ品物ヲ取リ尽シタ後ハ遠慮ナク暴レ甚シキハ放火スル。亦民家ヘ入ツテ何モ目星シキ物ガナイト其レヘ放火スル。第一線部隊ノ放火トハ更ニ性質ガ善クナイ。遊戯的デアリ火ヲ見テ痛快ガルノデアル。第二線部隊ガ駐屯シタラ最早支那民家ハ荒レ尽サレテ何物モナクナリ後ハ破壊サレタ物ト糞尿デアル。余等ハ第二線ノ通過ノ後ヲ暫ク行ツタカラ宿舎ノ設営ニ大ナル困難ヲ感ズルコトガ多カツタ。」(37-38頁)
 
 
 また「第二線」の者も掠奪をした。
 
 
「金銭財宝ヲ懐ニシタル将兵ハ第二線ニ属シテ居ル。銀行ノ金庫ヲ破壊シタノモ、博物館ヲ荒シタノモ、植物園、公園ヲ荒シタノモ、彼ノ中山陵ヲ荒ラシタノモ皆第二線ノ将兵ノ行為デアル。金銭ニ誘惑ヲ感ジタ者ハ支那貨幣ヲ窃取シ貯ヘ是ヲ後日適当ニ商人ト取引シタノデアツテ其ノ額ハ莫大ナモノデアル。或ル兵ガ内地ヘ帰還スル時所有物ノ検査ヲ受ケタ時ニ日本紙幣一万円ヲ身ニツケテ居ツタトイフ。余ニハ信ゼラレナイ事デアルガ兵トシテ送金ヲスレバ直チニ疑ヲ受ケルカラ持ツテ居ツタノデアロウ。憲兵ガ厳重ニ検査ヲナスニ至ラザル頃ニ既ニ巨額ノ金ガ内地ヘ送ラレテ居ル。品物ニ至ツテハ更ニ甚シイ。戦争ニ来タノカ窃盗シテ金儲ケニ来タノカ了解ニ苦シム事デアル。」(38-39頁)と書いている。
 
 
 「第二線」は「第一線」の後を受けるので敵の死体が散乱している状態であったが、戦争なので死体があるのは当然であるとして「是ヲ見テ少シモ恐ロシイトモ、汚イトモ感ジナイ。人形カ何カ転ガツテ居ル位ニシカ思ハナイ」(39頁)というものであった。そして中には「悪戯サへ加ヘル」(39頁)者もいた。
 
 
 早尾は1937(昭和12年)12月20日に南京へ入っている。その時の様子を次のように書いている。
 
 
「余ガ南京ヘ入ツタノハ陥落後一週間デアツタカラ市街ニハ頻々ト放火ガアリ見ル見ル間ニ市内ノ民家ハ日本兵ニヨリ荒サレテ行ツタ。下関ニハ支那兵屍体ガ累々ト重リ是ヲ焼キ棄テルタメニ集メラレタノデアル。目ヲ揚子江岸転ズレバ此処ニ山ナス屍体デアツタ。其ノ中ニ正規兵ノ捕虜ノ処置ガ始マリ海軍側ハ機関銃ヲ以テ陸軍ハ斬殺、銃殺ヲ行ヒ其ノ屍体ヲ揚子江ヘ投ジタ。死ニ切レナイ者ハ下流ニ泣キ叫ビツヽ泳ギユクテ更ニ射撃スル。是ヲ見テモ遊戯位ニシカ感ジナイ。中ニハ是非ヤラシテクレト首切リ役ヲ希望スル将兵モアル。此ノ位ニ正規兵ニ対シテ憎悪ノ念ガ強ク亦殺シ役ヲ雑作ナク考ヘル様ニナルノモ戦地デナケレバ考ヘラレヌコトデアル。彼等支那兵モ誠ニ潔ク観念シテ処分ヲ受ケル所ヲ見ルト愈々助カラヌトナルト度胸ヲ定メテ了ウコトハ日本人ト同様デ東洋人ノ共通点ト考ヘラレル。揚子江ニ沈ンダ正規兵ノ屍体ハ凡二万人位ト言ハレル。」(40-41頁)
 
 
 そして中には「抗日分子ヲ全滅スルニハ老幼男女ノ別ナク支那人ト見タラ皆殺セト迄命令シタ部隊長サヘアツタ位デアル。」(41頁)と書いている。 
 
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