戦時中、軍の規律が非常に乱れており、上層部はそれに対処するために様々なことを行った。有名な「戦陣訓」もその一つである。
しかし、規律が乱れていたのはなにも軍だけではなかった。植民地や占領地、傀儡国家である満州国では一般民間人も含めた日本人が行う言動があまりにもひどく、このことが大東亜共栄圏実現のための足枷になるかも知れないと思った陸軍では、極秘のうちに満州国や中国での日本人の言動を調査し、報告書を作成している。
それが「極秘 昭和十五年五月 海外地邦人ノ言動ヨリ観タル国民教育資料(案) 大本営陸軍部研究班」である(不二出版から『十五年戦争極秘資料集 1』として復刻されている)。
この史料は、タイトルが示すように「極秘」扱いのものであり、その概要と
して
「本冊子ハ当研究班組織ノ作業ニシテ現地軍部側ヨリ観察セル海外地邦人ノ言動ヲ基礎トシテ記述セルモノナリ内容尚推敲ノ余地アルモ参考資料トシテ配布ス」(前掲 66頁)
とあり、配布先としては
「配布先
内地 陸軍省、参謀本部、教育総監部、防衛司令部、師団(留守師団)司令部、連隊区司令部、朝鮮兵事部、在郷軍人会本部
外地 軍司令部、師団司令部(之ニ準ズル部隊ヲ含ム)
其ノ他 企画院、内務省、文部省、拓務省」(前掲 66頁)
となっている。
これから何回かに分けて、この史料にある満州国内での日本人の言動についてのところを見ていきたいと思う。
そして、「五族協和」といわれた「理想郷」の満州国の実態はどのようであったのかを考えてみたい。