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小学生のための国語作文指導法③

2019-05-16 22:51:59 | 国語問題・作文指導

小学生のための作文指導法 ③ 

創作文の書き方 SCHOOD

永井津記夫 (ツイッター:https://twitter.com/eternalitywell)

 

  「小学生のための作文指導法」 というタイトルで二つブログを書きました。今回はその延長線上にある“創作文 (Creative Writing) の書き方”について述べていきたいと思います。米国ではEssay Writing (小論文)(注1)の書き方の指導と並行して小学校高学年になると創作文(Creative Writing) の指導にも力を入れています。米国には明確な作文の指導指針があり、良いテキストもあり教師は自信を持って生徒の指導にあたっているようです。が、日本には、とくに創作文に関しては、良いテキストもなく、ごく少数の自覚した人たちが指導をしているだけのようです。

  それでは浅学非才を省みず(論文については数多く書いてきましたが、創作文に関しては大学時代に課題のショートショートを英文で書いたのみで小説など書いた経験はないのですが)、お父さん、お母さんの中には創作文の指導を子どものためにしてあげたいと考えている方もおられると思いますので、“小学生のための創作文の書き方指導法”を示してみたいと思います。これは50年前の大学時代にギルキー先生から受けた講義に基づいています。

  “創作文”の書き方指導法を述べる前に、前の二つの「作文指導法」の復習を簡潔にしておきたいと思います。

  前々回のブログ「小学生の作文指導」において、初歩的な形であるが三部構成 (問題・討論・決定) の形の作文法を示しました。指導者(お父さん、お母さん) は適切な題を与えて三部構成で書く練習を生徒にさせればよいのです。「将来、何になりたいか」という“卒業文集”のテーマにしばしば使われるものを題に選ぶのは定番であり生徒も書きやすいでしょう。ただし、手紙の拝啓(出だし) 敬具(終わり) にあたる部分の書き方はひな形を示しておくことが肝要です。

 

       [小学校高学年用] 

 

   (題:) 私の将来の仕事            

                (名前) □□△△

 

 私が将来なにになりたいか。それはもう決まっています。(問題)

出だし

 私はプロの漫画家になりたいのです。

なぜかと言うと・・・             (討論)

私は・・・

父は、・・・

 

 

本文

本文

 

 上のような理由で私は漫画家になりたいのです。  (解決)

 

終わり

終わり

 

 

  













 


  「小学生のための国語作文指導法」に続く「小学生の国語作文指導法 ②」では「問題・解答」型の文章を示して、小学生の卒業文集などで「題(あなたは将来どんな人になりたいですか。その理由も書きなさい)」を与えて作文させるやり方は、生徒の書いたものが「解答」になり、書く題を与えて指示する部分が「問題」となり、二つを合わせて、「問題・解答」型の“文章”になると説明しました。

  ショートショート、短編小説、小説などの創作文も基本的には(大きくとらえると)私の説く「問題(出だし)・討論(本文)・解決(終わり)の三部構成になると言えるのですが、これでは創作文のポイント(要点)を示したことにはなりません。創作文は「出だし」が非常に重要でここをどのように書くかで作品の良さが七、八割方決まると言ってもよいと思います。

  それでは、創作文の構成法を述べていきます。ここで扱う“創作文”はいわゆる“ショートショート”と呼ばれるくらいの長さのもので原稿用紙で3枚から5枚まで、文字数で1000字から2000字程度の長さのものと考えてください。

  創作文の構成の基本要素はSCHOOD (スクード)です。“school (スクール、学校)”は英語を学んだ人ならだれでも知っている単語ですが、“schood”というような英単語はありません。これは次の言葉の頭文字をとって合わせたものです(内容を考えると複数形で示した方がよいものもありますが、すべて単数形で示します)。 

 ① Scene (場面設定): time 時 location 場所

 

Action

 ② Character (登場人物、配役) 

 ③ Hero (主役[主人公]…女性なら、Heroine)

 ④ Object (目的…主役が行動する目的)

 ⑤ Obstacle (障害…主役が行動するときに生じる障害)

 ⑥ Destination (目的地、到達点…主役が行動し最終的に目指すもの、到達するもの)


  以上がショートショートをつくるときに必要な基本構成要素です。①から⑥を貫いているのは Hero の Action(活動) です。

  客船が船員と乗客を乗せて目的地に向かう場合にエンジンを動かして推進力を生み出す必要があります。この「エンジンを動かして推進力を生み出すこと」がActionだと考えるとよいと思います。

  「elements of a short story」という語句でグーグル検索などをすると、米国人作家などがshort story の書き方の説明をしています。①の“Scene”については“Setting(設定)”としている人が多いようです。また、⑤のObstacleの代わりに”Conflict(衝突)”、⑥のDestinationの代わりに“Resolution(解決)”を用いる人もいます。“Plot(筋立て、構想)”や“Point of View(一人称で書くか、三人称で書くか、著者の視点)”を基本要素の中に入れる人もいます。細かなことを加えていくと、基本要素はいくらでも増えるので、私は大学でギルキー先生から学んだ“SCHOOD”を用いることにします。

  ここで、日本のショートストリーの元祖とも言うべき「昔話」を取り上げて分析してみましょう。

S: Scene 場面設定  C: Character 登場人物   H: Hero(Heroine) 主人公 

Oj: Object 目的  Os: Obstacle 障害  D: Destination 到達点、目的地

    日本昔話  桃太郎

 むかしむかしあるところにおじいさんおばあさんが住んでいました。 

 おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。

 おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。
 「おや、これは良いおみやげになるわ」
 おばあさんは大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました。
 そして、おじいさんとおばあさんが桃を食べようと桃を切ってみると、なんと中から元気の良い男の赤ちゃんが飛び出してきました。
「これはきっと、神さまがくださったにちがいない」
 子どものいなかったおじいさんとおばあさんは、大喜びです。
 桃から生まれた男の子を、おじいさんとおばあさんは桃太郎と名付けました。
 桃太郎はスクスク育って、やがて強い男の子になりました。

 そしてある日、桃太郎が言いました。
「ぼく、鬼ヶ島(おにがしま)へ行って、わるい退治します」 
 おばあさんにきび団子を作ってもらうと、鬼ヶ島へ出かけました。
 旅の途中で、イヌに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
 イヌはきび団子をもらい、桃太郎のおともになりました。
 そして、こんどはサルに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
 そしてこんどは、キジに出会いました。
「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」
「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」
「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」
 こうして、イヌ、サル、キジの仲間を手に入れた桃太郎は、ついに鬼ヶ島へやってきました。

 

 鬼ヶ島では、鬼たちが近くの村からぬすんだ宝物やごちそうをならべて、酒盛りの真っ最中です。
「みんな、ぬかるなよ。それ、かかれ!」
 イヌは鬼のおしりにかみつき、サルは鬼のせなかをひっかき、キジはくちばしで鬼の目をつつきました。
 そして桃太郎も、刀をふり回して大あばれです。 
 とうとう鬼の親分が、
「まいったぁ、まいったぁ。こうさんだ、助けてくれぇ」
と、手をついてあやまりました。
 桃太郎とイヌとサルとキジは、鬼から取り上げた宝物をくるまにつんで、元気よく家に帰りました。D
 おじいさんとおばあさんは、桃太郎の無事な姿を見て大喜びです。
 そして三人は、宝物のおかげでしあわせにくらしましたとさ。

おしまい

 

 Scene 時、場所

 Character 1(=C1) おじいさん

 Character 2(=C2) おばあさん

Actionスタート

 

 

 Hero登場 桃太郎

 

 

 

 

 

 Object (Oj) 鬼退治

 Obstacle (Os) 鬼ヶ島

 C3 イヌ

 Scene 場所:鬼ヶ島

 C4 サル

Action

 C5 キジ

Action

 Obstacle (Os) 鬼ヶ島

 

 C6 鬼たち

 

Action

Action(Climax)

 

 C7 鬼の親分

 

 

 Destination 到達点

 

 語りを終える言葉

 

 

 福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 8月の日本昔話 > 桃太郎より

  (http://hukumusume.com/douwa/pc/jap/08/01.htm)

 

   この日本昔話の「桃太郎」はショートショートの作り方、構成法を説明するうえで、格好の物語だと思います。

 

 ① Scenes (場面設定): time時…むかしむかし location場所…あるところで、鬼ヶ島

  

Action

 ② Characters (登場人物、配役)…おじいさん、おばあさん、イヌ、サル、キジ、鬼たち、鬼の親分 

 ③ Hero (主役…女性なら、Heroine)…桃太郎

 ④ Object (目的…主役が行動する目的)…鬼退治

 ⑤ Obstacles (障害…主役が行動するときに生じる障害)…鬼ヶ島、鬼たち

 ⑥ Destination (到達点…主役が行動し最終的に目指すもの)…幸せな生活


  私がショートショートを創作するうえで必要なものとして挙げたSCHOODがすべて見事に述べられています。「むかしむかし」や「あるところで」は“昔話”の決まり文句ですが、これを書き手のよく知っているか、または、読者がすぐに理解できる場所と時を設定するとよいでしょう。そして、主役(主人公)と脇役を登場させ、事件を起こせば(アクションを起こせば)よいということになります。

  小学生が初めて“創作文”を書く場合に、上記の“桃太郎”の昔話を少し変形する形で書くのも一つの方法かもしれません。が、これは子どもによると思います。

  さて、ショートショートだけには限りませんが、小説などの創作物では「出だし」が肝心です。ここで読者が興味をいだいて読んでくれなければ、あとの構成がすぐれていても我慢して読んでくれる人はごく少数でしょう。

  「出だし」の部分を書いてみます。

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 キーイーイン!それほど大きくはないが、耳の底に残るような変な音がした。夏休みが始まったばかりの7月末の真夜中。裏山から今まで聞いたことのない金属音にびっくりして、吉夫は庭に飛び出した。事件発生(Action)、時と場所の設定(Scene: Place & Time )。主役(Hero=吉夫)

 赤いオレンジ色の光が裏山から放たれている。時刻は午前2時。まわりには新しく開発された住宅地があるが、吉夫の住んでいるところは昔からある小さな山村である。この異変にだれも気づいていないようだ。吉夫はいったん眠ることにした。

 9時過ぎに母に起こされて目覚めた。近所に住む友だちで一学年下の小学5年生の健介をさそって、家から100メートルほど離れたところにある。高さ60メートルほどの裏山に登った。変な音とオレンジ色の光の謎を解明にするためである。

  …登場人物(脇役)(Character: 母、健介) Action(裏山に登った)  目的 (Object:謎の解明)

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  この後にObstacle(障害)を入れて事件を展開し(Action)、最後の到達点(Destination)に至るようにもっていきます。続きは、考えてみてください。

  もう一つだけ付け加えておきます。それは、主人公を三人称(上の例では“吉夫”)で書くか、一人称(ぼく、わたし)で書くかということです。最初は子どもの書きやすい方を選んでください。慣れてくれば、どちらでも書けるように練習をさせてください。

  子供たちはある程度、書けるようになると、いろいろな物語や昔話や子ども向けの短編小説なども読みたいと思うはずです。“人物描写”や“情景描写”などの細かいテクニックは(子どもにもよりますが)中学生から高校生になって読書をすることによって習得するか、今はインターネットが発達しておりネット検索で習得していけるはずです。まず、子どもに文章を書く(Essay WritingとCreative Writing)くせをつけてください。  (2019年5月16日記)

 

(注1) 「Essay Writing=小論文(の書き方)」というとこむずかしく聞こえますが、自分の考えや意見をまとめて書くことだと考えるとよいと思います。「Creative Writing=創作文(の書き方)」。“創作文”は主に(短編)小説や詩(俳句、短歌を含む)のことだと考えてください。


(※注) SCHOODはあくまで基本であってこの基本をはずれる場合はありえます。「小学生のための国語作文指導法」で述べているように、「思うように書きなさい」 という作文の指導法では“創作文”を書くことはとうていできないことなので、このブログで創作文の型を“SCHOOD”という明確な形として示したのです。

  まず、“型”を習得し、その型をはずれて独自の“型”を生み出すことは有って当然です。絵画や音楽においても天才は型破りが多いです。子どもたちの中には“型破り”の天才もいると思います。

 


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