このごろの下島八段と大表四段と長徳三段

「へいちゃん」こと下島陽平八段と富山県出身の大表拓都四段、長徳徹志三段の活躍や富山の囲碁ニュースをお知らせします♪

長徳二段11連勝! vs山田規三生 九段

2020年08月30日 | 棋譜
快挙である。 長徳二段が11連勝し、棋士中単独トップを走っている。(原稿作成8月25日時点)
※なお8月27日の対局でも勝ち、12連勝中です。
連勝をお祝いし、8月20日(木)名人戦予選Aでの、山田規三生九段との一局をご紹介したい。
なお今記事は廣田連合会会長の力作である。リモート解説もしてもらった。



本局は「幽玄の間」でも中継された。おかげで一喜一憂しながら観戦できたのと、聞いてみたい場面も何か所かあった。で、連勝記録トップを維持してることのお祝いを兼ねて当欄で紹介することになった次第。解説は同じくネット対局場の「幽玄の間」でお願いした。つまりは今流行りのリモート解説だが、全く不便は感じない。
廣田「おめでとうございます。11連勝はすごいね。」
長徳「いえ、最後まで苦しかったです」
廣田「感想戦は行いましたか」
長徳「はい、色々と規三生先生に教えていただきました」

廣田「ふーん、初手合いで、所属も違うが「きみお先生」と呼ぶんだ、なんかいいなぁ^^」

長徳「特に印象的だったのは、地味なのですが白50の手では123(参考図①▢)と一目抱えるほうが良いと教わりました」
参考図①


さて実践だが序盤はお互い快調に進み、右下黒37の打ち込み!から白42まで進み、まだ解決していないのに、山田九段は一転上辺43に打ち込んだ!エッ手抜き?このタイミングなんだ!!利かしと見てるのかなぁ。
廣田「黒43では48と二子を取らないのですか。小さいのですか?」
長徳「いえ、大きいです。ただきみお先生は三々(右上)に入られるのを嫌ったようです。一例が参考図②の白1から3です」
参考図②


廣田「この後どうなるのですか?」
長徳「とても難解な変化になります」
色々な変化図が並べられたが、アマにはついていけそうにない。へー、ふーん、一様ではない変化を鑑賞するくらいしか手立てはない。

廣田「白44とはすごいですね。左右の白を分断されても大丈夫ですか?」
長徳「白44はこの一手です。上(43の一路下)につけて黒から4とハネツギを利かされたらたまりませんから」
廣田「なるほどなぁ、そんなものか。でも飛び出されると戦いになりそうだ、こわいけどなぁ。」

黒45はさすが!渋すぎて小生にはとても打てないが、参考になる手だ。
隅をしっかり固めて、次に43を動き出そうというのだがこういう落ち着いた手はなかなか打てない。
とはいえ、白は46に手を戻して大きな利を得たように見えた。がここで冒頭の感想が出てきた。

実践譜 白46まで


長徳「白50と継ぎたくなりますが、ここは123と一子抱えてる方が良いことをきみお先生から教わりました」

序盤において、一番感じ入ったところのようだった。
なるほど、白50と打てば黒石は取れているので地も得だし、このように打ちたくなるのだが、後々黒123と下がられてみると周りから利かされる上、全体の眼形も薄い、得策ではないとのことのようだ。

そして上辺、黒79!とプロならではの手筋のツケコシが打たれた。
やっぱり来たか。長徳君も覚悟してたようだが、やはり厳しかったそうだ。
一手一手難解な読み比べが続く。

実践譜 黒79 厳しいツケコシ


途中白96のワタリが上手い!そうかこの手で連絡してるんだ、気がつかないなぁ。
でもまたまた黒97と形の急所に迫ってくる。全く気が休まることがない。碁は中盤を制する者が強いのだろうなぁ。

実践譜 白96のワタリと黒97の急所一撃


黒109でようやく一段落。
「形勢君」に聞いてみると確定地で約20目ほどの差と出ている。
ただ白も全体に厚いので、勝敗は下辺にどれくらいの白地がつくかで決まるのかなと見ていた。

実践譜 黒109まで。 形勢はいかほどか


長徳「形勢は良くありません。ただ悪いながらもまだチャンスはあるかもしれないと思っていました」

小生には下辺黒133!がとてもうまい手に見えた。
一路下に受けていると自然に下辺の白模様が小さくなる、これでは勝てそうにない。
『もう負けはない』と山田九段の自信を感じる一手に見えた。
大きな白地は出来そうにないかな、期待しながら盤面の進行を見守っているのだが、負けかなぁと小生が感じた場面だった。

実践譜 黒133まで


もちろんあきらめるわけにはいかない長徳君は、ここから力を出していく。
白136からゴリゴリ黒を切っていったのだ。が黒143!!が妙手。
山田九段には当然の一着だろうが、それにしてもあざやかな返し技だ!
白147と押さえて黒151のアテを利かされるとたまったものではない。

黒143まで。これぞ手筋



参考図③

長徳「136の前に参考図③の1,2の交換を打っておくべきでした」
なるほど、それなら143は打たれずに済んだ。小さなことのように見えてもあらゆる気配りがとても大事なのだ。
長徳「打つ手に困り、白144から148と打ちましたが、149では下辺152とノビきられるのが嫌でした。もちろん149でも良いのですが・・・」

ただ勝負が長引いたというだけで、白の非勢に変わりはない。
長徳君は白154から手順を尽くし、ついに白160から162と勝負に出た!!。
そして白166から、成算はなかったというが、いよいよ白168から白172とキリ、最後の決戦に挑んだ。

実践譜 172まで 最後の勝負!


ここで山田九段は、173から175の手順を選んだ。上辺の黒が助かれば左辺の黒石は取られても勝てるとの判断だった。が、一瞬の落とし穴があった。黒67の一路下からの切る戦いに誤算があったそうだ。
実践譜 175まで。 黒の判断はどうだったか


長徳「173では参考図④と162の一路右に割りこまれていたらはっきりしていました。黒7と白三子取られて形勢ははっきり黒が良いです。きみお先生も当然わかっておられたのですが、実戦の進行のほうが安全勝ちと考えられたようです。また秒読みになっていたことも原因の一つかもしれません」

参考図④ 1~7


結果、中央の黒8子を取ってはさすがに逆転だ。
白196を見て山田九段は投了を告げる。
「局後は、丁寧に感想していただきました」と長徳君は充実してる声で電話越しに喜びを語っていた。勝った喜びもさることながら、きみお先生の優しさに感激した風だった。
山田規三生九段、若者を鍛えていただき、どうもありがとうございました。

終局図 白196手まで


ともあれ、これで連勝記録が伸びたこと、またこの一勝で名人戦最終予選に進出した。
名人リーグ入り!後3勝!!棋士たちが、まずは目標にするポジジョンが少しだけ見えてきた。
周りは格上の強敵ばかり。でも彼はその中に身を置きたくて、そして高みを極めたくてプロを目指した。これからも眼の前の一局に全力を傾けて強豪たちとそして自分自身と対峙してほしい。
ガンバレ長徳君


棋譜再生はコチラ

黒: 山田規三生 九段
白: 長徳徹志 二段
結果: 白196手まで 白番中押し勝ち

文責 風夢
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