ブログ人のサービス停止を受けて、昨年、gooブログに移りました。
その影響かと思いますが、このO橋君の記事が読まれにくくなったようです。これから槍ヶ岳登山を計画される方も増えてくる時期になります。落雷事故対策としてはとても有益な事例報告です。この記事を読んで雷事故から自分の身を守るための参考にして欲しいと思います。
効果があるかどうかは不明ですが、再度、2015/5/14にトップへ掲載します。
2012/8/25 O橋君から8月18日に発生した槍ヶ岳での落雷死亡事故に関する報告書が送られて来ました。多くの登山者が目を通しておいた方が良い報告書になっていると思いますので、ここに転載します。
O橋君も快く転載を許可してくれました。以下、O橋君の報告です。
O橋です.
残暑の厳しい中,いかがお過ごしでしょうか.
先日,16日~20日の4泊5日で西穂高口から槍穂を抜けて折立まで縦走してきました.
そのなかで,すでにニュース等でご存知の方もいらっしゃるかと思いますが,18日の槍ヶ岳落雷事故に目と鼻の先で遭遇することとなりました.
事故の一部始終を見ていた方に話を聞くことができましたので,当時のO橋の行動とともにご報告します.
ニュースサイト参照↓
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/yama/CK2012081902000187.html
http://www.yarigatake.co.jp/view/2012/08/post-270.html
◆ 前日(17日)からの状況
17日朝天気晴れ.午前中からガス多くなり,12:30に奥穂で雷鳴が鳴り始める.13:00から小雨.
13:30 穂高岳山荘着.15:00頃から本格的な雷雨.低気圧の通過に伴って下界では記録的な豪雨だった模様.明日は停滞の可能性濃厚と決め込むが,山の天気は午前中くもり,午後雨との予報なのでとりあえず朝の天気で見極めることにする.
夜も時折強い雨となるが,夜半頃にはやむ.
◆ 当日(18日)のO橋の行動
3:30 晴れていて星が見える.日の出まで待って天気を見極めることにする.
5:00 雲ほぼなし.午前中に大キレットを通過することとし,穂高岳山荘を出発する.
10:20 南岳小屋着.ここまで問題無し.ガスが出始める.
10:30 南岳小屋発.天狗原分岐付近からガス濃くなる.
11:20 中岳直下の雪渓の麓で雨が降り始める.すぐに強くなりレインスーツを着る.
11:30~強い雨.雨の降り始め方からして前線の雨と予想する(積乱雲の場合,一度雨が弱くなってから本降りとなる)が,あまりにも雨が強いので積乱雲の可能性を考え始める.雷鳴が一発でも鳴ったら即ビバークと決める.
11:50 中岳頂上直下20mで一発目の雷鳴.まだ遠い.20mほど下り,ハイマツの窪みでツェルトビバークする.次第に雷鳴,雨足強くなる.豪雨.
12:20までのあいだに直近での雷(雷光雷鳴差0.5秒以内)3回.地上に落ちているというよりは雲の中を横に走っている.
12:20 やや雷鳴遠のく感じがあるが直後にまた直近に一発.
12:50 雨弱くなり,雷鳴遠のく.10分間は近くで雷鳴がならなくなるまで待つことにする.
13:05 まだ雷鳴残るが間隔は次第に長くなっている.
13:07 横の登山道を人の歩く音がする.5名ほどのパーティ.そのあと2パーティほど続く.まだ早すぎると思い,しばらく待つ.
13:15 ほぼ雷鳴落ち着く.雲も高くなっているので行動再開.中岳頂上を足早に通り過ぎる.なんと先ほどの3パーティが頂上で写真を撮るなど休憩している.こんな危険個所で滞在するとは….
14:10 槍ヶ岳山荘着.笠ヶ岳,蝶が岳方面から遠雷が聞こえる状況.山荘前で事故の一報を聞く.穂先に登ろうとしている人がいるが山荘の人に止められる.
◆ 落雷事故の状況
・事故者を含むパーティ(6人)が登り始めたのは雷のピークが過ぎて遠雷になっていたころ.
・登るのを目撃した山荘関係者が拡声器で降りるように促すが,聞こえていないのかそのまま登る.
・事故時刻は13:10.降りてくる最中だった.
・落ちたのは1発のみ.雲も高くガスも晴れて遠雷になっていた状況.
・直撃だったかどうか不明.(ニュースによると落雷の影響で転落し,頭を打った模様)
・落雷後現場が慌ただしくなり,4人が穂先から降りてくるが2人降りてこず.
・1名心肺停止であるとの情報.
・15:20~15:30 雲の合間を縫って防災ヘリにより降ろされる.病院で死亡確認.
◆ 考察
前日から大気の状況は不安定で,当日午後からはいつにも増して雨雲の危険性があることは予想可能であった.ただし昼前から降り始めたのは少し意外であった.通常の積乱雲の雨の降り方と違い,急に豪雨になったこと,降りはじめから20分で1発目の雷鳴,それからごくわずかで雷のピークになったことを考えると,積乱雲の発達は非常に早かった.ただし今回の事故はピークを過ぎたあとで起こっており,積乱雲の発達の早さは直接の原因ではない.事故が起こった13:10はちょうど中岳直下でも遠雷になったころであったが,雷は雷鳴の聞こえる場所ではどこでも落ちる可能性があることを考えると,あの時間帯に北アルプスの避雷針とも言える槍の穂先に登ったのはあまりにも軽率と言える.
一方で,O橋も僅かに遅くではあるが同時間帯に中岳山頂を通過しており,事故リスクとしてはほぼ同じ状況下にあったかもしれない.もう少し長くビバークすべきだったのは反省点である.
今回の件で,被害者はもちろんのこと,たいていの登山者は雷に対しての警戒心が低すぎるとあらためて感じた.私がビバークしていた横を通り過ぎた人たちも,行動再開が早く,中岳頂上の危険地帯で休憩するなど遠雷がなっているにもかかわらず,「雷はもう通り過ぎていて安全である」と思っていたようだ.
被害者が登り始めた頃も,山荘関係者以外に止めるものはいなかったようであった(周囲の登山者の間で,登っても大丈夫な雰囲気になっていたらしい).
また,事故後,O橋が山荘に到着したころにも雷が鳴っているにもかかわらず穂先に登ろうとしている人が何人もいた.このような登山者と一緒に集団意識的に行動すると,知らず知らずのうちに事故リスクの高い行動をしてしまうだろう.
O橋K和
▲事故後、1時間ほどの状況。一時的に青空が見え始めている。(撮影:O橋 以下も同じ)
▲東鎌尾根での落雷事故(別件)の救助作業を切り上げて上がって来た防災ヘリ。
▲蝶ヶ岳方面にかかっている巨大な積乱雲。防災ヘリが救助中であるが、何度も雷光が走っていた。
* * * * *
僕にとって記憶に新しく、忘れられない落雷事故は奥多摩の本仁田山で起きたものです。「こんな所に落ちちゃうの!?」と驚くような場所で、ベテランの実力ある登山者が亡くなりました。
この事故を重く受け止めて、それまで以上に雷には神経を尖らせようと思うようになりました。
以下に奥多摩本仁田山落雷事故の報告書も載せておきます。併せて読んで下さい。