2014/11/8 星穴岳山頂では昼食を食べたり、ゆっくり過ごしました。最悪でも女坂の登山道に明るいうちに到着すればいいと思っていましたから、山頂に午前中に着き、時間的には余裕です。つまり、気分的にも余裕ということ。
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▲先ほどノーザイルで登って来た岩場を今度は懸垂下降で降ります。11:59ころ。
下山コースは幾つか考えられます。
最短コースは金洞山の西岳を過ぎ、南へ降りて、中之岳神社へ行くコースでしょう。
他にも、金洞山~鷹戻しを通過して、女坂を下るルート。
そして、僕たちが選んだのが星穴沢を下降して、女坂の登山道へ合流するルートです。
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▲隣りのピーク・金洞山です。近いピークが西岳なのだと思います。それ以外はまったく分かりません。歩いてみないと、本当に全然分かるものではありませんよね。12:00ころ。
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▲しばらくは登って来たルートを戻り、星穴岳とP3との間のコルまで来ました。
来るときに確認していた、懸垂下降の支点となる太い木があります。12:32ころ。
ここからの懸垂下降は50mザイル2本で行ないます。そのためだけに、僕もザイルを1本背負って来ていたのです。1本だけでも、途中で切りながら懸垂下降できるのでは、と思ったりしたのですが、念のために、やっぱり2本持って行くことにしていたのです。
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▲星穴沢源頭へ向けて、U田君が下降して行きました。12:37ころ。
ただの懸垂下降にしてはずいぶんと時間が経過しています。僕のところからはU田君の姿は見えません。予想外に時間が経過しても、僕に対する「続いて下降してもよし」とするコールが掛からないのです。
さすがの僕もしびれを切らして、どうなっているのか下へ向かって叫びます。4、50mも離れていては、返事があっても詳細が聞き取れる訳もありません。しばらくあって、僕が懸垂下降できるようになり、降りて行ってみると、U田君の時間がかかった理由がすぐに理解できました。
沢床にいるものと思っていたU田君が、左岸側壁にいるではないですか! 沢床には枯れ葉が厚く積もっていて、立てるような場所はおそらくないのでしょう。明らかなバンド状でもない限り、立つのは無理そうな傾斜です。しかも、支点になるような岩や木も一切ないのです。
ですから、側壁の木が生えている場所まで登り返して、その木を支点にするしかなかったのでしょう。
まあ、僕はその状況を見ながらU田君の方向へ行けばいいだけですから、側壁をへつるようにしながら、彼のもとへと行ったわけです。
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▲懸垂下降で1ピッチ下降した場所から見上げました。12:53ころ。
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▲2ピッチ目もザイル2本での懸垂下降です。沢床は写真ではなだらかそうですが、実際は嫌な急傾斜です。12:54ころ。
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▲2ピッチ目の支点がこれ。13:04ころ。
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▲2ピッチ目の懸垂下降も1ピッチ目ほどではありませんが、通常より時間がかかりました。最初の経験もありますから、僕も「やっぱり2ピッチ目も複雑なんだろうなぁ」と構えています。でも、それほどでもなく僕の順番となり、ザイルも回収して、写した写真がこれです。このトイ状の滝を降りて来たのです。13:20ころ。
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▲3ピッチ目の懸垂下降支点です。実際は右へ60度ほど回転させた角度の傾斜です。
ザイル1本での懸垂です。13:27ころ。
それにしても、この灌木へのめり込み具合はどうでしょう!? 幾歳の歴史がここまでの形を作るのでしょう!?
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▲1ピッチ目も2ピッチ目もそうでしたが、上から見ると左へ左へと回り込むようにして懸垂下降して行きます。ここも同様で、U田君はすぐに岩の陰に消えていきます。13:27ころ。
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▲ここは問題なく下降し、僕もすぐに続きました。3ピッチ目の懸垂下降ルートを見上げています。13:34ころ。
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▲もうクライムダウン出来そうと判断して、懸垂下降3ピッチ終了後は歩いて星穴沢を下りました。
僕が先頭で歩き、僕が落石に対処できる十分な間隔をあけて、U田君が後ろから続きました。写真中央に彼の姿が小さく見えています。13:43ころ。
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▲U田君が接近して歩いても、落石の危険がないほどの傾斜になって来ました。13:54ころ。
後方に見えている岩峰のどれかひとつがP3なのでしょうか?
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▲広葉樹の美しい森が広がるようになって来ました。14:05ころ。
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▲右から沢が合流するたびに、沢の右岸に移ります。そんなルートどりをしてさえいれば、女坂の登山道と合流するはずだからです。写真のこの小支尾根でしばし休憩しました。
右下にも別の沢がありますから、また沢を渡って、右岸に移動です。もうそろそろ登山道が出て来ると思っています。14:38ころ。
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▲なんとなく登山道っぽく見えるようになってきました。14:46ころ。
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▲登山道はとても不明瞭で道を失いそうになることもあります。この辺りでも分からなくなってしまいましたが、右岸を外さないように探すとありました。中央にU田君がいますが、手前に向かって薄っすらと踏み跡があるのです。14:52ころ。
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▲しばらくは比較的明瞭な登山道が続き、そして、分かりにくくなります。そろそろ左岸へと登山道が移るころあいなんでしょう。注意して歩いていれば、沢を渡る箇所は分かるはず。
沢を渡り、明瞭な登山道を進むと、見覚えのある標識が現れました。15:02ころ。
星穴沢橋のある林道にはすぐに到着します。徐々に薄れ始めていた緊張感も、林道で雲散霧消しました。
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▲朝は看板の文章などは読みもせずに無視して通過していました。一般的には「鷹戻し」は登山道なのですが、星穴新道は登山禁止の廃道なのです。15:08ころ。
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▲よく読んでみると、この星穴新道で死亡した二人の女子高生は僕と同い年なんですね。すごく活発で冒険心のある素晴しい女の子たちだったんでしょう。
僕が高校2年生の2月にこれほどの冒険的登山を実行するかと思うと、絶対にしなかったと思います。もし彼女たちが事故死しなくて、その後も登山を続けていたら、実力ある山屋になっていたことでしょう。尖鋭的なアルパインクライマーになっていたかもしれませんし、総合力あるヒマラヤニストになっていたかもしれません。群馬県の女子高生ですから可能性はありますよね。15:09ころ。
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▲枯れ葉の積もった林道を国民宿舎へ帰ります。15:13ころ。
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▲国民宿舎でお風呂に入りました。400円ですから、安いですね。15:26ころ。
最初の予定では、翌日に国民宿舎裏の木戸壁右カンテルートにも行く予定でした。しかし、翌日の天気が良くないということで、U田君本命の星穴新道だけ行くことになったわけですに
ちなみに、30年ほど前のことですが、木戸壁手前の木戸前ルンゼを登ったことがあります。スラブっぽい滝がずう~っと続く沢で、ザイルは特に必要ありません。
でも、若いU田君が星穴新道などというこんな渋いルートを行きたく思うとは不思議な感じがします。
他にもこの妙義の山域では相馬岳北稜へ行きたいのだそうです。長い尾根なので、1泊2日かかるようです。行く際には、僕もぜひ誘って欲しいものですね。
最後に、昭文社のMAP『西上州 妙義』について。
U田君も僕も昭文社のMAPを持っていましたけれど、見比べると、なんと! 僕のMAPには星穴新道に登山道が記載されているのです。もちろん、赤の破線でもなく、黒い破線でしかないのですけれど。
発行年を調べてみると、1999年。
帰宅して、もっと古い昭文社の地図がないかを調べてみました。すると、ありました! 1990年です。
なんと! そのMAPには星穴新道が赤い破線で記載されているではありませんか! 女坂は赤い実線。相馬岳北稜も赤い破線で記載されていました。天狗岳~白雲山~相馬岳~金洞山中之岳までの表妙義主稜線は赤い実線になっています。
僕は出来るだけ古い昭文社のMAPも捨てないで取っておきます。最新のMAPには載っていないようなルートも古いMAPに載っていれば、そこをルートとして利用できることが分かるからです。
(尾根筋のルートは比較的変化しないようですが、山腹のルートの崩壊は激しいですから注意が必要です)
その逆のこともあります。低山でのバリエーションルート流行りの影響で、昔はただの藪山だった尾根に、しっかりした踏み跡がつくことがあります。それがMAPに記載されるに至ることもあるのです。
古いMAPのそんな活用価値が僕は好きですね。