金曜日に降り積もった雪も日和田山ではすべて消えて、岩場も乾いていました。風もなく、気温も高く、最高の岩トレ日和。久し振りに寒さを感じない岩トレになりました。
この日は哲さんとW科さんのリードトレーニングが中心メニューです。N村さんは山行計画公表時点から参加を希望していましたが、パートナーとなってくれるメンバーがいませんでした。リードトレーニングですから、基本は2人1組がベストなんです。ギリギリ前日の土曜日までパートナー探しの努力を続けたのですが、見つかりませんでした。と言う訳で、W科さんには申し訳ない気持ちでしたが、W科‐僕パーティーに加わってもらうことに。岩トレを切望するメンバーを除外することなんて出来ませんからね。
高麗駅には8時集合。すっかり生活リズムが夜型になってしまっている僕は、朝早いのが苦手です。天覧山の時は少しの早起きで大丈夫ですが、それ以外の時は今の僕にとってはありえないほどの早起きなんです。2個セットしたアラームのお陰で何とか目覚めて、眠い中家を出ました。でも、陽が昇ったばかりなのに、さほどの寒さではありません。岩場に到着しても、さすがに最初のころは岩がまだ冷たかったですが、それもしばらくで解消。岩場も思っていたほどは混雑せず、我々の2パーティーはほぼ満足なトレーニングを行なうことが出来ました。
2023年2月12日(日) 日和田
哲‐K野パーティーは文字通りガシガシと登りました。哲さんはこの日1日で10ルートのリードが目標です。3級と4級ルート中心に10本リードしたそうです。1日に10本リードするためには、二人の登攀スピードも必要ですし、ザイルワークもスピーディーにこなせることも必須です。それらが皆できることで、10本のリードが可能になるのです。僕も以前、何人もの若者と同様のトレーニングをしたことがありますから、これを実行できた哲さんの成長度合いはよく分かります。
これからは、いろいろなゲレンデや本番の岩ルートで経験を積んでいくことが重要になると思います。マルチピッチトレーニングが出来るつづら岩、越沢バットレス、広沢寺、三つ峠等々、通って欲しいと思います。10本リードしても時間が余っていたこの2人は女岩南面右端の5.7ルートもトップロープで(ピンがないのでリードは出来ません)楽しんでいました。そればかりか、男岩東面(一般的には南面に含めていますが)の脆い前傾壁5.9をK野さんがリードしてしまいました。レッドポイントです! 凄いですね。 西面の松の木ハングも5.9ですが、松の木ハングの方がずっと難しいですから、このルートは5.9-かもしれません。僕でもトップロープでなら登れていますからね(今は登れないかも)。哲さんパーティーのご報告はこれで終了。時々目にして、後で話を聞いただけですからね。
▲9:26。哲さんが男岩南面の中央クラックに抜けるルートを最初にリードしました。
さて、W科‐僕‐N村パーティーです。僕個人的な希望としては4級+のルートを2本、最終的にリード出来ればこの日のトレーニングは満点だと思っていました。でも、やっぱりW科さんも人の子。リードのハードルは高かったようです。それでも4級+のリードを1本達成しましたから、合格点だと思います。リードした本数は6本、3人パーティーですから10本に到達しないのは当然です。
最初のころはリード後のフォロワーの確保のセットに時間が凄くかかっていました。少し慣れて来て、最初よりは短時間で出来るようになりましたが、もう少し早くなるといいですね。 日和田の岩場上部の確保支点はほぼどこも同じように作られていますから、毎回同じやり方で可能です。でも、ゲレンデによっても違いますし、沢登りや本番の岩登りではあり得ないような状況ばかりです。どんな時でも、すぐさま工夫して対応できるようにならねばなりません。数多くの経験を今後も積んでいって欲しいと思います。
さて、W科さんがリードしたルートの説明です。
●1本目
▲9:36。男岩南面中央のフェースから上部クラックに抜けるルート、3級+~4級-くらいですね。確か、哲さん達が登っていた(最初の写真)ので、その後を追ったのだと思います。確保するのはN村さん。
▲9:38。出だしのフェースを安定したバランスで登って行くW科さん。
▲9:43。上部を登るW科さん。青空が気持ちいいですね。
▲9:58。上部クラックを抜けるのに酷く苦しんでいました。この写真でよく分かりますが、上から3本目のプロテクションが右に寄り過ぎていて、ザイルが激しく屈曲しています。フリクションが強くなって、リードする人間にとってはザイルが凄く重く感じられてしまいます。このプロテクションは不必要だと思いますね。左を登っているのは哲さんでしょうか?
リードし始めの人間はピンを見るとどこででもプロテクションを取りたくなるものです。少しでも落下距離を短くしたいですからね。リードということもあるでしょうが、岩もまだ冷たくて大変だったようです。それほど難しくはないルートですが、時間がすごくかかりましたね。
▲10:06。右で確保しているのがW科さん。左は2本目をリードし終えた哲さんだと思います。
▲10:26。僕が中間でフォロウし、ラストでN村さんが登って来ます。この日の最初ですから、確保のセットに時間を要しました。
▲10:31。N村さんが登って来ました。写真の核心部もスムーズに登れます。
▲10:38。前の写真でW科さんが確保していた場所からは、もう少し岩場を登って安全地帯に出て、歩いて男岩基部まで降りることにしました。懸垂下降で降りることも出来ますが、この日は数多くリードしてもらいたいので、時間短縮のために歩いての下降を選んだのです。確保場所でザイルを外して、歩いてこの写真の位置まで来てもいいのですが、「あるものは利用する」主義の僕は、写真の安全地帯まではアンザイレン(ザイルで結び合った状態)したままで来るようにしています。右にいるN村さんはザイルを木に回してザイルアップしています。W科さんが落下するような万が一のケースでは、木に回したザイルで停止させ易いですし、木に括りつけて、固定もすぐに可能です。アンザイレンした状態のまま歩いて下りて、そのまま2本目のルートに臨みます。
●2本目
▲10:53。男岩南面左端のルート3級です。哲さんが登っていたルートですね。2本目はスムーズに登れました。1本目の半分の時間で登れています。
▲11:03。ゴール直下の小さなハング下までW科さんが登って来ました。左に回り込むと3級ですが、直上すると4級-くらいでしょうか?
▲11:06。W科さんは直上を選びました。ガバホールドが連続しているので、さほど難しくはありません。ここでの問題点を強いてあげれば、この写真で分かりますけれど、ハング下のプロテクションが短いくらいですかね。まあ、ほぼ終了点なのでさほど影響はなかったと思います。でも、この程度でもルートの途中だったなら、ザイルが上下の岩をズルズルと擦って、かなりザイルが重くなってしまいます。
ザイルの重さ繋がりでここでひと言。マルチピッチクライミングではザイルを2本引いて登ります。プロテクションを理想的にセットしていても、リードするクライマーにはザイル2本分の重さが当然のことですがのしかかります。1ピッチが40mともなるとその重さはそれなりのものなんです。それにプロテクションの取り方の拙さが加わると、その重さは致命的になる場合もあります。それ以上登れないほどに重くなることさえあります。プロテクションの取り方にはゲレンデでの練習時から注意してください。
▲11:20。2本目も僕が中間で、N村さんがラストです。1回目より2回目の方が、短時間でセット出来ました。
▲11:28。W科さんと中村さん。ここからN村さんがリードする形式で、先ほどの安全地帯まで進みます。W科さんは支点ビレイだった確保法をボディービレイに移し替えなくてはなりません。
●3本目
▲11:52。男岩南面凹角~右端上に抜けました。3級~3級+くらいですかね。
▲12:00。本当は右端上ではなくて、中央クラックのすぐ右を抜けて欲しかったんですけどね。W科さんが今いる位置の1mほど左ですね。問題なく登攀できました。まあ、最後は予定通りのルートを抜けられなかったのが心残りですけどね。
▲12:21。もう手慣れたものですね。
▲12:26。N村さんも順調にフォロウ。
●4本目
▲12:41。いよいよこの日の核心ルートへのチャレンジです。男岩南面右端の3段フェースルート4級+~5級-です。右端のカンテを使うとかなり易しくなるので(それでも4級~4級+あるのでしょうが)、カンテを使わないルールにしています。最初のトライでは指先が汗ばむのでチョークが必要になったのと、暑くなって上着を脱ぎたくなったので、核心部でクライムダウン。
これまでもそうでしたが、W科さんは意外なことに「怖い! 怖い!」と言葉を発するんですね。正直な心情吐露は悪いことではありませんが、リードする人の役割の中にはフォロワーを安心させることも含まれています。困難な滝の登攀でリードする人がいかにも難しそうに登ったり、不安な言葉を発すると余計な心配をフォロワーにかけてしまいます。「ここは思いのほか難しいよ。このガバが掴めれば安心だよ」とか言うのが良いリーダー(リードする人はリーダーです)ですね。せめて、「ちょっと厳しいから、張ってと言ったら張ってね」くらいの確保者への注意喚起程度にすべきでしょうね。トップロープで登るのとリードで登るのとの天と地ほどの違いをここまでもW科さんは感じていたようです。このルートではもっと感じたでしょうね。
▲12:55。上着を脱ぎ、チョークバックもぶら下げて、再チャレンジ!
▲13:05。実際、一度テンションがかかっています。でも、一度のテンションと一度の反則(右のカンテを掴んでしまった)だけでリード成功させました。素晴らしいことです。
▲13:19。2段目のフェースや3段目のフェースもそれなりに難しいのですが、問題なく越えて行きました。
▲13:38。N村さんをビレイしている時のルベルソによる支点ビレイシステムですね。
▲13:49。N村さんがしっかりとフォロウして来ました。素晴らしいですね。3段目のフェースもこの写真でN村さんの右手が掴んでいるホールドが正解です。さらにその10cmほど左のカンテは掴みやすいのですが、使わないルールにしています。
●5本目
▲15:07。昼食休憩後最初のルートは、3段フェースルートで反則指定されたカンテを登るルート4級-です。ホールドもスタンスも大きなのがたっぷりあります。でも、カンテの登攀は体の持って行き様が難しいんです。右に振った方がいいのか、左なのか、完全に右のフェース登りをした方がいいのか、カンテにいつ戻ればいいのか? さまざま考えながら、選択しながら登る必要があるんです。間違えるとバランスを崩して、難しくなってしまいます。
▲15:20。このルートも苦しみながら登っていましたね。でも、オンサイト! 厳密に言えば、アドバイスもあったのでオンサイトじゃあないのかもね。このルートはほとんど誰も登らないルートです。この写真のあたりが核心部。
▲15:49。僕はザイルから離れてここまで来ています。W科さんとN村さんには練習も兼ねて、アンザイレンしたまま。この写真ではN村さんが形式的にはリードの状態で安全地帯まで進みます。左に見えるクライマーはK野さんでしょうか? この時季に半袖の人間はK野さんくらいしかいませんからね。そうだとすれば、5.9-のルートをレッドポイントした直後でしょうね。
●6本目
▲16:07。女岩西面のチムニー4級を登って欲しかったのですが、他のパーティーがトップロープを張っていました。で、女岩南面の易しいルートをリードすることに。 本当は南面左端のカンテ沿いを登って欲しかったんですが、ピンが全然ありません (でも、哲さんはリードしたそうです。度胸がありますよね)。W科さんにはカンテの1.5mほど右のリングボルトでプロテクションを取ってもらって、その後は出来るだけ左端近くを登ってもらいました。3級の緩い傾斜ですから問題なし。
▲16:35。女岩の天辺は平坦な場所です。それでも練習で、N村さんにはより安全地帯までザイルを引いてもらいました。日没時刻も迫っています。
このルートを3人登り終えたのが16時38分ですから、リードトレーニングはこれにて終了。
▲16:59。哲さん達がトップロープを張った女岩南面の右端をW科さんも登らせてもらいました。最初は左のルート4級+(写真の位置より体ひとつ分、左より)くらいかな? これはトップロープですし、問題なし。次に右端、頭上のハング下のルート5.7です。 これもぶら下がりはしましたが、苦労の末突破。下向きクラックをアンダーで保持し、その上ではクラックをレイバックで使って登ります。哲さんはその前に登攀していましたね。
これで時間切れ。17時を過ぎています。他のクライマーたちはもう誰もいません。我々が最後のクライマーでした。
もう恒例のようになってしまっている、懐電つけての下山です。うどん屋さんでの反省会はいつも楽しいです。このために岩トレしている気もするほど。だからといって何が楽しかったのか、何を喋りあったのか覚えていないのが不思議ですね。あ! そうそう、ひとつだけ覚えていた話題がありました。Sだ、Mだ、とかいう話題でした。内容は想像にお任せしますが、SだMだの表現を借りた深い(w)人物評価だったように思います。
帰路はいたって真面目に電車の中の人に。どこぞやの議員のように吊皮で懸垂したりすることはありません。
一日中W科さんの確保をしてくれたN村さん、ご苦労様でした。K野さんもちょっと体調が心配な中、1本だけのリードで、哲さんのリードトレに徹してくれました。もちろんそういう計画を立てたのはK野さんですけれど、僕からもお礼を言いたいと思います。
哲さんは一人前のクライマーの直前に立っています。日和田以外の多様な3~4級ルートを数多くオンサイトし、安定した4級+のオンサイト能力を確立してください。
W科さんは一人前のクライマーへの道の入り口に立った感じです。日和田や他のゲレンデで数多くの3~4級ルートを登りたいですね。K野さんが忙しい時は哲さんや他の誰かとザイルを組んでトレーニング出来ればいいですね。
YYDにも一人前で自立したクライマーが育ちつつあることを実感しています。沢登りもさぞかし楽しいものになるに違いありません。沢登り以外でも岩壁に岩稜に楽しい挑戦が広がって行くと思います。