住友別子銅山など鉱山争議に臨む総同盟大会の姿勢 1925年の労働争議 (読書メモ)
参照「 協調会史料」(1925年3月日本労働総同盟大会議事録速記録)
1925年日本労働総同盟大会速記録から鉱山争議関連を抜粋
1925年(大正14年)3月15日、16日、17日、日本労働総同盟大会が神戸キリスト教青年会館で開催されます。この大会で取り上げられた労働争議、とりわけ鉱山・炭坑争議に関しての発言や決議などを協調会史料(大会速記録)からまとめてみました。
別子銅山では前年1924年10月に日本鉱夫組合別子鉱山支部(総同盟大阪聯合会長山内鉄吉が組合長)が結成され、別子銅山労働者は次々と日本鉱夫組合に加盟し、1925年に入るや〈臨時雇い制度撤廃〉などを要求した闘いを始めていきます。それに対し住友資本の別子銅山側は、職場に御用暴力集団を組織し、すさまじい暴力や買収で組合員の切り崩しを行ってきています。この年の総同盟大会はその最中です。しかし、本格的な労資の決戦的激突はこの総同盟大会から9ヵ月後の12月頃から翌年1926年にかけて起きます。
各地方組合からの状況報告
(関西同盟会報告)
昨年1924年(大正13年)2月大会以来、関西における1年間の争議件数は、合計59件。要求貫徹(全面勝利)26件、相当の条件で解決したもの19件、惨敗が14件。参加人数13,144名。(大阪西部交通労働争議を応援。広島因果島争議は約40日間一人の裏切り者も出さず、一糸乱れぬ闘いで相当有利な条件で解決を実現。大阪瓦斯争議は要求を勝ち取る。九州方面の三池炭坑争議もあります)。
(関東労働同盟報告)
関東における昨年の争議件数は54件、参加人数30,229名、争議日数617日、要求を八分以上勝ち取った争議は32件、六分の勝利が15件、惨敗が7件。
(炭坑・鉱山との闘いー全日本鉱夫聯合会 加藤勘十発言)
昨年、足尾銅山、山口県宇部、沖山炭鉱等の大争議が有利な形で終った。その一方で九州方面の資本家の切り崩し、鉱山資本家の横暴と圧迫、官憲からの攻撃が強まる。宇部鉱山では4月に宇部労働組合を1千人以上で結成したが、資本家の暴力による切り崩しで、ついに6月に労組を解散させられた。なお住友資本の別子銅山でも資本主側は暴力団を組織し組合の切り崩し攻撃をはじめている。我が組合は急迫たる状況に対して諸君の最大なる援助を乞う。我らは暴力団に対してはどれほど犠牲を払おうと、組合の自らの力で鉱山特有の運動(暴動?)で闘う。もし、別子銅山に一朝事有る場合にはなにとぞ諸君の力によって進みたいと今からお願いしておきます。
(別子銅山緊急動議ー山内鉄吉・関西同盟発言)
「別子銅山が暴力で我々を潰さんとしている。我々に対する挑戦でなくてなんだろう。日本の代表的資本家たる住友に向かって大会の名をもって警告し、もし拒否された場合は住友を叩き潰してやらなければならない」
「別子銅山における資本家に買収された裏切者・暴力団の攻撃に対しては全国の日本労働総同盟会員は死を覚悟して戦わん」
(別子銅山討議)
(大阪造船所組合員)
「暴力をもって我が組合を破壊せんとする団体に対しては、こちらもあくまで暴をもってやるのみ」
決議
「この場で5名の委員を選び、この場から住友本社に赴き、警告を発す」(満場異議なし)
代表5名選出
関西同盟 山内鉄吉
別子労働組合 高梨二男
関東同盟 徳永正報
大阪聯合会 長谷川某
通洞支部 滝沢猪之助
(住友に向かって出発する委員の発言)
只今、私ども5名の委員は住友本店に向かって出発いたします。万一住友の態度に誠意が欠く時は、本大会は直ちに大々的応援団を出して頂きたいことを出発に際してお願い申し上げます。
議長鈴木文治会長・・満場起立して拍手をもって送りましょう。
大会では鉱山問題として「婦人少年坑内就業禁止の件」「ヨロケ病保護に関する件」も討議、決議された
(「少年少女労働者の坑内労働禁止について」ー加藤勘十発言)
今、15才以下の少年少女労働者。工場法では12才以下の少年少女の労働は禁止されているが、我々がみている坑内では僅かに9才、10才の本当にみるも痛々しい少年少女が父や母に連れられて坑内に入り仕事を助け働いている。しかも一人前の青年男子であっても坑内で働いている者は、必然的に、その運命として「ヨロケ病」といって手も足も痺れてしまう危険な病になって死んでしまう。坑内の少年少女が危険を冒して働いていることは我々労働者の侮辱としなければならぬと思う。・・・世界のすべての国をみても婦人は坑内では働かず、抗内で働かせるのは英国の隷属地インドを除いて日本だけだ。英国では1850年法律で禁止している。今日日本の資本家が少年少女や婦人を坑内にて使用し、安い賃金で酷き使う目的はただただ自分の利益を得んためだけである。彼ら資本家は不浄なる金により栄華を手にしているのである。・・・本大会の名をもって政府に対し積極的に「少年少女坑内就業禁止」の実現を求めたい。
(山内みな子発言)
賛成。・・・男子と同じ仕事をしても安い賃金しか払われないことは、我々に最も不利益を与えるものである。安い賃金を支払う資本家に対しては、なんとしても反抗の気焔を挙げなければならない。その意味もこめてこの「少年少女坑内就業禁止」提案を満場の賛成で決議し、政府に迫っていきたい。
満場一致で賛成。
(「ヨロケ病」防止についてー加藤勘十発言)
ヨロケ病という病気があります。鉱山で働く者が鉱毒により肺を冒され、一種の肺病のようになります。鉱山以外では絶対にないのです。完全な職業病です。学者もみな職業病だと言っています。「ヨロケ」に罹った者を救う保護設備がないのです。「ヨロケ」に罹った労働者は炭坑から追い出され、苦心惨憺し、路上で死んでいくのであります。この虐げられた鉱山で働く労働者の悲惨な運命を想像して欲しい。大正12年(1923年)において、死んだり傷ついたりした労働者の数は、86,492名です。鉱山で死んだ数は1,974名であります。こんなに沢山の死者は坑内労働を除いて他にはないのであります。しかも坑内で働く者はみな肺を侵され病気になる。空気の混濁した状態で、しかも坑内は30度、39度以上という高温のところも多く、どんな健康な持ち主でも相当の疲労と肺を侵されるのは当然であります。・・・一日も早く政府を動かし機会あるごとに鞭達し、一刻も早くヨロケ病防止の法律を作らせたい。
加藤勘十の声涙共に下る訴えに会場全体も感動し、満場一致で賛成決議。
(山内みな子ー女性問題で発言)
婦人部設置賛成。私ども婦人は男子と異なった家庭家事という重荷をもっているのであります。この何千年昔からの強制的因襲習慣は今も少しも変わらぬのであります。・・・今や男子一人が働くのでは到底生活をすることは出来なく、何万人という婦人労働者が登場したのであります。婦人労働者は常に男子から一般に侮辱させられてきたのでありますから、私たち婦人は、どうしても多く結束しなければならないのであります。組合の婦人部設置に賛成します。
鈴木会長・・・満場賛成と認めます。
(「臨時雇い制度廃止の件」ー 野田律太(大阪聯合会)発言)
臨時雇い制度は・・・臨時という名をもって不利な労働条件を強制し、解雇手当(退職金)その他の件で人道に悖(もと)る、また生存権を蹂躙するものである。ある工場のごときは、毎日、日常雇入の者に日払いの給料を支払っているのであるから、民法で定まった14日間という規定に該当しないように、2週間の手当を避けるために14日間毎日契約書を作り直しているのであります。昨年労働組合北支部の発動機会社の争議は臨時職工14日間契約制度の原因で争議が勃発したのであります。この争議が勝利した結果、この会社の臨時雇い制度は無くなったのであります。この工場の近隣の工場においても14日限りの契約をしているところも無くなったのであります。要するに色々な手段をもって資本家階級は労働組合の組織を蹂躙しているのであります。この臨時雇い制度に対しては各方面の運動方法を継続し、積極的に奮闘され、この趣旨を一般社会に機会あるごとに宣伝していき、民法上の雇用契約条項の改正を目指し、各地の様々な積極的運動で臨時雇い制度を廃止させたい。
満場一致で可決
(全国で奮闘中の争議団へ送った今大会からの激励電報文面)
「息の根の続く限り奮闘せよ 日本労働総同盟大正14年度大会」