ビラ「失業運動につき組合員諸君に告ぐ」
参照
ビラ「失業運動につき組合員諸君に告ぐ」失業者運動全国労働組合同盟発行
「日本労働年鑑」第4集 大原社研編
ビラ「失業運動につき組合員諸君に告ぐ」(上の写真)
失業運動につき組合員諸君に告ぐ
資本家階級の国際的利害の為に戦われた世界大戦は日本にも三十万の失業者を産した。失業者は資本主義の制度の生産物であり、資本主義生産の一支柱である。従って資本主義の存する限り、労働階級は失業の脅威を免かるることはできないが、しかも未だ今日のごとく失業の脅威を痛感したことはない。
失業者はすなわち産業予備軍である。産業予備軍の存在と増大とは、労働者の間に職業の争奪、賃金の競争、組合条件の廃置を惹起せしめ、労働者の生活標準を下落せしめ、労働者の階級的戦闘力を減殺する。すなわち資本家階級の独裁的権力を増大し強固にする最大の仕掛けである。ゆえに我々は資本主義制度の破壊によって失業の根絶を期すると共に、当面の問題として、まず失業の防止、失業者の救済に努力しなければならぬ。
失業の巨石は日夜我々の頭上に転落しつつあり、労働者はすでにこの苦痛に悩み、あるいはその予期に脅(おび)えつつある。
今は実に、失業者も就職者も、共に起ってこの資本主義の害悪に争闘拮抗すべき時である。我々は当面の問題として、失業の防止、失業者の救済を図ると共に、この現実の痛切惨烈なる経験によって、労働階級の階級意識を喚起し、資本主義の破壊に対する驀進的運動を促進しなければならぬ。
我々はかくの如く信じこれが当面の対策として、軍縮剰余金の譲渡、八時間労働制の施行及び残業の廃止、最低賃金の確立、対露通商即時開始、失業中の生活保障及び労働組合の職業紹介機関管理等の具体的項目を掲げて失業運動を起こさんとした。しかるに一部組合幹部諸君はこの問題についても単に資本主義の撤廃を叫ぶのみにして、現実問題の解決策をたてることに絶対に反対し、我々と運動を共にすることを拒んだ。すなわちこれらの諸君は観念論に淫して一般労働階級の利害に対して極めて冷淡なる態度を取り、餓死に迫る三十万の失業者を見殺しにし、失業の脅威の下にある労働者を空しく資本主義の犠牲に供せんとするものである。労働組合は単なる革命団体ではなく労働階級の経済団体である。ゆえに我々は失業問題のごとき労働者の生活にもっとも密接緊要な大問題の実際的解決を閉却しさらんとするこれらの諸君の意志に従って行動を共にすることはできない。一般労働階級の利害を無視してその戦線を乱し資本階級に利を与えるものは実にこれらの諸君である。我々はこれらの諸君に関することなく緊急の運動を進めなければならぬ。
我々は信じる。かくのごとき一部諸君の主張は決して一般組合諸君の意志ではなく、これら少数幹部の思想によって多数の意志を蹂躙せられた組合諸君は必ずやがてこれらの幹部と手を別つに至るであろうと。
失業者運動全国労働組合同盟
(感想)
不況、大量解雇、倒産等による大量な失業者が巷にあふれた1921年、22年頃の先輩労働者のビラの一つ「失業運動につき組合員諸君に告ぐ」〈失業者運動全国労働組合同盟〉です。このビラは、失業者は何故生まれるのか。失業や貧困は資本主義制度の生産物なのだ。資本主義社会が続く限り、我々労働者は絶えず失業の苦しみとその恐怖から逃れることはできないのだ。しかも不況による大量な失業者の存在は、労働者階級の階級的戦闘力を弱め、資本家の独裁権力を一層強める。だから資本主義社会を無くさねばならない。と同時に今、目の前にいる仲間たちの問題、失業問題に対して具体的にその救済や改善の運動を進めなけれはならない。
一方で一部労組幹部は、「資本主義はおかしい、資本主義を無くそう」と観念的に口で叫ぶだけで、実際に目の前にいる仲間たち、圧倒的労働者の苦しみに対しては、何一つ具体的運動をしようとしない、考えもしないと批判します。
このビラには、色々考えさせられました。今の大労組、どうだろうか。第一に、失業問題を語る時、真正面から真剣に資本主義社会・制度を批判・暴露しているだろうか。第二に、同時に目の前のいる仲間たちの苦しみに対する具体的救済運動を提起・参加しているだろうか。第一の観点が抜けた失業者救済運動は結果的には体制の補完物となり、第二の姿勢が抜けた運動は観念的(左翼)おしゃべり集団だが、今は、第二は勿論、第一の資本主義批判すら念頭にない大労働組合、労組幹部が多い。それどころか、「失業問題」をまじめに自分の組合で討論しているところがどれほどあるだろうか。昨日まで職場の同僚であった仲間たちが、コロナ禍であれほど職場を追われているというのにただの一つも抗議のストライキをやろうともしない大労組。しかし、希望はあると思う。真剣に資本主義社会を批判し失業や貧困問題と取り組み、日々未組織の労働者に決起を呼びかけ、不当解雇や差別と闘い、非正規労働者や外国人労働者と連帯する九州や北海道や全国のユニオンや全国一般や心ある労働組合が奮闘しているから。
1920年代治安警察法時代の弾圧下にこういうビラを労働者に配布する先輩労働者、またそれを受け取る仲間たちから学ぶことは多い。
*************************************************************************
1922年の対失業運動
1921年(大正10年)12月11日よりの官業労働総同盟大会2日目、「失業手当最低日数2カ年分の支給」を満場一致で決議可決した。同年12月14日・15日と連日、呉海軍工廠労働者有志が「失業問題演説会」を開き、当局に対して「失業手当1ヶ年分を最低限度とする事」等と「失業者救済」を要求決議した。また呉海軍工廠労働者有志は翌年1922年1月8日、賀川豊彦や向上会幹部による失業問題演説会を昼と夜二回開催した。当局は演説会を妨害しようと当日は日曜であるのに労働者に全員出勤を命じてきたが、演説会はいずれも盛会であった。
1922年1月4日、日本労働総同盟本部で全国労働組合大会を開催し、以下の決議をした。
一、我々労働者は国際戦争の絶滅を期する意味において軍備制限に反対するものではない
一、軍備制限によって失業者を続出せしめ我々労働者をして更に大なる生活不安の脅威に面せしめたる全責任は挙げて支配階級にあり
一、我々労働階級はその独自の力により当面の問題解決に対し、最善の努力を致さんことを期す
同年11月2日大阪天王寺公会堂において、野武士組主催により、「関西失業者大会」が開催され以下の宣言が決議可決された。
宣言
失業の不安漸くその極に達し、我々労働者は生命の保障をさえ奪われんとしつつある。しかも政府に何らの施設なく資本家に何らの誠意もない。我々失業者は自ら起って、自己の生命を防衛するの必要に曝(さら)されている。
我々失業者は自らの体験によって、失業の惨苦が資本主義の害悪と共に長いことを知っている。我々は慈善を欲しない。我々は労働の威力をもって資本主義の牙城を覆し、そのは廃墟に失業なき世界の殿堂を建設せんとするものである。
けれども、今現実に餓死せんとする失業者の大群を前にして、これが生命の保護の緊急事なるに鑑み、本大会は左の四項を決議し、もって資本家とに向かい、その遂行を監視するものである。敢て宣言する。
決議
一、政府は速やかに失業保険法案を作成しこれを労働組合に提議すべし
一、政府は職業紹介事務を全国的に統一し自らの責任をもってこれを行うべし
一、政府は公共事業を起こし失業の緩和を図るべし
一、解雇手当は一年の生活を保護することをもって最低標準とすべし