今治市の下町食堂「日高屋」さん。
ここの中華そばが美味しいので、原付バイクで90分
ほど走り、今まで何度も訪問したのである。
数か月前にも「まじりん」さんは、数ある店の中から、
やはり日高屋を取り上げ、べた褒めしてましたっけ。
どう見ても80歳を疾うに過ぎている女性が二人で店
を切り盛りしているので、閉店の日もそう遠い日では
ないと、いつも想ってはいたのだった。
その癖、昨年6月以来の訪問なのだから、私の不精
は情けない限り。
(そろそろ行かなくちゃ)と重い腰を上げ、先週土曜の
開店時に到着したら、暖簾が出ていない。
でも、引き戸が開いていたから店内に入ってみた。
するとお婆ちゃんが一人が居て、私の顔を見るなり掌
を胸の前に合わせ、次のように言ったのだ。
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「ごめんねぇ、折角来てくれたのに。おとついやったと
思うけど、うちの妹がここでこけてなぁ。ここの辺りの骨
を折ってしもて・・・、直ぐに入院や。ほいで、色々ワヤ
(注1)やけん、店を開けんとこ、思うてなぁ」
今の今まで知らなかったが、二人は姉妹だったのだ。
で、いつも飛び切りの笑顔を見せてくれる人が妹さん
の方で骨折したのである。
「そういうことでしたら、大変な時にお邪魔して申し訳
なかったですねぇ。私はいつでも来られる身ですから、
次は妹さんが復帰した頃に来ますから」と私は言った。
「あんた、遠い所から来なさったのか」
「それほどでも・・・。松山の道後ですから」
「じゃあ、お湯を沸かせばでけるけん。待ちなさるか」
「お気持ちだけで結構です。わざわざ私の為に・・・」
「いいから、いいから。いま、作るけん」
姉の方も膝が悪く、ひょこひょこと厨房に向かう。
申し訳なく思えてきて、後を追いかけ、厨房の暖簾を
くぐり、「せっかく作って下さるのなら二人前を下さい。
私は大食漢ですから、存分に味わって帰ります」
「大盛もでけるんよ」
「知ってますよ。でも、二杯食べたいんです」
お姉さんは、私の言葉が愛媛県の言葉ではないことを
察し、作ってやろうと思ったのだろう。
突然の妹の事故で気力が萎えているのに、なんという
優しさなのだろう。
二杯の中華そばが同時に出てくるものと私は思い込ん
でいたが、約10分待って出てきたのは一杯だった。
出し終えるとお姉さんは踵(きびす)を返し、直ぐ厨房
に戻って行った。
麺が伸びては・・・という配慮と、その時に気付いた。
「早喰いだから、同時に作って一度に出して下さい」と
言うべきだったのだ。
お姉さんの配慮に比べれば、私の何と愚かなことよ。
一杯目を食べ終えると、1分後に二杯目が出てきた。
私が中華そばの写真を撮るので、「近頃は写真を撮る
人が居て不思議やなぁ」と笑いながら言った。
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二杯目を食べ終えて、また写真を撮った。
テーブルの向かいに座ったお姉さんと少し話した。
長居するのも迷惑だろうと思い、立ち上がり、靴を履き、
千円札を渡した。一杯430円だから、860円である。
厨房に戻ったお姉さんが、にこにこしながら厨房から
出てきた。
そして、その直後、私を驚かせたのである。
長くなったので今回はここまでとし、続きは次回(明日)。
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【補足】
伊予弁(わや)の意味。
「汚い。ごちゃごちゃしている。大変。混乱している。」
だから、「ほいで、色々ワヤやけん」の場合は、妹さんの
突然の怪我で頭が混乱している、ごちゃごちゃしている、
という意味である。