地球上にある8000m級の山はすべてヒマラヤ山脈にあり,その数は14。日本人で誰も達成していない全山登頂に挑んだ登山家竹内洋岳さん(41歳)。21年を掛けて13峰を登り,最後に残ったダウラギリ峰(8176m)登頂への挑戦をカメラが追った。
ダウラギリは成功率が2割という最も困難な山。雪崩によって過去60人以上が命を落としている。一昨年には日本人3人が犠牲となり,うち2人は今もなお行方不明という。
竹内さんは一人の同伴者を伴って登頂に挑むが,その同伴者は7000mを超えたところで高山病のために下山。テレビクルーも下山したため,以降竹内さんは「死の領域」と言われる高みへ単独かつ無酸素で登ってゆく。遠くから望遠レンズが映したその姿は凄まじい。そして困難の末に登頂に成功。
「私はこの登山というもので,自分の命を完全燃焼しつくすつもりです。その覚悟をしているんです」。
そう話す竹内さんの語り口や態度は,言っている言葉とは裏腹に,恬淡としていた。それがとても印象的だった。
「ベースキャンプを出て頂上に行って帰ってくるまでは,息を止めて水の中を潜って,深い池や淵の底に触れて,息が続くうちに浮かび上がって帰ってくる。そういう感覚だと思っているんです」。
「ですから,ベースキャンプに帰ってくるまで,いかに無駄なく動いて行って帰って来れるか。これがポイントだと思います」。
冷静で慎重,合理的思考の持ち主でなければ,人間の限界に挑むような,大きな挑戦を達成し得ないのだろう。
そんな竹内さんも,ガッシャーブルムという山の登頂に成功した時は,頂上で咽び泣き,同伴者に抱きかかえられていた。まるで赤子のように…。
実は竹内さんは前年に同じ山で雪崩に巻き込まれ,死の淵を彷徨ったうえで生還。背骨と肋骨を骨折したためボルトを入れたが,医者に復活は絶望的と云われた。しかしリハビリを経て,なんとで1年後に再びチャレンジして登頂に成功したのだ。
とても,とてもいい番組だった。竹内さんの人格にも惹かれた。また後でもう一度観たい。