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京都文化博物館「ターナー」展 ~光の使い方の変化がよくわかる

2018年02月21日 | 美術館・展覧会


ターナー展が三条通にやってきた

京都文化博物館で「ターナー展」が始まっています。ターナーはイギリスで最も尊敬される画家の一人で、空気と光を絶妙に表現した風景画にファンが少なくありません。

今回はスコットランド国立美術館の所有作を中心に世界中から作品が集められています。西洋絵画では珍しいターナーが得意とした水彩画には、油絵にはないほのぼの感があふれています。日本国内でターナー作品のコレクションで知られる郡山市立美術館からの出展作品も注目です。

イギリスは絵画に対する嗜好が、他の欧州諸国とは少し異なるところがあります。1つ目が「風景画」です。欧州では伝統的に歴史・宗教・肖像画が重視されましたが、それらは国王・領主・教会等の権力者からの依頼で制作されていました。風景画が一般的になったのは、19c後半にフランスで印象派が認められてからです。

それ以前の数少ない風景画家としては、17c半ばのオランダにロイスダールがいました。雄大な雲の表現で知られる彼は、貿易で大金持ちになった市民階級が好んだ風景画のニーズに応えました。また18c前半ヴェネツィアのカナレットは、観光土産としてまるで写真のような風景画を、工房を指揮して量産しました。彼が西洋画家の中でも指折りの多作で知られるのはこのためです。

ターナーの時代のイギリスも、オランダと同じく市民階級が台頭していました。市民階級が台頭すると、旅への郷愁を誘う風景画が流行します。日本の広重の浮世絵・東海道五十三次も同じです。ターナーはまさに風景画ニーズが大きくなる時代に生まれてきました。ターナーとほぼ同世代のイギリスの風景画家・コンスタブルが人気を博したのも、そうしたニーズに応えることができたためです。

イギリスの絵画嗜好の特徴の2つ目は「水彩画」です。水彩画は古くからありましたが、18cのイギリスでは、旅行土産・出版物への掲載・探検や測量の記録といったニーズで水彩画が大きく普及しました。油絵に比べてより早く大量に簡単に描けるからです。

ターナーはこのイギリス絵画の特徴である2つを極めた画家でした。2020年に発行される新ポンド紙幣に彼の自画像が採用されるようです。イギリス国内でどれ程の尊敬を集めているかがよくわかります。

【公式サイトの画像】 「風下側の海辺にいる漁師たち、時化模様」

ターナーは、イギリス国内はもちろん、欧州大陸各地を旅して風景をスケッチしました。中でも1819年のイタリア旅行で感じた明るい陽光は大いに彼を刺激したようです、以降、光をより際立たせる傾向が出てくるようになります。

「風下側の海辺にいる漁師たち」はイタリア旅行前の1802年の作品です。彼はロマン主義と言われるように、荒波と戦う漁師たちの姿を何ら美化することなく赤裸々に描いています。この時点ではまだ光の表現は際立って強くはありません。

【作品所蔵先公式サイトの画像】 東京富士美術館「ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号」

「ユトレヒトシティ号」は1832年の作品です。帆を一杯に掲げて力強く出航する船に、見事な光のスポットライトを当てています。彼は1851年に亡くなるまで、さらに光を強調して描くようになります。この光の使い方ゆえに、印象派の先駆者と言われることもあります。モネ達フランスの印象派の画家がどの程度ターナーの作品を見ていたか、いつか調べてみたいと思います。

他にもほのぼのとした水彩画や版画がとてもたくさん出品されています。
ぜひ足を運んでみてください。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



名作はなぜ名作に見えるのか?


京都文化博物館 「ターナー 風景の詩」展
http://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/turner/
https://turner2018.com/

主催:京都府、京都文化博物館、毎日新聞社、MBS、京都新聞、スコットランド国立美術館群
会期:2018年2月17日(土)〜4月15日(日)
原則休館日:月曜日
※展示作品は、展示期間が限られているものがあります。
※この展覧会は、福岡(北九州市立美術館)展終了後、京都に巡回しました。京都展終了後は、東京(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)、福島(郡山市立美術館)に巡回します。


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