Wind Letter

移りゆく季節の花の姿を
私の思いを
言葉でつづりお届けします。
そっとあなたの心に添えてください。

今日の風

2020-05-14 14:15:39 | 詩作品

                   

 

        

 

         母さんが生まれた時も
          やはり今日の風が吹いていたでしょう
          生きていくことはいつも
          今日の風を迎えています

          戦後をひたすら生きる
          父母の姿にも
          遊びの楽しさの幼い日々にも
          やさしい今日の風がありました
          そして、眠る際に見た
          闇に輝いていた山の月に
          今日のおしまいを感じたものでした

          いくつもの季節が廻り
          いくつもの時間が過ぎても
          同じ風は決して吹いていません
          いつも新しい今日の風が
          母さんを包んでいました

          一人の男性と出会い
          あなたたちが生まれ
          うれしい風が吹いたり
          悲しい風が吹いたり
          不安の風が吹いていました
          今日の風には名前のない強さがありました

          愛おしさと 親のエゴを重ねながらも
          母さんは夢中であなたたちの
          育ちゆく姿を追いかけましたが
          何を伝えたかも覚えていません

          大小の悲哀はあっても
          日常生活の延長の営みを想像していましたが
          想像しないことが起きうることを
          今日の風は知らせています

          コロナウイルスの蔓延は
          生きることの もがきを映し出し
          繁栄と自由に巣くっていた落とし穴を感じます
          それは嘗ての人々がのぞいた苦しみで
          過去でも 現代でも生きることへの人族の
          同じ心の振り子のありかを示しています

          ふと見ると庭の餌箱で
          小さな体で細心の注意をはかり
          二羽の雀が古米をついばんでいます
          コロナウイルスを忘れるような
          かわいい命の風景です
          外は人通りがない静けさです
          見上げると
          天は深く青く広がっています
          いつか、今日の風が人々に笑顔を連れてくることを
          母さんは祈ります

          気遣ってくれるあなたたちに
          父さんと母さんは感謝しながら
          母さんは父さんと過ごせる残された時間をはかっています
          5月の風は鯉のぼりを
          青空にすがすがしく上げています

          そして母さんは今日の風を迎えています

 

 

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