高安ミツ子
四十雀(しじゅうから)がさえずり
紫陽花は沈めた時を掬い上げるように
海の青さで六月を咲いている
雨は蕭々と降っている
過ぎた時間に傘を傾けていくと
長い人生の茂みで揺れた思い出が
青い紫陽花からこぼれだしてきた
今年も夏祭りがやってきた
義母手作りの浴衣を子供たちに着せ
神社まで続いた華やいだ紫陽花の坂道は
日ごとに遠のいていき
日ごとに昔話になっていく
あの時のように花火が上がっても
生きることの風景は色褪せている
庭に咲く紫陽花の群れは私の心と絡み合い
今日の寂しさに揺れている
時に抗(あらが)うように
家中を紫陽花尽くしで飾っていくと
消えてしまった思い出がゆっくりと集まり
逝ってしまった人々との別れの深さが
哀愁おびた懐かしさで蘇ってくる
やがて哀愁は愛おしい水たまりになって
私の心時計をやさしく動かしていく
花てまりの中で
くるくるまわれ 私の思い出
くるくるまわれ 私の物語
くるくるまわれ 今日の歩み
紫陽花はいくつもの人の物語を染め
生きる残り香を連れて私の後ろ姿も映していく