【まくら】
この咄の中で町内の連中がやることになったのは『天竺徳兵衛韓噺(いこくばなし)』の忍術の場面である。このシーンには巨大なヒキガエルが登場する。ケレンで有名な歌舞伎で、江戸時代の人たちも見世物を見るような感覚で楽しんでいたのだから、落語にするのはぴったりだ。ちなみに、赤いふんどしも歌舞伎の舞台を思わせる。歌舞伎でよく使うのである。
ところで天竺徳兵衛は、1612年に播磨国で生まれた実在の人物だった。角倉(すみのくら)船やヤン・ヨーステンの船に乗って、タイや東南アジア各地で商売をしていた。江戸時代初期は約十万人の日本人が、東南アジア各国の日本人町に進出して貿易をおこなっていたのである。この歌舞伎はそのころの徳兵衛の見聞記がもとになっている。江戸時代の人々は異国趣味が大好きだった。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
江戸時代。お芝居好きが講じて自ら舞台を造ってやりだすお店が増え、あまりのブームに「贅沢禁止令」が出たほどの盛り上がりを見せた。
明治を過ぎ、そんな規律が緩みだすとまたお芝居をやろうとする連中が出現。
そういう輩に限っていい役をやろうとするため、配役を決めようとするたびに物凄い騒ぎになっていた。
例えば、仮名手本忠臣蔵の五段目、通称「鉄砲渡し」の場をやろうとすると、みんな「早野勘平」あたりに集中してしまい、「与市兵衛」なんて誰もやろうとしない。あまりの騒動に世話人も嫌になってきて、志願者全員に「勘平」役を振ってしまった。
おかげで、「鉄砲渡し」の幕が開くと「勘平」か30人ばかりズラ…。客がびっくりして「あれは何?」 「あぁ、さしずめ勘平式(歓兵式)でしょう」。
こんな騒ぎにならないよう、くじを作って配役を決めてみたもののやはり揉め事が起こってしまう。
「天竺徳兵衛韓噺」で『忍術ゆずり場』のガマ蛙に当てられてしまった伊勢屋の若旦那が、本番当日に仮病を使って休んでしまったのだ。
おかげで芝居が始まらず、頭取(舞台の一切を取り仕切る役)を仰せつかっている番頭さんは大弱り。
あれこれと悩んだ挙句、丁稚の定吉が芝居好きなのを思い出し、『お駄賃』と『特別休暇』をあげる条件でようやく代役を承知させた。
これで一安心…と思いきや、今度は「舞台番」(舞台ソデで客の騒ぎを鎮める役)に当てられた建具屋の半公がいつまで待ってもやって来ない。
仕方なく定吉が迎えに行くと、半次は「この前、だんなに『今度化物芝居の座頭に頼む』と言われた」と怒っていた。
定吉から話を聞いた番頭さんは、『半公が岡惚れしている小間物屋のみい坊が、「役者なんかしないで、舞台番に逃げたところが半さんらしくていい」と言っていたと告げて半次を釣れ』とアドバイス。
罠にかかった半次は、どうせならと、自慢の『緋縮緬の褌』を質屋から急いで請け出し、ついてに銭湯で入念に「男」を磨こうと思いついた。
番台の親父に褌を見せて「いい褌だろ?」
「へぇへぇ、確かにすごい…」
「切れ目の目方がいいんだ。物が良いから丈が長ぇや」
「なるほど」
「咥えてみないか? 引っ張るとチリチリっていい音がする」
「冗談言っちゃいけませんや」
「あ、ところで油紙はねぇかな? 褌を包んで、頭に結わいつけて湯に入るんだ」
「大丈夫ですよ、番台でしっかりと預かっています」
番台が言うんで素直に褌を預け、湯に…入っていると、定吉があわくって駆け込んでくる。
半次がなかなか来ないので、焦った番頭に呼んでくるよう言われたのだ。
定吉は番頭さんに言われたとおり、「早く来ないとみいちゃんが帰っちまう」と半次をせかす。
慌てた半次は湯から飛び出し、体を拭くのももどかしく着物を着て、ハスッカイになってビュー…!!
褌はまだ番台の上。
会場へと向かう途中、出入り先の鳶頭に出会ったんで「いいモノだろ?」
「おぉ、確かにすごい…」
「切れ目の目方がいいんだ。物が良いから丈が長ぇや」
「なるほど。気が小さい奴が見たら目ぇ回すぜ」
「咥えてみないか? 引っ張るとチリチリっていい音がする」
「冗談言うな!!」
鳶頭が何か言うのを制して、半次はお店へと駆け込んだ。
さて、ようやく幕が開いた。
客はもちろん、舞台番何ぞに目もくれない。半公は、みいちゃんが居ないので(当然だが)『褌』の趣向に取り掛かろうと考える。
客が静かに芝居を見ているのに、「騒いじゃいけねえ」と一人で騒ぎ立てて一同がこっちを見たところで威勢よく前をバッ!!
「あれは七宝細工か!?」
「作り物じゃ在りませんよ…」
場内騒然。酔狂な客が「ようよう、半公、日本一! 大道具!」と褒めたので、調子に乗った半次はいっそう派手に尻をまくり、客席の方に乗り出していく…。
この間にも芝居は進んで、いよいよ見せ場の「忍術ゆずり場」。
大盗賊の徳兵衛が、赤松満祐の幽霊から忍術の極意を伝授される名場面だが、ドロンドロンと『大どろ』が鳴っているのにガマの定吉が出てこない。
「おいおい、定吉! 早く出なきゃあだめだよ!!」
「いいえ、ガマ蛙は出られません」
「なんでだ?」
「あすこで、青大将がねらってます」
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
ぶっつけ落ち(互いに相手の言うことを別の意味にとったもの)
【語句豆辞典】
【青大将】日本に居る蛇のうちでは一番大きい種類。男性の象徴。それも巨大なものの隠語。
【この噺を得意とした落語家】
・十代目 桂文治
・三代目 三遊亭金馬
・六代目 三遊亭圓生
・五代目 春風亭柳朝
【落語豆知識】
【つかみこみ】別の噺のくすぐりや山場などを取り入れてつなぎ合わせて演じること。行儀の悪い芸とされた。
この咄の中で町内の連中がやることになったのは『天竺徳兵衛韓噺(いこくばなし)』の忍術の場面である。このシーンには巨大なヒキガエルが登場する。ケレンで有名な歌舞伎で、江戸時代の人たちも見世物を見るような感覚で楽しんでいたのだから、落語にするのはぴったりだ。ちなみに、赤いふんどしも歌舞伎の舞台を思わせる。歌舞伎でよく使うのである。
ところで天竺徳兵衛は、1612年に播磨国で生まれた実在の人物だった。角倉(すみのくら)船やヤン・ヨーステンの船に乗って、タイや東南アジア各地で商売をしていた。江戸時代初期は約十万人の日本人が、東南アジア各国の日本人町に進出して貿易をおこなっていたのである。この歌舞伎はそのころの徳兵衛の見聞記がもとになっている。江戸時代の人々は異国趣味が大好きだった。
出典:TBS落語研究会
【あらすじ】
江戸時代。お芝居好きが講じて自ら舞台を造ってやりだすお店が増え、あまりのブームに「贅沢禁止令」が出たほどの盛り上がりを見せた。
明治を過ぎ、そんな規律が緩みだすとまたお芝居をやろうとする連中が出現。
そういう輩に限っていい役をやろうとするため、配役を決めようとするたびに物凄い騒ぎになっていた。
例えば、仮名手本忠臣蔵の五段目、通称「鉄砲渡し」の場をやろうとすると、みんな「早野勘平」あたりに集中してしまい、「与市兵衛」なんて誰もやろうとしない。あまりの騒動に世話人も嫌になってきて、志願者全員に「勘平」役を振ってしまった。
おかげで、「鉄砲渡し」の幕が開くと「勘平」か30人ばかりズラ…。客がびっくりして「あれは何?」 「あぁ、さしずめ勘平式(歓兵式)でしょう」。
こんな騒ぎにならないよう、くじを作って配役を決めてみたもののやはり揉め事が起こってしまう。
「天竺徳兵衛韓噺」で『忍術ゆずり場』のガマ蛙に当てられてしまった伊勢屋の若旦那が、本番当日に仮病を使って休んでしまったのだ。
おかげで芝居が始まらず、頭取(舞台の一切を取り仕切る役)を仰せつかっている番頭さんは大弱り。
あれこれと悩んだ挙句、丁稚の定吉が芝居好きなのを思い出し、『お駄賃』と『特別休暇』をあげる条件でようやく代役を承知させた。
これで一安心…と思いきや、今度は「舞台番」(舞台ソデで客の騒ぎを鎮める役)に当てられた建具屋の半公がいつまで待ってもやって来ない。
仕方なく定吉が迎えに行くと、半次は「この前、だんなに『今度化物芝居の座頭に頼む』と言われた」と怒っていた。
定吉から話を聞いた番頭さんは、『半公が岡惚れしている小間物屋のみい坊が、「役者なんかしないで、舞台番に逃げたところが半さんらしくていい」と言っていたと告げて半次を釣れ』とアドバイス。
罠にかかった半次は、どうせならと、自慢の『緋縮緬の褌』を質屋から急いで請け出し、ついてに銭湯で入念に「男」を磨こうと思いついた。
番台の親父に褌を見せて「いい褌だろ?」
「へぇへぇ、確かにすごい…」
「切れ目の目方がいいんだ。物が良いから丈が長ぇや」
「なるほど」
「咥えてみないか? 引っ張るとチリチリっていい音がする」
「冗談言っちゃいけませんや」
「あ、ところで油紙はねぇかな? 褌を包んで、頭に結わいつけて湯に入るんだ」
「大丈夫ですよ、番台でしっかりと預かっています」
番台が言うんで素直に褌を預け、湯に…入っていると、定吉があわくって駆け込んでくる。
半次がなかなか来ないので、焦った番頭に呼んでくるよう言われたのだ。
定吉は番頭さんに言われたとおり、「早く来ないとみいちゃんが帰っちまう」と半次をせかす。
慌てた半次は湯から飛び出し、体を拭くのももどかしく着物を着て、ハスッカイになってビュー…!!
褌はまだ番台の上。
会場へと向かう途中、出入り先の鳶頭に出会ったんで「いいモノだろ?」
「おぉ、確かにすごい…」
「切れ目の目方がいいんだ。物が良いから丈が長ぇや」
「なるほど。気が小さい奴が見たら目ぇ回すぜ」
「咥えてみないか? 引っ張るとチリチリっていい音がする」
「冗談言うな!!」
鳶頭が何か言うのを制して、半次はお店へと駆け込んだ。
さて、ようやく幕が開いた。
客はもちろん、舞台番何ぞに目もくれない。半公は、みいちゃんが居ないので(当然だが)『褌』の趣向に取り掛かろうと考える。
客が静かに芝居を見ているのに、「騒いじゃいけねえ」と一人で騒ぎ立てて一同がこっちを見たところで威勢よく前をバッ!!
「あれは七宝細工か!?」
「作り物じゃ在りませんよ…」
場内騒然。酔狂な客が「ようよう、半公、日本一! 大道具!」と褒めたので、調子に乗った半次はいっそう派手に尻をまくり、客席の方に乗り出していく…。
この間にも芝居は進んで、いよいよ見せ場の「忍術ゆずり場」。
大盗賊の徳兵衛が、赤松満祐の幽霊から忍術の極意を伝授される名場面だが、ドロンドロンと『大どろ』が鳴っているのにガマの定吉が出てこない。
「おいおい、定吉! 早く出なきゃあだめだよ!!」
「いいえ、ガマ蛙は出られません」
「なんでだ?」
「あすこで、青大将がねらってます」
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
ぶっつけ落ち(互いに相手の言うことを別の意味にとったもの)
【語句豆辞典】
【青大将】日本に居る蛇のうちでは一番大きい種類。男性の象徴。それも巨大なものの隠語。
【この噺を得意とした落語家】
・十代目 桂文治
・三代目 三遊亭金馬
・六代目 三遊亭圓生
・五代目 春風亭柳朝
【落語豆知識】
【つかみこみ】別の噺のくすぐりや山場などを取り入れてつなぎ合わせて演じること。行儀の悪い芸とされた。