日本男道記

ある日本男子の生き様

室津(一)4

2024年10月15日 | 土佐日記


【原文】 
十六日。風波やまねば、なほ同じところに泊まれり。
ただ、海に波なくして、いつしか御崎といふところわたらむ、とのみなむ思ふ。風波、とににやむべくもあらず。ある人の、この波立つを見てよめる歌、
霜だにも置かぬかたぞといふなれど波の中には雪ぞ降りける
さて、船に乗りし日より今日までに、二十日あまり五日になりにけり。

【現代語訳
十六日。風も波も止まないので、やはり、同じところに停泊している。
ただ、海に波がなくなって、いつになったら御崎という所を通り過ぎるのだろうかとばかり思う。だが風も波も急に止む気配が無い。ある人が、この波立つのを見て、歌を詠んだ。
霜だにも…
(霜さえ降りない暖かい地方だというけれど、なんと波の中には雪が降っていることよ)
さて、船に乗り込んだ日から今日まで二十五日が過ぎてしまった。







◆『土佐日記』(とさにっき)は、平安時代に成立した日本最古の日記文学のひとつ。紀貫之が土佐国から京に帰る最中に起きた出来事を諧謔を交えて綴った内容を持つ。成立時期は未詳だが、承平5年(934年)後半といわれる。古くは『土左日記』と表記され、「とさの日記」と読んだ。 

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