2007年01月02日 初売りの日。
天候:曇り、気温:1℃、湿度:74%。
マンションやオフィスビルが林立する札幌の街は、まさにコンクリートの
ジャングルと言ってもいい。
だが、街は新しく年を迎えたにはあまりにも静か過ぎる。
ジャングルの向こうに見える、遠く雪の降り積もった手稲山と灰色にたちこめた
曇り空がつながっているような錯覚さえ覚える。
無線機(携帯電話)を通じたやりとりが隣室から聞こえてきた。
妻は地図(初売り広告)を開き、作戦本部(友人)と連絡をとっていた。
これから奇襲をかけるのである。
小隊ゆえにゲリラ戦に持ちこむ作戦で、装備はいたって軽装にしてある。
「おばさま軍に勝つにはスピードが肝心なの。」妻はそう言い放ち、
自信ありげな笑みを浮かべた。
最初の襲撃は大丸札幌店。交通の要所である札幌駅に隣接するこのデパートは
道内各地からのつわものが集まる手強いエリアである。
作戦本部とは大丸開店前に合流する予定で、出発まではあまり時間が無い。
食パンと野菜ジュースといった簡単な食事を済ませ、装備品を点検し始めた。
接近戦が予想されるため大型の武器(キャスターバッグ)は意味をもたない。
おばさま軍には重戦車(買い物カート)でごり押ししてくる輩もいる。
これには大型の武器では逃げ遅れてしまう危険が伴うのである。
不測の事態が起きた場合、無線機に連絡が入り後方支援を行うことになっている。
私は補給兼輸送隊として待機するように命じられているのである。
妻は、気合を入れるように帽子を目深に被った。
「行ってくるね」と言葉を残して、曇天の凍てついた街へと消えていった。
- - - - - - - - - - -
”you've got mail・・・”受信機のダイオードが赤く点滅を始め、
戦況を知らせる第一報が電信(eメール)で送られてきた。
「 もう疲れてきたよ 」その文面から戦況は思わしくなく苦戦を
強いられているようすが伺える。
妻が基地(自宅)を発ってから3時間半が経過している。
体力的には限界に近づいているようだ。しかし、あと30分持ち堪えてくれればいい。
おばさま軍も食事の時間に入るはずだ。
戦意が下がるこの時間に敵の攻撃が弱まったところで戦地を移動できるからだ。
・ ・ ・ ・ ・
第二報は直接無線からであった。
無線機の向こうから戦場の凄まじい轟音と悲鳴に似た声がしている。
親と逸れた子供の泣き声さえも・・・。
だが次の一声で私の予感は砂城のように崩れていった。
「いっぱい買えたよ。」普段より1オクターブ高い弾んだ声が聞き取れた。
妻達の部隊は、すでに戦地を移動しているとのこと。
現在地は丸井今井デパートで、多くの戦利品(福袋)を獲得したようすに
私もほっと胸を撫で下ろす。
これから小休憩をとって食事をするようだ。
その間に次の作戦を練り上げ再び大丸へ攻撃をかけるのだそうだ。
『初売り作戦』には綿密な計画と機敏な行動が必要不可欠である。
そのため事前の情報収集は怠らない。
数日前に戦地へ赴き、現地住民(店員)から情報を聞き出すこともある。
IT技術が向上した現在、情報端末を駆使し勝利を挙げるおばさま軍の
兵士も出現しているほどだからだ。
勝利の鍵は情報にあると言っても過言ではあるまい。
心配なのは弾薬(現金)の残量である。
先日、本国(会社)より大量の弾薬(ボーナス)が送られてきたばかりだが、
長期戦は念頭に置いてないため弾薬がきれれば即撤退となる。
時間差で効果をあげる弾薬(クレジット)もあるが無限ではない。
無事帰還してくれさえすれば、それでいいのだが・・・。
ちらつき始めた雪を目で追い、重なるように妻の顔を浮かべた。
天候:曇り、気温:1℃、湿度:74%。
マンションやオフィスビルが林立する札幌の街は、まさにコンクリートの
ジャングルと言ってもいい。
だが、街は新しく年を迎えたにはあまりにも静か過ぎる。
ジャングルの向こうに見える、遠く雪の降り積もった手稲山と灰色にたちこめた
曇り空がつながっているような錯覚さえ覚える。
無線機(携帯電話)を通じたやりとりが隣室から聞こえてきた。
妻は地図(初売り広告)を開き、作戦本部(友人)と連絡をとっていた。
これから奇襲をかけるのである。
小隊ゆえにゲリラ戦に持ちこむ作戦で、装備はいたって軽装にしてある。
「おばさま軍に勝つにはスピードが肝心なの。」妻はそう言い放ち、
自信ありげな笑みを浮かべた。
最初の襲撃は大丸札幌店。交通の要所である札幌駅に隣接するこのデパートは
道内各地からのつわものが集まる手強いエリアである。
作戦本部とは大丸開店前に合流する予定で、出発まではあまり時間が無い。
食パンと野菜ジュースといった簡単な食事を済ませ、装備品を点検し始めた。
接近戦が予想されるため大型の武器(キャスターバッグ)は意味をもたない。
おばさま軍には重戦車(買い物カート)でごり押ししてくる輩もいる。
これには大型の武器では逃げ遅れてしまう危険が伴うのである。
不測の事態が起きた場合、無線機に連絡が入り後方支援を行うことになっている。
私は補給兼輸送隊として待機するように命じられているのである。
妻は、気合を入れるように帽子を目深に被った。
「行ってくるね」と言葉を残して、曇天の凍てついた街へと消えていった。
- - - - - - - - - - -
”you've got mail・・・”受信機のダイオードが赤く点滅を始め、
戦況を知らせる第一報が電信(eメール)で送られてきた。
「 もう疲れてきたよ 」その文面から戦況は思わしくなく苦戦を
強いられているようすが伺える。
妻が基地(自宅)を発ってから3時間半が経過している。
体力的には限界に近づいているようだ。しかし、あと30分持ち堪えてくれればいい。
おばさま軍も食事の時間に入るはずだ。
戦意が下がるこの時間に敵の攻撃が弱まったところで戦地を移動できるからだ。
・ ・ ・ ・ ・
第二報は直接無線からであった。
無線機の向こうから戦場の凄まじい轟音と悲鳴に似た声がしている。
親と逸れた子供の泣き声さえも・・・。
だが次の一声で私の予感は砂城のように崩れていった。
「いっぱい買えたよ。」普段より1オクターブ高い弾んだ声が聞き取れた。
妻達の部隊は、すでに戦地を移動しているとのこと。
現在地は丸井今井デパートで、多くの戦利品(福袋)を獲得したようすに
私もほっと胸を撫で下ろす。
これから小休憩をとって食事をするようだ。
その間に次の作戦を練り上げ再び大丸へ攻撃をかけるのだそうだ。
『初売り作戦』には綿密な計画と機敏な行動が必要不可欠である。
そのため事前の情報収集は怠らない。
数日前に戦地へ赴き、現地住民(店員)から情報を聞き出すこともある。
IT技術が向上した現在、情報端末を駆使し勝利を挙げるおばさま軍の
兵士も出現しているほどだからだ。
勝利の鍵は情報にあると言っても過言ではあるまい。
心配なのは弾薬(現金)の残量である。
先日、本国(会社)より大量の弾薬(ボーナス)が送られてきたばかりだが、
長期戦は念頭に置いてないため弾薬がきれれば即撤退となる。
時間差で効果をあげる弾薬(クレジット)もあるが無限ではない。
無事帰還してくれさえすれば、それでいいのだが・・・。
ちらつき始めた雪を目で追い、重なるように妻の顔を浮かべた。