ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)堤 未果岩波書店このアイテムの詳細を見る |
80年代以降、新自由主義の流れが主流になるにつれて、アメリカの公的医療も
徐々に縮小されていった。公的医療が膨らむほど、大企業の負担する保険料が
増えるからだ。そのため、政府は「自己責任」という言葉の下に国民の
自己負担率を拡大させ、「自由診療」という保険外診療を増やしていった。
自己負担が増えて医療費が家計を圧迫し始めると、民間の医療保険に入る
国民が増えていき、保険会社の市場は拡大して利益は上昇していく。
保険外診療範囲が拡大したことで製薬会社や医療機器の会社も儲かり始め、
医療改革は大企業を潤わせ経済を活性化するという政府の目的にそっていた
かのようにみえた。
だが、国民の「いのち」に対しての国の責任範囲を縮小し、「民間」に
運営させることは、取り返しのつかない「医療格差」を生み出していったのだ。
アメリカでは、政府が大企業を擁護する規制緩和および福祉削減政策に切り替え
てから、普通に働く中間層の人々が次々に破産するようになった。
かつて「市場原理」の導入は、バラ色の未来を運んでくるかのように
うたわれた。競争によりサービスの質が上がり、国民の生活が今よりも
もっと便利に豊かにあるというイメージだ。
だが、政府が国際競争力をつけようと規制緩和や法人税の引き下げで大企業を
優遇し、その分社会保障費を削減することによって帳尻を合わせようとした
結果、中間層は消滅し、貧困層は「勝ち組」の利益を拡大するシステムの中に
しっかりと組み込まれてしまった。
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