秘密保護法案を閣議決定 国民の懸念踏まえ審議尽くせ
2013年10月26日(最終更新 2013年10月26日 10時33分)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/48626
国による情報統制が強まり、市民の自由な活動さえ脅かしかねない-。
法曹界や言論界をはじめ多くの国民から懸念や疑問の声が上がる
特定秘密保護法案を、政府はきのう閣議決定し、国会へ提出した。
安倍晋三政権は、外交・安全保障の司令塔となる国家安全保障会議
(日本版NSC)
創設関連法案とセットで、この法案の早期成立を目指している。
時の政府によって秘密指定の範囲が拡大解釈され、情報が意図的に
隠蔽(いんぺい)される恐れがある法案だ。
原案が一部修正されたとはいえ、国民の「知る権利」を侵害する懸念は
拭えない。
報道に携わる記者だけでなく、一般市民まで処罰の対象となる可能性
もある。
私たちは民主主義の根幹を揺るがしかねない法案にはあくまで反対だ。
将来に禍根を残さないためにも、国民の声に耳を傾け、まずは国会で審議
を尽くすことが必要だ。
安倍政権は「自民1強体制」とも呼ばれる巨大与党に支えられているが、
数の力による拙速な審議は避けなければならない。
法制整備の是非を含め、与野党で国民が懸念する問題を一つずつ丁寧に、
そして徹底的に論議してもらいたい。
▼何が秘密かも秘密では
国家機密を漏らした公務員らの罰則強化を盛り込んだ法案では、
特定秘密について、防衛や外交、特定有害活動(スパイ活動)防止、
テロ活動防止の4分野と明記した。
ただ、直接関係のないような行政情報でも、政府が「安全保障の一環」と
位置付ければ、特定秘密に含まれることがあり得る。
最高で懲役10年とした厳罰は、公務員を萎縮させかねない。
公務員が情報公開に慎重になり、国民に必要な情報が伝わらなくなる
可能性がある。指定は、外相や防衛相ら行政機関の長が担う。
拡大解釈に歯止めをかけるため、有識者会議を設置し、指定と解除の
統一基準をつくるものの、個別事案の妥当性をチェックする仕組みはない。
何が秘密かも秘密-。
そうなれば事実上のブラックボックスである。
特定秘密に指定されれば、半永久的に秘密にすることも可能だ。
有効期限は最長5年だが、何度でも更新できる。
30年を超えて延長する場合には内閣の承認を得るとしたが、
長期間秘密にできることには変わりがない。
国民が知りたい情報であっても、政府にとって都合が悪ければ、
意図的に隠すことができる。
このままでは政府による情報統制が進みかねない。
取材について法令違反や著しく不当な方法と認められない限りは
正当な業務として罰しないと規定した。
通常の取材で特定秘密を入手した場合、記者は処罰を受けないようにも
みえるが、「不当」の定義と範囲は不明確で訴追される可能性は残る。
処罰や捜査の対象が報道機関だけでなく、一般市民まで幅広く及ぶことも
大きな問題だ。
法案では、正当な業務に当たるのは「出版または報道の業務に従事する者」
と限定しており、一般市民の取材は処罰の対象となりかねない。
例えば、米軍や自衛隊の基地を監視する市民団体のメンバーや外交問題を
研究する学者が独自に調査し、特定秘密を入手すれば、捜査の対象となり、
処罰される可能性は否定できない。
公務員だけでなく、秘密を知ろうとした一般市民や学者、記者の行動を
大きく規制することにもなる。
法案に知る権利や報道・取材の自由は一応明記されたが、実質的な担保は
ないに等しい-と指摘しておきたい。
▼情報公開こそが前提
法案が成立すれば、国会議員の活動にも影響が出ることは明らかだ。
特定秘密の内容は原則、議員に知らされないものの、衆参両院の委員会
などが国政調査権に基づき秘密の提供を受けることもできる。
ただ、知り得た秘密を漏らせば最高5年の懲役が科せられるため、
同僚議員や政策秘書、識者にも内容を相談すらできなくなる。
このままでは国権の最高機関である国会の議員活動が制限され、
政府を監視する機能が低下しかねない。
国家間には安全保障上の機密情報があることは私たちも理解する。
だからといって秘密保全に関する新たな法制整備が今、早急に必要
なのだろうか。
国家公務員法や自衛隊法などは守秘義務を明記しており、
罰則規定もある。過去15年で国家公務員による主な情報漏えい事案は
5件あるが、実刑判決が下ったのは1件だけだった。
現行法令で適切に情報管理をすれば、米国などとの円滑な情報共有も
可能ではないか。
日本版NSCをつくるから要るのだというが、現状では具体的に
どんな不都合があるのか。
それこそ「秘密」というのでは法案の是非を判断する材料すら国民は
持ち得ない。
公明党は情報公開法と公文書管理法を改正し、国民の知る権利を担保
したい考えだ。
民主党はきのう、情報公開法改正案を衆院に提出した。
情報公開を進めることには賛成だが、まるで「アメとムチ」のように、
秘密保護法案と情報公開の論議がセットで繰り広げられる状況には違和感
を禁じ得ない。
情報公開が前提で例外的に公開できない秘密もある、というのが健全な
民主主義の基本だろう。
秘密保護を優先して、情報公開をいわばその穴埋めに使うようでは
本末転倒ではないか。
=2013/10/26付 西日本新聞朝刊=
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2013年10月26日(最終更新 2013年10月26日 10時33分)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/48626
国による情報統制が強まり、市民の自由な活動さえ脅かしかねない-。
法曹界や言論界をはじめ多くの国民から懸念や疑問の声が上がる
特定秘密保護法案を、政府はきのう閣議決定し、国会へ提出した。
安倍晋三政権は、外交・安全保障の司令塔となる国家安全保障会議
(日本版NSC)
創設関連法案とセットで、この法案の早期成立を目指している。
時の政府によって秘密指定の範囲が拡大解釈され、情報が意図的に
隠蔽(いんぺい)される恐れがある法案だ。
原案が一部修正されたとはいえ、国民の「知る権利」を侵害する懸念は
拭えない。
報道に携わる記者だけでなく、一般市民まで処罰の対象となる可能性
もある。
私たちは民主主義の根幹を揺るがしかねない法案にはあくまで反対だ。
将来に禍根を残さないためにも、国民の声に耳を傾け、まずは国会で審議
を尽くすことが必要だ。
安倍政権は「自民1強体制」とも呼ばれる巨大与党に支えられているが、
数の力による拙速な審議は避けなければならない。
法制整備の是非を含め、与野党で国民が懸念する問題を一つずつ丁寧に、
そして徹底的に論議してもらいたい。
▼何が秘密かも秘密では
国家機密を漏らした公務員らの罰則強化を盛り込んだ法案では、
特定秘密について、防衛や外交、特定有害活動(スパイ活動)防止、
テロ活動防止の4分野と明記した。
ただ、直接関係のないような行政情報でも、政府が「安全保障の一環」と
位置付ければ、特定秘密に含まれることがあり得る。
最高で懲役10年とした厳罰は、公務員を萎縮させかねない。
公務員が情報公開に慎重になり、国民に必要な情報が伝わらなくなる
可能性がある。指定は、外相や防衛相ら行政機関の長が担う。
拡大解釈に歯止めをかけるため、有識者会議を設置し、指定と解除の
統一基準をつくるものの、個別事案の妥当性をチェックする仕組みはない。
何が秘密かも秘密-。
そうなれば事実上のブラックボックスである。
特定秘密に指定されれば、半永久的に秘密にすることも可能だ。
有効期限は最長5年だが、何度でも更新できる。
30年を超えて延長する場合には内閣の承認を得るとしたが、
長期間秘密にできることには変わりがない。
国民が知りたい情報であっても、政府にとって都合が悪ければ、
意図的に隠すことができる。
このままでは政府による情報統制が進みかねない。
取材について法令違反や著しく不当な方法と認められない限りは
正当な業務として罰しないと規定した。
通常の取材で特定秘密を入手した場合、記者は処罰を受けないようにも
みえるが、「不当」の定義と範囲は不明確で訴追される可能性は残る。
処罰や捜査の対象が報道機関だけでなく、一般市民まで幅広く及ぶことも
大きな問題だ。
法案では、正当な業務に当たるのは「出版または報道の業務に従事する者」
と限定しており、一般市民の取材は処罰の対象となりかねない。
例えば、米軍や自衛隊の基地を監視する市民団体のメンバーや外交問題を
研究する学者が独自に調査し、特定秘密を入手すれば、捜査の対象となり、
処罰される可能性は否定できない。
公務員だけでなく、秘密を知ろうとした一般市民や学者、記者の行動を
大きく規制することにもなる。
法案に知る権利や報道・取材の自由は一応明記されたが、実質的な担保は
ないに等しい-と指摘しておきたい。
▼情報公開こそが前提
法案が成立すれば、国会議員の活動にも影響が出ることは明らかだ。
特定秘密の内容は原則、議員に知らされないものの、衆参両院の委員会
などが国政調査権に基づき秘密の提供を受けることもできる。
ただ、知り得た秘密を漏らせば最高5年の懲役が科せられるため、
同僚議員や政策秘書、識者にも内容を相談すらできなくなる。
このままでは国権の最高機関である国会の議員活動が制限され、
政府を監視する機能が低下しかねない。
国家間には安全保障上の機密情報があることは私たちも理解する。
だからといって秘密保全に関する新たな法制整備が今、早急に必要
なのだろうか。
国家公務員法や自衛隊法などは守秘義務を明記しており、
罰則規定もある。過去15年で国家公務員による主な情報漏えい事案は
5件あるが、実刑判決が下ったのは1件だけだった。
現行法令で適切に情報管理をすれば、米国などとの円滑な情報共有も
可能ではないか。
日本版NSCをつくるから要るのだというが、現状では具体的に
どんな不都合があるのか。
それこそ「秘密」というのでは法案の是非を判断する材料すら国民は
持ち得ない。
公明党は情報公開法と公文書管理法を改正し、国民の知る権利を担保
したい考えだ。
民主党はきのう、情報公開法改正案を衆院に提出した。
情報公開を進めることには賛成だが、まるで「アメとムチ」のように、
秘密保護法案と情報公開の論議がセットで繰り広げられる状況には違和感
を禁じ得ない。
情報公開が前提で例外的に公開できない秘密もある、というのが健全な
民主主義の基本だろう。
秘密保護を優先して、情報公開をいわばその穴埋めに使うようでは
本末転倒ではないか。
=2013/10/26付 西日本新聞朝刊=
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