生死の生をほっぽり出して
ねずみが一匹浮彫たいに
往来のまんなかにもりあがっていた
まもなくねずみはひらたくなった
いろんな
車輪が
すべって来ては
あいろんみたいにねずみをのした
ねずみはだんだんひらくたくなった
ひらたくなるにしたがって
ねずみは
ねずみ一匹の
ねずみでもなければ一匹でもなくなって
その死の影すら消え果てた
ある日 往来に出てみると
ひらたい物が一枚
陽にたたかれて反っていた
『ねずみ』 山之口 貘(1903年 - 1963年)
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この詩が発表されたのが1943年。その二年後の1945年、 太平洋戦争における「唯一の本土決戦」とも言われる悲惨な『沖縄戦』を経ての終戦から今年で70年。この徨える現在の豊かさに、貘さんは何を思うだろうか・・・・。
1963.07.19
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