トランプ暗殺未遂事件と絵画「自由の女神」の不思議な一致
一瞬の動きで命拾いした前大統領
山本徳造(本ブログ編集人)
トランプ前大統領の暗殺未遂事件で、ある絵画が注目を浴びています。『民衆を導く自由の女神』が注目を浴びています。19世紀のフランス人画家、ウジェーヌ・ドラクロワが1830年7月27日から29日の3日間にフランスで起きた「7月革命」を描いた『民衆を導く自由の女神』です。
経済的な圧迫や自由がされた民衆は不満を爆発させ、パリ市庁舎やテュイルリー宮殿、ルーブル宮殿などの主要施設を襲撃しました。この7月革命でフランスは立憲君主制に移行します。ドラクロワ自身は革命に参加しなかったものの、強烈な印象を受けたのでしょう、自由の女神が右手で三色旗を掲げ、左手には銃を持って、武装した民衆の先頭に立って鼓舞する絵画を描きました。
当初、この作品は「汚らしい」「女神が美しくない」などと不評を買います。救いの手を差し伸べたのは、革命後に誕生した新政府でした。3000フランで買い上げ、王宮に絵を飾ったのです。
しかし新国王も民衆を弾圧する絵が鬱陶しく思えたのか、宮殿に飾っていた絵を倉庫に放り込みました。やっと倉庫から出されたのは、王政が完全になくなった1874年にのことです。
「民衆を導く自由の女神」は1974年からルーブル美術館に収蔵されていましたが、長年のニスや汚れを取り除くため、修復することに。半年間の修復作業を終えてルーブル美術館で5月2日から一般公開されたばかりでした。
▲自由の女神が群衆を鼓舞して先導する『民衆を導く自由の女神』
トランプ暗殺未遂事件との関係は?
そして7月13日(米東部時間)、再びこの絵が注目されることになります。この日、米ペンシルベニア州バトラーの選挙集会で演説中のトランプ前大統領が狙撃されるという事件が……。
世界に衝撃が走った事件でしたが、幸いにして、トランプ前大統領は右耳を負傷しただけでした。しかし、集会の参加者一人が死亡しています。犯人と思われる20歳のトーマス・マシュー・クルックスは、警備にあたっていたシークレットサービスに撃たれて死亡したので、犯行の動機や背後関係は明らかではありません。
▲屋上に横たわるクルックスの遺体を警備陣が点検(ニューヨーク・ポスト紙が入手)
狙撃された直後のトランプ前大統領の動きは意表を突くものでした。なんと耳から血を流しながらも、体を起こして立ち上がり、聴衆を鼓舞するように右手の拳を突き上げたのです。彼の背後には星条旗が翻っていました。このシーンが瞬く間に世界中に配信されたのは言うまでもありません。
▲拳を振り上げて叫ぶトランプ前大統領
それを見て、「あの絵画」を思い出した人は、少なくなかったようです。ドラクロワが描いた『民衆を導く自由の女神』の構図にあまりにも似ていたからです。自由の女神が右手で三色旗を掲げ、左手には銃を持って、武装した民衆の先頭に立って鼓舞するという構図。またこの場面を逃さずに撮影した写真家も優秀でした。さっそくネットでも、この話題が。
似ているのは、構図だけではありません。それは主役の顔の向きです。
トランプ前大統領は撃たれた悲惨な瞬間を思い出し、自分は「死んだはずだ」とニューヨーク・ポスト紙(7月14日付)に語っています。
「病院の医師は、こんなものは見たことがないと言った。奇跡だと言ったんだ」と、右耳を覆う大きくて緩い白い包帯を巻いていたトランプ前大統領は同紙に語りました。「私はここにいるべきではない、私は死んでいるはずだ。死んだはずなのに……」
なぜ、そう思ったのでしょう。
▲トランプ前大統領が振り向いた直後に右耳に銃弾(ニューヨーク・ポスト紙より)
一瞬の動きで命拾いした前大統領
まさに間一髪でした。銃声が鳴り響くと同時に、トランプ前大統領はわずかに頭を右に回して会場に設置されたジャンボトロンを見ています。その一瞬の動きが彼の命を救ったとイスラエルの特殊作戦のベテラン、アーロン・コーエンがFOXニュースに語っています。
「狙撃手は通常、脳幹の上部にある小脳の大脳皮質を撃つように訓練されています」とコーエンは司会者に説明し、銃撃した地点から目標までの距離が130メートルなら「難しいショットではない」と断言しました。
そして、コーエンはこんな仮定を付け加えています。犯人が発砲したとき、トランプ前大統領の頭が真っ直ぐを見ていたら、「彼の命はなかっただろう。たまたまこっちに向いていたという事実が、彼の命を救ったのです」
実際、銃撃される直前のトランプ前大統領は、一瞬頭を右に曲げています。その理由を「ジャンボトロンを使って、聴衆に説明したかったからだ」とトランプ前大統領の上級顧問、ダン・スカビーノ・ジュニアは14日に語っています。
▲会場に設置されたジャンボトロンを指さすトランプ前大統領
改めてドラクロワの『民衆を導く自由の女神』を見てみると、確かに女神の体は正面を向いています。それなのに、顔だけが横に向いています。ものすごく不自然というわけではありませんが、横を向くなら体も多少は横向きになるのが普通ではないでしょうか。
ドラクロワはこの絵を描く際に、多数のデッサンを描いていました。主役の「自由の女神」もデッサンでは様々な方向を向いていたようです。試行錯誤の結果、ドラクロワが最初に描こうとしたのは、正面を向いた女神でした。
なぜドラクロワは自由の女神の顔を右に向けたのか
では、なぜ心変わりして、横向きの女神を描いたのでしょうか。
当時、ルーヴル美術館に収蔵されていた古代ギリシャのコインに感化されたという説があります。古代のコインを見ると、ギリシャの神々や時の権力者の横顔がレリーフとして刻み込まれているではありませんか。
ドラクロワが影響されたとしても不思議ではないでしょう。いずれにしても、その決断は正しかったようです。女神の顔を左に向けると、その目線が自由を勝ち取ろうとする民衆に向けられ、民衆を鼓舞しているにように見えるではないですか。絵画としては、じつに印象的です。
そして、トランプ前大統領は狙撃される直前に顔を左に向け、難を逃れました。事件翌日のニューヨーク・ポスト紙は、トランプ前大統領がステージに登場する前に星条旗がもつれていたので、「まるで天使のようだ」とし、写真入りで「トランプが神に守られていると確信する」という見出しの記事を載せました。
神に守られていたのかどうかはともかく、トランプ前大統領が強運の持ち主であることだけは確かでしょう。
事件から2日後の7月15日、11月のアメリカ大統領選挙で共和党の全国党大会が開かれ、トランプ前大統領が党の大統領候補に正式に指名されました。また、副大統領候補には39歳のJ・D・バンス上院議員が指名されています。
国土安全保障省のマヨルカス長官は同日、バイデン大統領の命令でシークレット・サービスなどの当局の警備態勢について、近く第三者による独立した調査を始めると発表。
同長官はまた、大統領選挙に無所属での立候補を表明しているロバート・ケネディ・ジュニアと共和党の副大統領候補に指名された上院議員のバンス上院議員が新たにシークレット・サービスの警護の対象となると明らかにしました。