◎「シカタガナイ」は努力で克服できる
カレル・ヴァン・ウォルフレン著『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社、1994)の要所要所を紹介している。本日はその十五回目(最後)。
本日は、第三部「日本はみずからを救えるか?」の第四章「恐怖の報酬」から、その最初のところを紹介してみたい。
「日本は、まだまだ政治的に成熟していない。そこが問題だ」という意見を、日本人著述家やほかの真面目な日本観測者【オブザーバー】から、私は何度も聞いてきた。
この「成熟」という言葉がくせものだ。個人について言う場合、この言葉は人格の統一、すなわち「本人の欲求と知的・道徳的信念が、その行動と自然につり合いがとれている状態」を指す。また成熟という言葉には、「個人と社会的環境とのあいだの望ましいバランス」という意味もある。だから、他人の足もとにひれ伏すような卑屈な態度は、人格の成熟の証拠とはいえない。その逆の、横柄で卑劣、ないし野蛮な行動もまた然りである。
しかし、国をはじめとした共同体にこの「成熟」という概念を当てはめる場合は、個人の場合ほど意味がはっきりしない。国を指して未成熟だと言うためには、その国家的利益の追求の仕方が、他国との関係を一切犠牲にするほど極端で、精神的に孤立してしまうほどのものでなければなるまい。
しかし、一つ、はっきり言えることもある。かりに、ある共同体の成員たちは、互いを恐れず、個人的信念を表明する勇気と、それを行動に一致させる心構えをもっているとする。そして別のある共同体の成員たちは、他人の不興を買わないかと互いの顔面をたえずうかがい、びくびくしているとすれば、前者の共同体は後者より、政治的にたしかに成熟していると言えるのだ。
この本のなかでわれわれは、そのような意味での日本の政治的成熟を妨げている多様な要素を、いろいろな角度から見てきた。その要素の一つ、「シカタガナイ」とつい考えてしまう習慣は、意識して悲観的にならないように努めれば克服できる。また「無知」は、人々が精力的かつ組織的に情報を集める努力をすることで改善される。どちらの努力も、日本の「有害な惰性」をつづけさせている要素の一つ「無関心」を退治してくれるだろう。
結局、最後まで残る最もやっかいな要素は「恐怖心」ということになるかもしれない。これに関しては、われわれは勇気をもって戦う以外にないのだ。そして私は、アメリカの学者ノーマ・フィールズの深遠で感動的な本『天皇の逝く国で』(みすず書房、一九九四)によって、日本人が強い信念をもてばいかに勇敢になれるか、教えられました。〈325~326ページ〉
今回、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏の『人間を幸福にしない日本というシステム』を紹介したが、同氏の著書には、これ以外にも紹介してみたいものがある。しかし、ここで、いったん、話題を変える。
カレル・ヴァン・ウォルフレン著『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社、1994)の要所要所を紹介している。本日はその十五回目(最後)。
本日は、第三部「日本はみずからを救えるか?」の第四章「恐怖の報酬」から、その最初のところを紹介してみたい。
「日本は、まだまだ政治的に成熟していない。そこが問題だ」という意見を、日本人著述家やほかの真面目な日本観測者【オブザーバー】から、私は何度も聞いてきた。
この「成熟」という言葉がくせものだ。個人について言う場合、この言葉は人格の統一、すなわち「本人の欲求と知的・道徳的信念が、その行動と自然につり合いがとれている状態」を指す。また成熟という言葉には、「個人と社会的環境とのあいだの望ましいバランス」という意味もある。だから、他人の足もとにひれ伏すような卑屈な態度は、人格の成熟の証拠とはいえない。その逆の、横柄で卑劣、ないし野蛮な行動もまた然りである。
しかし、国をはじめとした共同体にこの「成熟」という概念を当てはめる場合は、個人の場合ほど意味がはっきりしない。国を指して未成熟だと言うためには、その国家的利益の追求の仕方が、他国との関係を一切犠牲にするほど極端で、精神的に孤立してしまうほどのものでなければなるまい。
しかし、一つ、はっきり言えることもある。かりに、ある共同体の成員たちは、互いを恐れず、個人的信念を表明する勇気と、それを行動に一致させる心構えをもっているとする。そして別のある共同体の成員たちは、他人の不興を買わないかと互いの顔面をたえずうかがい、びくびくしているとすれば、前者の共同体は後者より、政治的にたしかに成熟していると言えるのだ。
この本のなかでわれわれは、そのような意味での日本の政治的成熟を妨げている多様な要素を、いろいろな角度から見てきた。その要素の一つ、「シカタガナイ」とつい考えてしまう習慣は、意識して悲観的にならないように努めれば克服できる。また「無知」は、人々が精力的かつ組織的に情報を集める努力をすることで改善される。どちらの努力も、日本の「有害な惰性」をつづけさせている要素の一つ「無関心」を退治してくれるだろう。
結局、最後まで残る最もやっかいな要素は「恐怖心」ということになるかもしれない。これに関しては、われわれは勇気をもって戦う以外にないのだ。そして私は、アメリカの学者ノーマ・フィールズの深遠で感動的な本『天皇の逝く国で』(みすず書房、一九九四)によって、日本人が強い信念をもてばいかに勇敢になれるか、教えられました。〈325~326ページ〉
今回、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏の『人間を幸福にしない日本というシステム』を紹介したが、同氏の著書には、これ以外にも紹介してみたいものがある。しかし、ここで、いったん、話題を変える。
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