◎ウォルフレン氏の30年前の予言
今月になって、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏の『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社)を読んだ。この本の初版第1刷が刊行されたのは、1994年11月30日である。それから、すでに30年の年月が経とうとしている。
この本は、刊行当時、日本という国に内在する負のシステムを剔出し、注目を浴びた。しかし当時、これが、その後の日本における「失われた30年」を予言した本になるだろうと予想した読者は、皆無に近かったと思う。しかし、事実としては、この本は、まさにそれを予言することになったのである。
ウォルフレン氏は、同書に先だって、『日本/権力構造の謎』上下巻(早川書房、1990)という本を出している。この本も、たいへん評判になった。私は、この本の文庫版上下巻(ハヤカワ文庫、1994)が出たのを機に入手し、一読した。言いにくいことをハッキリと言っている稀有な本だという印象を受けた。
しかし、同じ著者による『人間を幸福にしない日本というシステム』という本は、これまで読んだことがなかった。ごく最近になって読み、刺激を受けた。のみならず、非常に勉強になった。
遅ればせではあるが、当ブログでは、このあと、この本の、要所要所を紹介してゆきたいと思う。ちなみに、いま机上にあるのは、同書の初版第6刷(1995年2月5日)である。
本日は、本文の冒頭部分、すなわち、第一部「よい人生を阻むもの」第一章「偽りのリアリティ」の最初のところを引いてみたい。
「この人生はどこかおかしい」と多くの日本の人が感じている。それはなぜか?
居心地の悪さを感じている人の数は、実際、驚くほど多い。そしてこの不満は、あらゆる世代、ほとんどの階層に広がつている。
その不満の原因は、人間だれしもがしょいこむ個人的問題や家族にまつわる厄介事だけではない。周囲の社会の現実【リアリテイ】も、なにかモヤモヤとした不満の原因になっている。
「マンガ」を見れば現代日本の大衆の意識がよくわかる。そこでは「サラリーマン人生」がとても自嘲的に描かれていて、人々が感じている現実の苦々しさがよく伝わってくる。
なぜ、この国には学校嫌いの子供がこれほど多いのか?
なぜ、この国の大学には、表情が暗く、退屈そうで、なんの理想もないとすら見える学生がこれほど多いのか?
なぜ、この国の女性は世界一晩婚なのか? そして、なぜ結婚しないと決めてしまった女性の数も驚くほど多いのか? また子供を産まないと決めた女性も多い。なぜか?
これらの現象は、世界でも日本にだけひときわ目立つ現象だ。この国の人々の、顔に貼りついたような笑顔や不自然なはしゃぎかたの下に、その素顔を垣間見てしまった外国人には、この国は「うちひしがれた人々の国」だとわかる。
日本の社会はゆがんでいる。死・事故・失恋・貧困といった運命ともいうべき理由ではなく、社会のひどいゆがみのせいで大きな悲劇に見舞われた人の例を、あなたも身近にご存じだと思う。……〈13~14ページ〉
まさに、「いま」の日本について語っているかのごとき文章である。三十年前に、この観察をなしえたがウォルフレン氏の炯眼に驚かざるをえない。一方で、三十年前に観察されたこの情況から、一歩たりとも脱却しえなかった日本という国は、いったい、どういう国なのか。――このことについて、考えこまざるをえなかった。
今月になって、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏の『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社)を読んだ。この本の初版第1刷が刊行されたのは、1994年11月30日である。それから、すでに30年の年月が経とうとしている。
この本は、刊行当時、日本という国に内在する負のシステムを剔出し、注目を浴びた。しかし当時、これが、その後の日本における「失われた30年」を予言した本になるだろうと予想した読者は、皆無に近かったと思う。しかし、事実としては、この本は、まさにそれを予言することになったのである。
ウォルフレン氏は、同書に先だって、『日本/権力構造の謎』上下巻(早川書房、1990)という本を出している。この本も、たいへん評判になった。私は、この本の文庫版上下巻(ハヤカワ文庫、1994)が出たのを機に入手し、一読した。言いにくいことをハッキリと言っている稀有な本だという印象を受けた。
しかし、同じ著者による『人間を幸福にしない日本というシステム』という本は、これまで読んだことがなかった。ごく最近になって読み、刺激を受けた。のみならず、非常に勉強になった。
遅ればせではあるが、当ブログでは、このあと、この本の、要所要所を紹介してゆきたいと思う。ちなみに、いま机上にあるのは、同書の初版第6刷(1995年2月5日)である。
本日は、本文の冒頭部分、すなわち、第一部「よい人生を阻むもの」第一章「偽りのリアリティ」の最初のところを引いてみたい。
「この人生はどこかおかしい」と多くの日本の人が感じている。それはなぜか?
居心地の悪さを感じている人の数は、実際、驚くほど多い。そしてこの不満は、あらゆる世代、ほとんどの階層に広がつている。
その不満の原因は、人間だれしもがしょいこむ個人的問題や家族にまつわる厄介事だけではない。周囲の社会の現実【リアリテイ】も、なにかモヤモヤとした不満の原因になっている。
「マンガ」を見れば現代日本の大衆の意識がよくわかる。そこでは「サラリーマン人生」がとても自嘲的に描かれていて、人々が感じている現実の苦々しさがよく伝わってくる。
なぜ、この国には学校嫌いの子供がこれほど多いのか?
なぜ、この国の大学には、表情が暗く、退屈そうで、なんの理想もないとすら見える学生がこれほど多いのか?
なぜ、この国の女性は世界一晩婚なのか? そして、なぜ結婚しないと決めてしまった女性の数も驚くほど多いのか? また子供を産まないと決めた女性も多い。なぜか?
これらの現象は、世界でも日本にだけひときわ目立つ現象だ。この国の人々の、顔に貼りついたような笑顔や不自然なはしゃぎかたの下に、その素顔を垣間見てしまった外国人には、この国は「うちひしがれた人々の国」だとわかる。
日本の社会はゆがんでいる。死・事故・失恋・貧困といった運命ともいうべき理由ではなく、社会のひどいゆがみのせいで大きな悲劇に見舞われた人の例を、あなたも身近にご存じだと思う。……〈13~14ページ〉
まさに、「いま」の日本について語っているかのごとき文章である。三十年前に、この観察をなしえたがウォルフレン氏の炯眼に驚かざるをえない。一方で、三十年前に観察されたこの情況から、一歩たりとも脱却しえなかった日本という国は、いったい、どういう国なのか。――このことについて、考えこまざるをえなかった。
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