◎筒井清忠氏の新刊『戦前日本のポピュリズム』を読む
筒井清忠氏の新刊『戦前日本のポピュリズム』(中公新書、二〇一八年一月)を読んだ。なかなか面白し、また勉強になった。以前、同じ著者による『昭和期日本の構造』(有斐閣選書R、一九八四)を読んで、大いに啓発されたことがあったが、今回の本も、それに匹敵する力作だと思った。
インターネット情報によれば、筒井清忠氏は、一九八八年に、「昭和期日本の構造」というタイトルの論文を京都大学に提出し、文学博士号を取得したという。同じくインターネット情報によれば、氏は二〇〇三年八月に、何らかの事情で京都大学文学部教授を辞職し、二〇〇四年四月に帝京平成大学情報学部教授となった。二〇〇五年四月に帝京大学文学部日本文化学科教授となり、二〇一五年三月には帝京大学文学部長・大学院文学研究科長となっている。
さて、本書『戦前日本のポピュリズム』の章立てを紹介しよう。第1章「日比谷焼き打ち事件」、第2章「大正期の大衆運動」、第3章「朴烈怪写真事件」、第4章「天皇シンボルとマスメディア」、第5章「統帥権干犯問題と浜口雄幸内閣」、第6章「満洲事変とマスメディアの変貌」、第7章「五・一五事件裁判と社会の分極化」、第8章「国際連盟脱退と世論」、第9章「帝人事件」、第10章「天皇機関説事件」、第11章「日中戦争の開始と展開に見るポピュリズム」、第12章「第二次近衛内閣・新体制・日米戦争」の全十二章である。
これを見てもわかるように、本書は、大正から昭和前期にかけての重大事件の、ほとんどすべてをフォローしている。ということは、本書は、戦前の諸事件の中に「ポピュリズム」を見出そうとした本というよりは、むしろ、「ポピュリズム」という視点から、戦前(大正から昭和前期まで)の歴史を再解釈しようとした本だと言ってよいのである。そして、その大胆な試みを、見事に成功させた本なのである。
本書を読んでいて、最も印象的だったのは、第7章「五・一五事件裁判と社会の分極化」であった。五・一五事件(一九三二年)は、事件そのものの影響よりも、翌年から始まった裁判の影響、あるいはその裁判をめぐる報道の影響が大きかった、という指摘に説得力があった。
五・一五事件では、主謀者である海軍軍人の最高刑が懲役一五年であった。現役の軍人が、一国の首相を謀殺しておいて、懲役一五年というのは、いかにも「軽い」が、これは、国民各層からのも減刑運動が奏功したことを意味する。
ところで、この第7章には、「山田弁護士」(一五八ページ)、「塚崎弁護人」(一六三ページ)、「林弁護人」(一六四ページ)という名前が出てくる。ここは、フルネームの紹介があってしかるべきであった。気になって調べてみたところ、「山田弁護士」というのは、五・一五事件陸軍関係の山田半蔵弁護士のことであり、「塚崎弁護人」というのは、五・一五事件海軍関係の塚崎直義弁護士のことであり、「林弁護人」というのは、血盟団事件、五・一五事件海軍関係、五・一五事件民間関係の林逸郎弁護士のことであった。
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