マネキン小説 もののけマネキン 「妖怪マネキン 妖子」①「妖子のベビー誕生 妖姫」② 働く女性たち 52、53話
マネキン小説…「妖怪マネキン 妖子」①…もののけマネキン 働く女性たち 52話
妖怪の種類の中に「もののけ」という妖怪がいる。このもののけの「物」とは人間以外の物で人間が長年使ってきた生活のための道具など人が直に接して30年以上使われた物になる。これらの古い物は土蔵や納屋に大事に保管されてこそ成仏するが、中には無残にも山や森に打ち捨てられた物が「もののけ」として人間社会に化けて出てくることもある。
これは物ではあるが、長年人間と接してきたために人間の心を宿ることになる。しかし、それは完全なものではなく姿かたちは茶釜でも手と脚があるもの、番傘の1本脚で目がひとつの妖怪が人を驚かせている。
マネキンも人に使われた物ではあるが、元々、姿形が人そのもので人間の心を宿るには3年もかからなかった。そのマネキンを多く使っている大手のスーパーマーケットに派遣された若い女性のマネキン「妖子」は今日も女性の下着売り場でセクシーな下着で笑顔を振りまいていた。
この下着売り場や水着売り場に派遣されるマネキンは若いはもちろん、美形で色白でスタイルは抜群でなければならないのでマネキン業界でもA級の誇りのある仕事になっていた。
妖子はマネキン工場からこのスーパーに引き取られて3年ほど経っていた。マネキンだから歩くことも目を閉じることも出来ないが、スーパーの社員や客などと接しているうちに自然に人の心を宿るようになっていた。
妖子の婦人服売り場の前方には通路を挟んで紳士服売り場があるが、そのメインのマネキンに「拓也」というマネキンがいた。拓也は背が高くてカジュアルものから高級スーツまでよく似合う拓也に恋をしていた。
その拓也との距離は10メーターほどで拓也の表情なども手に取るようにわかっていた。妖子のこの日の仕事は下着のバーゲンセールでこれもメインのマネキンとして明るい照明に照らさてスターの貫禄を見せている。
と、その時、幼稚園児ぐらいの男の子が親の目を盗んでツカツカと妖子に歩みより、セクシーなパンツをスルリと脱がしてしまった。妖子は心の中で、
「おぃおぃ、なにすんねん…恥ずかしいやんか…」
と赤面していたが、それは顔には出せなかった。それを見ていた拓也も目を伏せて見ないようにしたがこれも無理になる。
妖子にすればすぐにでも店員に発見されてパンツを履かせてもらえると信じていたが、妖子の前を通る店員は婦人服売り場の店員ではないので「見て見ない振り」をして通り過ぎていた。下半身スッポンポンのまま約30分ほど経ってようやくパンツを履かしてもらえた。
この婦人服、紳士服大バーゲンは本日が最終日になっている。そしてその夜には倉庫で保管されるが、これは男女別ではなく店員が適当に置いていた。妖子にすればこれが大チャンスで拓也の近くに置いてほしいと願っていたところ、これが偶然にも拓也と真向かいで妖子を抱くようにに置かれてそれは拓也の息が感じるほど近かった。
その暗い倉庫で拓也の方が先に声をかけてくれた。それはもちろん心の中の会話になる。
「今日はお疲れさまでした…」
「はい、拓也さんも…それにしても拓也さんは人気があります」
「いや~そんなことはない、妖子さんの着ていた下着メーカーのフラワーがこのバーゲンの売り上げがトップだったと店員が話しをしていた」
「あの~その~、今日は私の恥ずかし姿をお見せして…スイマセンでした」
「…いや~あれには驚きました。でも、妖子さんの素敵なところを見せていただいて私も胸がドキドキしました」
「そんな~今でも恥ずかしくて赤面しています」
「妖子さんのそんなところが大好きです」
「わ、私も前から拓也さんをお慕いしていました」
こうして二人は抱き合いキスをして目出度く結ばれていたのです。も、もちろん、これはこの二人の心の中のことですが、それから3日3晩二人は倉庫の中で愛を確かめあっていたが、次のセールで拓也は紳士服売り場に、妖子はなぜか婦人服売り場から外されてマタニティー用品売り場で妊婦ドレスを着せられて立っていました。そうです…この妖子さん、人間の心が宿り、人間と同じように「想像妊娠」してお腹が大きくなっていたのです。
………
マネキン小説 「妖子のベビー誕生 妖姫」② もののけマネキン…働く女性たち 53話
イオン稲荷店に派遣されているマネキンの妖子は同じ職場の男性マネキンと恋に落ちて妊娠をしていた。最初は「想像妊娠」だと思われていたが、同じマネキン仲間の祝福と歓声、それに妖怪力で本当の妊娠になっていた。マタニテイー用品売り場で妊婦服を着せられ立っていたこのセールの最終の夜には暗い倉庫でまた保管されていた。そしてその夜に妖子は産気づき丸々と太った元気な女の赤ちゃんを無事に産んでいた。
この女の子の名前は「妖姫」(ヨウヒー)と名付けられてスクスクと育っていた。人間社会では「蛙の子は蛙」というが、マネキン社会では「マネキンの子はマネキン」になる。この妖姫もベビー用品売り場で毎日仕事をしていたが、この妖姫が着ているベビー服や妖姫が座っているベビーバギーが飛ぶように売れてイオンの定員はこの妖姫を「神童マネキン 妖姫様」と呼ぶようになっていた。
この現象はベビー用品の売り場だけではなく、婦人服、紳士服など2階の直営売り場とテナントの専門店まで波及していた。さらに客が多く集まると1階の食料品売り場まで前年同月比10%増しという全国のイオンの中でもダントツのトップとなっていた。この稲荷店の店長は山下純子という50歳の女性になるが、この山下店長はなぜか妖姫が嫌いだった。それはこの稲荷店の副店長をはじめ社員、パートのすべてが、この売り上げ増は妖姫のおかげだと信じて店長の企画や商才など評価しなかったからだ。つまり、女が幹部になって一番嫌われるヒステリーという悪い病気にかかっていたのです。
ある日、山下店長は副店長の吉川一郎に、
「あのベビー用品売り場の妖姫というマネキンを処分してください」
「て、店長…妖姫さまを処分…気は確かですか…店長」
「あのマネキンにはマネキンメーカーの製造番号も派遣元の会社も不明です。つまり、あのマネキンは誰かが勝手に持ち込んだものになります」
「それはそうですが…あのマネキンは稲荷店の売り上げ増しに大いに貢献してくれました」
「もう…副店長までそんなことを信じているのですか!すぐに処分しなさい」
副店長はやむなく店の裏側にある「産業廃棄物」の鉄の箱に妖姫を丁寧に置いてから手を合わせていた。これを知った妖姫の母親の妖子、父親の拓也はもちろん、このイオンのすべてのマネキン仲間も店長の非道に対して涙で抗議したが店長にはそれは届かなかった。
そのころからこの稲荷店では変な噂が流れていた。それは女性客がトイレに入り水を流すとその音が「赤ちゃんの泣き声」に聞こえるというものでした。店内のマネキンの前を通ると誰かがすすり泣いているという噂もあった。2階の売り場には専門店のマネキンも含めると約100体はあるが、どれも笑顔が消えて泣き顔になっていた。これらで稲荷店の客は目に見えるほど激減していた。
そしてこの現象は山下店長がマネキンの妖姫を処分したというのが理由だと誰もが噂するようになっていた。このことはイオン関西本部の本部長の耳に入り、山下店長は大阪の本部に呼び出されていた。本部長は山下女史に、
「先月も先々月も前年同期の売り上げよりも20%も下げているが理由は何か?」
「それはこの連日の猛暑で客足が遠のいたからです、少し涼しくなるとまた盛り返す自信はあります」
と、こんな調子でマネキンの妖姫を処分したことを報告しないために本部長は山下店長を降格したが、なにせこの女はプライドが高くてそのまま退職してしまった。そして稲荷店の店長には副店長の吉川が抜擢されていた。店長になった吉川は早速、産業廃棄物業者に電話をして妖姫のことを話すとその業者は、
「いや~あんまり可愛いマネキンだったので、わが社の応接室に大事に飾ってあります。このお陰かはわからないが、わが社の業績がうなぎ登りにアップして喜んでいます」
吉川は早速新副店長と共に妖姫ちゃんを迎えに行きました。そしてその妖姫ちゃんを母親の妖子さんに抱かせると妖子の目から人間の涙があふれ流れていた。
早速、このことは店内の放送で流されていた、
「只今、ベビー用品売り場のマネキン、妖姫ちゃんが行方不明になっていましたが、妖姫ちゃんが無事に帰ってきました。お客様はじめ、社員、スタッフの皆様には大変ご心配おかけしたことを心からお詫びいたします」
この放送の後には吉川店長が妖姫が稲荷店の所属を示す「イオン稲荷店備品・マネキン 妖姫・第1号」というシールを妖姫の背中に貼っていた。
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