伏見稲荷大社の物語 女裝ギツネゴン 86話 ・LGBT 同性婚 性同一性障害 ジェンダー差別 お笑い歴史小説
都がまだ奈良にあった頃の京都盆地の深草には先住民が祀る藤森神社があるが、この藤森神社の領地の北の端だという目印に伊奈利山の中腹に藤社という小さな祠があった。この伊奈利山は花崗岩で出来ているために雨風で岩が風化して砂山になっていたが、キツネにとってはねぐらの穴が掘りやすく約1000匹のキツネが棲息していた。
711年2月この伊奈利山の藤社周辺に人間が住み始めていた。この人間とは奈良の都を追われた秦伊呂具一族26名で藤森神社宮司のお情けでこの小さな祠でも小さな子供の雨露ぐらいはしのげると伊呂具に無期限無料で貸してくれていた。
大人のねぐらはキツネと同じで山に穴を掘るしかなかったが、これに驚いたのがキツネでこの伊奈利山から人間を追い出そうと夜中にあらゆる化け物に化けて脅かしたが、なにせこの仕業はキツネだと正体がバレているから人間は驚かなかったばかりか、子供たちは喜んで夜遅くまでキツネの化け物が出てくるのを待つようになっていた。この一族の長の秦伊呂具はキツネの親分との共存共栄との話をしたいとキツネに申し込んでいた。
このキツネの親分は白狐の女狐で三代目の白藤で白藤は粋な白地に藤の花柄の着物を着た人間の若くて綺麗な女性に化けて伊呂具と話し合う場を持っていた。
伊呂具は白藤に、
「いずれこの山に伊奈利神社を建立して全国から信者を集めてこのハゲ山の伊奈利山を緑が豊富で小動物が集まる山にしたい。そうなるとキツネの主食でもある野ネズミや小動物が棲息してお互い共存共栄が出来るが、白藤さんはどう思うか?」
「そうですね、このお山には餌がなく山裾の鴨川を超えて湿地帯や沼地まで行かなければなりませんが、この荒れた山に植林をするとなると何年もかかりますが…」
「もちろん何年もかかりますが、私達はそれをしなければなりません。それに後70年~80年もすればこの京都盆地には都が奈良から遷都されると私は予言しています。そうなれば狐や鹿の餌場はすべて人間に占領されてしまいこの山のキツネ達の将来もありません。そのためにはハゲ山の東山三十六峰のすべてに植林をしなければならないが、その植木の苗を全国から集めるには伊奈利神社の信者を増やすことしかないのです。そのためにはまず、この地が必要不可欠になりますが、どうか三代目白藤さんも私に協力してほしい」
「わかりました。私は全国狐連合会の会長もしていますので全国の村々に伊奈利神社の末社の神社が建立されればその村に結集してその村の稲作の天敵でもある野ネズミやモグラにイタチを積極的に捕食しろと命令いたします」
「ほう、それはいい信者獲得のキャッチフレーズになる、伊奈利神社を祀れば野ネズミを退治できるとは農民にとっては一石二鳥でそのお礼には杉や檜の苗木をお供えとしてここに集めればこの中国の枯山水のような東山や伊奈利山を山紫水明の山にできるのも夢ではない」
「しかし、狐は字が読めませんので山の神、海の神、水の神や天神さんとの区別がつきませんが…」
「そか、それなら伊奈利神社の鳥居や祠を赤く塗れば誰でも遠くからでも分かる目印になるが、キツネは色の識別は出来るのか?」
「はい、その赤はなんとなく識別できます」
こうして伊奈利山のキツネは伊奈利神社のお使いとして100年が経過したが、祈祷師伊呂具の予言通りに長岡京から京に遷都されていた。天皇は52代嵯峨天皇に代替わりしたが、伊奈利神社もキツネの大活躍で伊奈利神社の赤い鳥居のある村々では野ネズミが減って「稲成り」から「稲荷神社」に変更されて宮司も三代目の伊蔵(いくら)になっていた。
伊奈利山のキツネも12代目の白狐の白藤に代替わりしていた。その稲荷神社の信者も全国で五千社にも増えて稲荷神社といえはキツネになり、特に稲荷山の訓練されたキツネは全国の村々から派遣要請があり元々1000匹生息していたキツネも約300匹に減少していた。
このキツネの訓練というのは稲荷神社にある神職と巫女を育てる稲荷神官大学があるが、その二部の夜間にキツネの大学があった。この大学には2歳になったキツネが2年間稲荷神社のお使いキツネとしての神学、人間社会の一般教養を学び全国の稲荷神社に派遣される。さらに大学院では人間への化け方が主な勉強になる。このキツネの化け方は狸のような文福茶釜や一本足の一つ目小僧のような「もののけ」ではなく人間に化けることによって京の都の治安を守ることの使命があった。
そもそも稲荷神社の宮司の伊蔵は嵯峨天皇から信頼された国家の祈祷師で国中の正しい情報が必要になるが、この情報をキツネが人間に化けて、また穴を掘って貴族の屋敷の中の情報まで集めることで伊蔵の祈祷は科学的で信頼出来ると他のインチキ祈祷師や占い師とは違うと宮中の官女や侍女からの信頼も厚かった。
キツネの寿命は怪我や病気、それに感染病のジステンバーで3~5年程度だったが、キツネが稲荷神社のお使いになってからは稲荷山が緑豊かな山になったのとキツネの大学に医学部が出来たことで平均寿命は10年以上になっていた。小狐は生後半年ぐらいから人間への化け方を習うが、男の子は父親から男の人間、女の子は母親から女の人間に習う。しかし、生後半年の牡狐のゴン狐は父親を病気で亡くして母子家庭で育ちやむなく母親から化け方を習うが母親は女の人間しか化けられなかった。
ゴン狐には同じ日に生まれた二人の姉がいるが、その姉は女の子に化けるのでゴン狐も女の子しか化けられなかった。やがて2年がたち3匹の姉弟は稲荷大学の夜間部に入学するが学校では人間の姿で授業するのが決まりだった。1年のクラスは30名で男女共学だが、ゴン狐は一番可愛くてすぐに学校中の人気者になっていた。
人間の年齢では15才ぐらいでゴン狐はすぐに1年先輩のアキラ狐に恋をしていた。アキラ狐もゴン狐に一目惚れしていたが、姉二人も母親もゴン狐が男の子だと知っていたので家族会議を開いて母親はゴン狐に、
「たしかに私がゴンの女の子姿があまりに可愛いので女裝に化けることを許してきたが、よりによって男のキツネを好きになれとは教育してはいません」
ゴン狐は、
「私の心は完全に女の子です。大学の医学博士に相談しましたが、私は性同一性障害と診断されました」
母キツネは、
「そうなの?でも、アキラ狐さんはゴンが男の子だと知っているの?」
「はい、それは入学してすぐに匂いで分かったそうです」
「それはそうよね、キツネは人間の1000倍の嗅覚があるから、たとえ女裝していても誰でもわかるよね。ということはアキラ狐は女裝好きのゲイだったの?」
こうして目出度くゴンとアキラは結婚して一つの穴で暮らすことになった。母親のキツネはこのことを稲荷神社宮司の伊蔵に報告をしていた。伊蔵は、
「そうか同性婚か?人間社会ではまだ認められてはいないが、狐社会では差別や偏見はないのか?」
「はい、狐は他の動物と違っていわゆるLGBT、障害者への偏見はなく愛している狐同士で同じ穴で暮らせば仲間からも祝福されます」
「そか、しかし、同性婚なら狐社会の少子化対策はどうする?」
「やはり狐社会でも両親を亡くした孤児がでますが、これは子供が出来ないカップルやゴンのような同性婚の家族と養子縁組をしますので孤独な小狐も障害児もいません」
「そうかそれなら年老いて狩りが出来ない狐の食事はどうする?」
「私達は現在の稲荷山には300匹の狐がいますが、その300匹がたった1%~10%の食事をガマンすれば3匹~30匹の狩りの出来ないお年寄りや障害者の食事になります」
「そか、獲物の配分方法一つで貧困も格差のない素晴らしい狐社会が出来るなら人間社会も見習わなくてはならないが、この件を私は嵯峨天皇に進言するが、まずはご子息のご結婚おめでとう御座います」
(おわり)
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