相続と185条に言う「新たな権原」
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① 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくものであるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。
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② 相続人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有の性質が変更されたものであるから、右変更の事実は取得時効の成立を主張する者において立証を要するものと解すべきであり、また、この場合には、相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因事実によって決することはできないからである。
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最判平成8年11月12日 百選64事件
・取得時効は、「所有の意思」をもってする占有(=自主占有)でなければ成立しない(162条)。そして「所有の意思」は占有を生じさせた原因たる事実の性質により客観的に決まる。そこで、他主占有者が死亡して相続人が占有を続けた場合、相続人は自主占有者足りえないのか。なるとすれば、その要件は何かが問題となる。具体的には、185条と186条1項が問題となる。
・他主占有は、①「所有の意思があることを表示したとき」、②「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める」場合に自主占有に変わる(185条)そこで、他主占有者の相続人が所有の意思をもって占有を始めると、「新たな権原」による自主占有になるのかが問題となる。
・占有を相続により承継したばかりではなく、新たに本件土地建物を事実上支配することによりこれに対する占有を開始した場合において、相続人に所有の意思があると認められる場合には、相続人は被相続人の死亡後、185条にいう「新たな権原により」当該不動産の自主占有をするに至ったものと解しうる、というのが判例である。「相続は新権原にあたる」という単純な話ではないので注意。
→ 相続も権利取得原因の一原因だから占有の性質を変更させる新たな取得原因の一つであり、相続人が所有の意思をもって遺産の占有を始めたときは、固有の自主占有取得し、自己の占有を主張できる(単純肯定説)
→ 相続は新権原ではないが、相続によって客観的権利関係に変更が生じたときは、新権原になると見るべき場合もある(我妻)
→ 相続は新権原ではないが、相続人固有の占有が客観的態様の変更によって185条前段の意思の表示に当たるときはそれによる自主占有への転換が生じる
・本判決は、他主占有者の相続人の占有には、そもそも186条1項の推定は働かないと考え、相続人側でその独自の占有が所有の意思に基づくものと解すべき事情を証明しなければならないとした。相手方は、「他主占有事情」に相当する事実を、積極否認または間接反証として提示することになる。
・本判決は、①相続により承継した占有と②事実的支配による独自の占有とを区別するが、両者の関係はどういうものなのか。②は「相続自体による」というよりは、「相続を契機とする」占有であり、①の影響を受けると同時に、所持の新たな主体の表明を始めとする変化を原所有者側に表示する機能を持つといえよう。