民法判例まとめ29

2016-05-08 18:58:26 | 司法試験関連

210条による通行権と自動車の通行

①  210条通行権は,その性質上,他の土地の所有者に不利益を与えることから,その通行が認められる場所及び方法は,210条通行権者のために必要にして,他の土地のために損害が最も少ないものでなければならない(211条1項)。

②  また、Xらは,徒歩により公道に至ることができることから,本件においては,徒歩による通行を前提とする210条通行権の成否が問題となる余地はなく,本件土地について,自動車の通行を前提とする211条通行権が成立するか否かという点のみが問題となる。

③ 自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。

最判平成18年3月16日 百選70事件

・本件袋地は、一筆の土地の分割により生じたものではないので、「213条通行権」の成否は問題にならない。

・本件では袋地所有者のXらは、徒歩では公道に出られても、自動車では出ることができず、自動車通行の点で袋地と評価されている(相対的袋地)。通行権は、袋地の効用を全うさせるために認められたものなので、既存の通路があっても、当該土地の用途に応じた利用にとって既存道路では不適切な場合には、当該土地は「袋地」であるとして、別の通路の開設や既存道路の拡張が認められるべきなのである。すなわち、袋地かどうかということと通行の方法場所をどうするかが同時に考慮されるのである。

・210条通行権の成否・内容は、211条1項の要請を踏まえ、袋地利用者の通行の必要度囲繞地利用者の被害の程度付近の地理的状況、その他の諸事情を総合考慮して判断される。

  → 一般に、過去に自動車通行の事実がない事案では、自動車通行権は否定されやすい。逆に過去に自動車通行の事実がある事案では、従来通りの自動車通行権が認められることが多い。裁判例は現状維持的な判断になりやすいようである。

・本判例は、一般的基準に加え、本件で考慮すべき事情をもあげている。すなわち、「自動車に通行を認める必要性」判断において、Xらが墓地の経営を予定していること、「周辺土地の状況」として、土地の形状から別の既存道路では軽自動車でも通行が困難であること、以前は、本件道路は自動車通行のために事実上利用されてきた経緯があること(囲繞地所有者Yらが、本件道路を歩行者専用道路に変更し、入口にポールをおいて自動車では通行できないようにした)、「他の土地の所有者が被る不利益」については、本件土地が緑地の北西端に位置するわずか20平方メートル程度でしかないこと、などが考慮されている。

・本件の争いは、実は墓地経営当の許可申請を巡るXYらの争いの蒸し返しである、というのも無視できない事情である(県知事が墓地経営の不許可処分→不許可処分を取り消す判決が出る→許可処分が出る、という経緯を辿っている)。

・差戻審では、近隣道路の渋滞の可能性や交通事故の危険性等、周辺住民の不利益をも考慮しているが、ここでは、袋地・囲繞地の所有者の利益を超えた、公共的な観点も含まれているといえよう。

・公道に2メートル隣接する甲土地の所有者Aが、事業拡張のため既存建物の増築をしようとしたが、建築基準法の関係から道路に3メートル接しない以上建築確認がおりない、といった事案において、隣地所有者のBに対して隣地通行権の確認を求めた事案において、最高裁は甲地は「袋地」ではない、として隣地通行権を認めなかった(最判昭和37年3月15日)最高裁は、Aが通行権を求める根拠は、「土地利用についての往来通行に必要欠くことができないからというのではなく、増築をするために必要というに過ぎないから、隣地通行権の問題ではない」と述べている。

  → 隣地通行権は、通行地所有者の所有権を制限することになるので、隣接する土地の利用に関する個人的便益の調整の必要があるだけで認めるべきものではなく重大な社会的損失を避けるためにこそ認められるものと考えられるからである。

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民法判例まとめ28

2016-05-08 15:57:03 | 司法試験関連

占有の訴えに対する本権に基づく反訴

202条2項は、占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、従って、占有の訴に対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されないけれども、これに対し本権に基づく反訴を提起することは、右法条の禁ずるところではない。

最判昭和40年3月4日 百選68事件

分筆後袋地を売却した場合の公道に至る通行権

共有物の分割又は土地の一部譲渡によって公路に通じない土地(以下「袋地」という。)を生じた場合には、袋地の所有者は、民法二一三条に基づき、これを囲繞する土地のうち、他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人若しくは譲受人の所有地(以下、これらの囲繞地を「残余地」という。)についてのみ通行権を有するが、同条の規定する囲繞地通行権は、残余地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではなく、袋地所有者は、民法二一〇条に基づき残余地以外の囲繞地を通行しうるものではないと解するのが相当である。けだし、民法二〇九条以下の相隣関係に関する規定は、土地の利用の調整を目的とするものであって、対人的な関係を定めたものではなく、同法二一三条の規定する囲繞地通行権も、袋地に付着した物権的権利で、残余地自体に課せられた物権的負担と解すべきものであるからである

最判平成2年11月20日 百選69事件

・袋地の所有者は、「公道に至るための他の土地の通行権」を有する(囲繞地通行権)。この客観的袋地状態に起因する法定通行権は有償である(212条)。これに対して、土地の一部譲渡・共有地の分割(任意行為)により袋地が形成された場合は、囲繞地通行権は残余地にしか認められない(213条1項)。しかも無償である(譲渡行為時に通行権料の問題も処理されていると言えるので)

・袋地の特定承継人が無償通行権を残余地の所有者に主張できるのはもちろんこと、残余地の特定承継人に無償通行権の受忍義務を肯定するのが判例である。これにより

不都合が生じる場合には、無償通行権の主張を権利濫用、信義則等で処理すればよい(従来無償通行の事実がなかった、通行に関する折衝もなかったような事例で突然無償通行権を主張しだすような事例)。

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即時取得

2016-05-08 12:35:13 | 司法試験関連

192条 即時取得

即時取得 → 原始取得 → 負担0の綺麗な権利を取得!?

【例1】

BがAに依頼して,甲動産を修理し,10万円の代金債権を取得。甲の真の所有者はCであるが,AはBが所有者であると信じていた。BがDに甲動産を売却し,その旨をAに通知した。DはBが真の所有者であると無過失で信じていた。その後,Dが甲を即時取得したとしてAに甲の返還を求めた。Aは代金債権の支払を受けていないとして,留置権を行使できるのだろうか。

【例2】

YはZに対する10万円の債権担保として乙動産に質権の設定を受けた。乙の真の所有者はSである。Yは乙の引渡しを受けた当時,Zが所有者であると無過失で信じていた。ZがXに乙を売却し,その旨をYに通知。XはZが乙の所有者であると無過失で信じていた。Xが乙を即時取得したとしてYに乙の返還を求めた。Yは質権の存在を主張できるのだろうか。

 即時取得は原始取得と言うことで・・・。

→ 例1では,Dが即時取得したことにより,Aの甲上の留置権は消滅するのか。

→ 例2では,Xが乙を即時取得したことにより,Yの乙上の質権は消滅するのか。

・例1で,Dは,Bの間接占有を信頼して,取引関係に入ったことになる。この信頼(=Bが所有者であるとの信頼)を保護するのが,即時取得である。では,仮にDが信じたとおりに,Bが真の所有者であったとしたらどうなるか。DはAの留置権の負担付きで甲の所有権を取得することになるはずである。にもかかわらず,留置権の負担の無い所有権を取得できるとすると,Dの信頼した以上の保護を与えることになる。また,Aも甲の直接占有は失っていないので,Aに不利益負担の根拠があるとも言えない。したがって,Dの即時取得により,Cは甲の所有権を失うが,Aは甲に対する留置権は失わないと解すべきであろう(佐久間)。

・例2では,まずYが動産質権を即時取得することの確認を忘れないこと。例2では,Yは動産質権を,Xは動産の所有権をそれぞれ即時取得するのである。例1と同様に,仮にZが真の所有者とした場合でも,Xは動産質権の負担付の所有権を取得するに過ぎない。にもかかわらず,即時取得したことにより,動産質権の負担が取れてしまうとなると,Xの信頼以上に保護することになる。そして,Yは直接占有を失ってはいないので不利益負担の根拠もない。従って,Xの即時取得によりSは乙の所有権を失うが,Yは乙に対する動産質権は失わないと解すべきであろう。

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