210条による通行権と自動車の通行 |
① 210条通行権は,その性質上,他の土地の所有者に不利益を与えることから,その通行が認められる場所及び方法は,210条通行権者のために必要にして,他の土地のために損害が最も少ないものでなければならない(211条1項)。 ↓ ② また、Xらは,徒歩により公道に至ることができることから,本件においては,徒歩による通行を前提とする210条通行権の成否が問題となる余地はなく,本件土地について,自動車の通行を前提とする211条通行権が成立するか否かという点のみが問題となる。 ↓ ③ 自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。 |
最判平成18年3月16日 百選70事件
・本件袋地は、一筆の土地の分割により生じたものではないので、「213条通行権」の成否は問題にならない。
・本件では袋地所有者のXらは、徒歩では公道に出られても、自動車では出ることができず、自動車通行の点で袋地と評価されている(相対的袋地)。通行権は、袋地の効用を全うさせるために認められたものなので、既存の通路があっても、当該土地の用途に応じた利用にとって既存道路では不適切な場合には、当該土地は「袋地」であるとして、別の通路の開設や既存道路の拡張が認められるべきなのである。すなわち、袋地かどうかということと通行の方法場所をどうするかが同時に考慮されるのである。
・210条通行権の成否・内容は、211条1項の要請を踏まえ、袋地利用者の通行の必要度、囲繞地利用者の被害の程度、付近の地理的状況、その他の諸事情を総合考慮して判断される。
→ 一般に、過去に自動車通行の事実がない事案では、自動車通行権は否定されやすい。逆に過去に自動車通行の事実がある事案では、従来通りの自動車通行権が認められることが多い。裁判例は現状維持的な判断になりやすいようである。
・本判例は、一般的基準に加え、本件で考慮すべき事情をもあげている。すなわち、「自動車に通行を認める必要性」判断において、Xらが墓地の経営を予定していること、「周辺土地の状況」として、土地の形状から別の既存道路では軽自動車でも通行が困難であること、以前は、本件道路は自動車通行のために事実上利用されてきた経緯があること(囲繞地所有者Yらが、本件道路を歩行者専用道路に変更し、入口にポールをおいて自動車では通行できないようにした)、「他の土地の所有者が被る不利益」については、本件土地が緑地の北西端に位置するわずか20平方メートル程度でしかないこと、などが考慮されている。
・本件の争いは、実は墓地経営当の許可申請を巡るXYらの争いの蒸し返しである、というのも無視できない事情である(県知事が墓地経営の不許可処分→不許可処分を取り消す判決が出る→許可処分が出る、という経緯を辿っている)。
・差戻審では、近隣道路の渋滞の可能性や交通事故の危険性等、周辺住民の不利益をも考慮しているが、ここでは、袋地・囲繞地の所有者の利益を超えた、公共的な観点も含まれているといえよう。
・公道に2メートル隣接する甲土地の所有者Aが、事業拡張のため既存建物の増築をしようとしたが、建築基準法の関係から道路に3メートル接しない以上建築確認がおりない、といった事案において、隣地所有者のBに対して隣地通行権の確認を求めた事案において、最高裁は甲地は「袋地」ではない、として隣地通行権を認めなかった(最判昭和37年3月15日)最高裁は、Aが通行権を求める根拠は、「土地利用についての往来通行に必要欠くことができないからというのではなく、増築をするために必要というに過ぎないから、隣地通行権の問題ではない」と述べている。
→ 隣地通行権は、通行地所有者の所有権を制限することになるので、隣接する土地の利用に関する個人的便益の調整の必要があるだけで認めるべきものではなく、重大な社会的損失を避けるためにこそ認められるものと考えられるからである。