先日記事にした『葉隠』が書かれたのは、
江戸時代半ば(1716年ころ)であるが、
新渡戸稲造さんによって、
『武士道』が書かれたのは、
明治32年(1899年)である。
日本人が外国に向けて書いた、
初めての日本文化論だと言ってよいそうだ。
(訳者まえがきより)
この本が生れた経緯は、
キリスト教徒である新渡戸さんが、
アメリカにてベルギーの高名な法学者、故ド・ラブレー氏のもてなしを受けた時、
日本の学校では宗教教育がないということですか。
宗教が無い!
道徳教育はどうやって授けられるんですか。
と聞かれたことからだそうである。
そして、
アメリカ人の奥様にも、
なぜ日本人はこれこれの考え方や習慣が一般的なのですか
と聞かれたことも、
この本を書く発端だったようだ。
『BUSHIDO The Soul of Japan 』として出版され、
世界的ベストセラーになり、
現在でも読み継がれているロングセラーとなっているそうだ。
その後、
何度か日本語訳の『武士道』が出版されたが、
私が今回読んだ『現代語訳武士道』は2010年出版の書である。
『武士道』と言っても『葉隠』と大きく違うのは、
新渡戸さんのものは、
ヨーロッパの歴史や文学から類例をひいて比較説明していること。
この著述の全体を通して、
私は自分の話のポイントを、
ヨーロッパの歴史や文学からの類例を引いて説明しようと努めた。
それは、
この問題を外国人読者が理解する一助になるだろうと信じたからである。
バルザック、ニーチェ、モンテスキュー、キリスト、
アダムとイブ、シェイクスピア、
ヘーゲル、ビスマルク、アリストテレスにソクラテス他、
そうそうたるメンバーが登場している。
日本の側も、
江戸城を築いた太田道灌の話が出てくると思えば、
一ノ谷合戦での熊谷直実(くまがいなおざね)が、
幼い平敦盛を討った話まで取り上げてあるし、
武士における風雅の役割にも触れ、
白河藩主松平定信の、
花の香り、遠い寺の鐘の音、霜の夜に鳴く虫の音ー
これらは、
真夜中の静けさの中で、
そなたの寝床の側にこっそりやってきても追い払うな。
という話や、
上杉謙信と武田信玄は戦いはすれど、
終始高貴な模範が示されていたことなどが書かれている。
他にも、
織田信長、羽柴秀吉、徳川家康、光圀、西郷隆盛などがあげられ、
江戸中期の本居宣長の歌もある。
敷島の大和心を人問はば朝日に匂う山桜花
大和心とは何かと人から尋ねられたら、
朝日に映える山桜の花だと答えよう
幕末の吉田松陰の歌は、
かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂
こう行動すれば死ぬ事になることは知ってながら、
私をその行動に駆り立てたのは大和魂である。
そんな武士道が日本にまだ生きているか、
という最終章には、
何世紀もたち、
その習慣が葬られ、
その名さえ忘れ去られても、
その香りは、
「路辺に立ちて眺めれば」
はるか彼方の見えない丘から風に漂ってやってくるだろう―
ご興味のある方は本を読まれてくださいね。
それに、
巻末の訳者解説も良かったのです。
新渡戸は、
日本人の美点を、
全て武士道の道徳によるもので、
民衆の美徳も武士道の感化によるものと見る。
しかし、
彼のあげている美徳は、
必ずしも武士道に発するものだけではない。
と、
江戸時代以前の例を取りながら、
日本人の一般気質にも触れておられるのです。
けれど大変残念なことに、
訳者の東京大学史料編纂所教授の山本博文さんは、
今年3月29日、
腎盂がんのため63歳で亡くなられてしまったそうです。
惜しいことです。