(1989/ゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグ脚本・監督/ジャック・レモン、テッド・ダンソン、オリンピア・デュカキス、キャシー・ベイカー、イーサン・ホーク、ケヴィン・スペイシー/118分)
“秋にお薦め”の一作に入っていたこの作品。数ヶ月前にNHK-BS放送を録画していて、頃良い季節になりましたので鑑賞と相成りました。
年老いた親が遠くにいて、なかなか会いに行けない。そんな中年男性には色々と考えさせられるお話です。我が身に同じことが起こったならば・・とか。勿論、親の立場にある人にも。何故、“中年男性”かというと、お爺ちゃんと中年息子の関係がメインになっているからです。原題は【DAD】。
但し、親子の関係だけでなく、老人となったことで浮かび上がる夫婦間の微妙な溝なども描かれていまして、老いる事や死、病気、家族のあり方、そんな身近な問題を含んだ映画です。しかし、製作総指揮がスティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディというスピルバーグ・ファミリーですから、陰鬱なものではなく、サラリとしてて(要所で)ウルッとさせる語り口となっておりました。
脚本も書いた監督は「理想の恋人.com(2005)」のゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグ。親子愛のヒューマン・ドラマとバツイチ女性のロマンチック・コメディ。テーマは違うようだけど、どちらも大人の映画のようですな。
子供が独立して二人きりになっている70代の老夫婦。定年まで工場勤めをしてきた夫ジェイク(レモン)と、二人の子供を育て上げた妻ベティ(デュカキス)。
気丈な奥さんは老いてなお、夫の着るものから毎回の食事まで甲斐甲斐しく世話をやき、車でのショッピングの運転も彼女がする。子供は二人。長男ジョン(ダンソン)は全米を飛び回るニューヨークの投資会社のビジネスマンでバツイチ。妹(ベイカー)は両親と同じ西海岸で、夫(スペイシー)と共働きの所帯を持っている。
ある日、スーパーでの買い物中にベティが心臓発作を起こし病院に運ばれる。ジョンは休暇をとってやって来るが、家で独りになってしまう父親を心配して、ベティが退院するまで実家で過ごすことにする。
簡単な食事の作り方、食器の片づけ方、洗濯機の使い方など家事全般について教え、更には2年前に失効した運転免許を再度取り直すための受験に立ち会ったりする。お年寄りが沢山集まる遊技場に一緒に出かけたり、キャッチボールも何十年かぶりでする。
ジョンの別れた妻と息子も西海岸で暮らしており、お爺ちゃんを心配してやって来た息子のビリー(ホーク)とジョンは2年ぶりに会う。別れた妻は息子と同じ大学に通っており、息子より優秀な学生のようだった。
2週間でベティは退院し、家族みんなでお祝いをするが、数日後、ジェイクがジョンをトイレに呼ぶ。『ちょっと、変なんだ』
血尿はガンが原因だった。ガンで死亡した友人を知っているジェイクはガンに対して非常に恐怖心を持っており、ジョンは担当医に自分が話すまで父親に告知をしないように頼む。退院したばかりの母親にもただのポリープだと話す。
手術の翌日、ジョンが病院に行くとジェイクは錯乱状態にあった。担当医が“患者の知る権利”を優先させてしまったのだ。家族のことも忘れてしまったかのような状態のジェイクに対し、鎮静剤だけを投与する病院を見るにつけ、ジョンはこの病院は信用できないからと父親を自宅に連れて帰ることにするのだが・・・。
当時のジャック・レモンは64か5。78歳の老人を演じて、ゴールデン・グローブ賞の男優賞にノミネートされたそうです。
ショック状態から奇跡的に回復したジェイクは、人が変わったように明るく元気な老人になっていた。19歳で愛し合った妻と二人の子供を守るために、黙々と仕事をしてきた老人にはある秘密があったが、息子には理解出来ても直に接する妻にはとまどいの方が多かった。もう我慢できない。妹夫婦やビリーもテーブルを囲んだ日本食パーティーで、ついに爆発するベティ。年老いた母親も、身の回りの変化にはすぐには対応できないモノ。ジェイクをなじるベティにジョンもキレル。息子に手を挙げる母。ジェイクは涙ながらに二人の肩を抱く。『家族なんだから・・・』。
多かれ少なかれ、このような葛藤はどんな家族にもあるでしょう。家族といえども、特に夫婦は元々他人なんだから、可能な努力は幾つになっても必要なんだろうと改めて思ったシーンでした。
原作は、アラン・パーカー監督の「バーディ(1984)」も書いたウィリアム・ワートン。
個人の人間心理の深層部分と世間の常識とのギャップから生まれる静かなドラマを描く作家のようです。
ゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグは、甘ったるい情緒的なシーンを排して、スピーディーな展開としています。しかしながら、要所での、例えば手術前のジェイクとジョンの抱擁シーン、再入院で死を覚悟したジェイクに添い寝をするジョンのシーンなど短いながらも印象的な情景を創り出しました。ラストの、息子と孫が二人だけでお爺ちゃんを悼むシーンも原題に相応しいウルウルシーンでした。
西海岸でのジョンの仕事に付き合ったジェイクが、M&Aの会議にも同席し、その後親子だけの昼食中に昔と今の仕事の様変わりについて話し合うシーンも面白かったです。
終盤で、ジェイクがジョンに贈った言葉が印象深い。
『死ぬことは罪ではないが、“生きないこと”は罪だ』
尚、ベティ役のオリンピア・デュカキスは、「ジョンとメリー」では社会奉仕活動に家族をないがしろにするジョンの母親を演じていた女優でした。マイク・ニコルズの「ワーキング・ガール」にも出ていたようです。
“秋にお薦め”の一作に入っていたこの作品。数ヶ月前にNHK-BS放送を録画していて、頃良い季節になりましたので鑑賞と相成りました。
年老いた親が遠くにいて、なかなか会いに行けない。そんな中年男性には色々と考えさせられるお話です。我が身に同じことが起こったならば・・とか。勿論、親の立場にある人にも。何故、“中年男性”かというと、お爺ちゃんと中年息子の関係がメインになっているからです。原題は【DAD】。
但し、親子の関係だけでなく、老人となったことで浮かび上がる夫婦間の微妙な溝なども描かれていまして、老いる事や死、病気、家族のあり方、そんな身近な問題を含んだ映画です。しかし、製作総指揮がスティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディというスピルバーグ・ファミリーですから、陰鬱なものではなく、サラリとしてて(要所で)ウルッとさせる語り口となっておりました。
脚本も書いた監督は「理想の恋人.com(2005)」のゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグ。親子愛のヒューマン・ドラマとバツイチ女性のロマンチック・コメディ。テーマは違うようだけど、どちらも大人の映画のようですな。
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子供が独立して二人きりになっている70代の老夫婦。定年まで工場勤めをしてきた夫ジェイク(レモン)と、二人の子供を育て上げた妻ベティ(デュカキス)。
気丈な奥さんは老いてなお、夫の着るものから毎回の食事まで甲斐甲斐しく世話をやき、車でのショッピングの運転も彼女がする。子供は二人。長男ジョン(ダンソン)は全米を飛び回るニューヨークの投資会社のビジネスマンでバツイチ。妹(ベイカー)は両親と同じ西海岸で、夫(スペイシー)と共働きの所帯を持っている。
ある日、スーパーでの買い物中にベティが心臓発作を起こし病院に運ばれる。ジョンは休暇をとってやって来るが、家で独りになってしまう父親を心配して、ベティが退院するまで実家で過ごすことにする。
簡単な食事の作り方、食器の片づけ方、洗濯機の使い方など家事全般について教え、更には2年前に失効した運転免許を再度取り直すための受験に立ち会ったりする。お年寄りが沢山集まる遊技場に一緒に出かけたり、キャッチボールも何十年かぶりでする。
ジョンの別れた妻と息子も西海岸で暮らしており、お爺ちゃんを心配してやって来た息子のビリー(ホーク)とジョンは2年ぶりに会う。別れた妻は息子と同じ大学に通っており、息子より優秀な学生のようだった。
2週間でベティは退院し、家族みんなでお祝いをするが、数日後、ジェイクがジョンをトイレに呼ぶ。『ちょっと、変なんだ』
血尿はガンが原因だった。ガンで死亡した友人を知っているジェイクはガンに対して非常に恐怖心を持っており、ジョンは担当医に自分が話すまで父親に告知をしないように頼む。退院したばかりの母親にもただのポリープだと話す。
手術の翌日、ジョンが病院に行くとジェイクは錯乱状態にあった。担当医が“患者の知る権利”を優先させてしまったのだ。家族のことも忘れてしまったかのような状態のジェイクに対し、鎮静剤だけを投与する病院を見るにつけ、ジョンはこの病院は信用できないからと父親を自宅に連れて帰ることにするのだが・・・。
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当時のジャック・レモンは64か5。78歳の老人を演じて、ゴールデン・グローブ賞の男優賞にノミネートされたそうです。
ショック状態から奇跡的に回復したジェイクは、人が変わったように明るく元気な老人になっていた。19歳で愛し合った妻と二人の子供を守るために、黙々と仕事をしてきた老人にはある秘密があったが、息子には理解出来ても直に接する妻にはとまどいの方が多かった。もう我慢できない。妹夫婦やビリーもテーブルを囲んだ日本食パーティーで、ついに爆発するベティ。年老いた母親も、身の回りの変化にはすぐには対応できないモノ。ジェイクをなじるベティにジョンもキレル。息子に手を挙げる母。ジェイクは涙ながらに二人の肩を抱く。『家族なんだから・・・』。
多かれ少なかれ、このような葛藤はどんな家族にもあるでしょう。家族といえども、特に夫婦は元々他人なんだから、可能な努力は幾つになっても必要なんだろうと改めて思ったシーンでした。
原作は、アラン・パーカー監督の「バーディ(1984)」も書いたウィリアム・ワートン。
個人の人間心理の深層部分と世間の常識とのギャップから生まれる静かなドラマを描く作家のようです。
ゲイリー・デヴィッド・ゴールドバーグは、甘ったるい情緒的なシーンを排して、スピーディーな展開としています。しかしながら、要所での、例えば手術前のジェイクとジョンの抱擁シーン、再入院で死を覚悟したジェイクに添い寝をするジョンのシーンなど短いながらも印象的な情景を創り出しました。ラストの、息子と孫が二人だけでお爺ちゃんを悼むシーンも原題に相応しいウルウルシーンでした。
西海岸でのジョンの仕事に付き合ったジェイクが、M&Aの会議にも同席し、その後親子だけの昼食中に昔と今の仕事の様変わりについて話し合うシーンも面白かったです。
終盤で、ジェイクがジョンに贈った言葉が印象深い。
『死ぬことは罪ではないが、“生きないこと”は罪だ』
*
尚、ベティ役のオリンピア・デュカキスは、「ジョンとメリー」では社会奉仕活動に家族をないがしろにするジョンの母親を演じていた女優でした。マイク・ニコルズの「ワーキング・ガール」にも出ていたようです。
・お薦め度【★★★=一度は見ましょう】
それと「ようこそ、Yahoo!カテゴリ」へ。私は2005年から登録させて頂いております。目下強敵「テアトル十瑠」に追い上げられているようでコワイです。
今後とも宜しくお願いします。
最前、見に行きましたら、なるほどkoukinobaabaさんを追走する位置におりましたね。^^
私もシャイなので(エッ!?)コメントは滅多に致しませんが、オスカー・ピーターソン、トリュフォーの記事など興味深く読ませていただきました。
コチラこそ、ヨロシクです
スルーされそうな題材ですが^^十瑠さん、エライわァ~!
きちんと丁寧に把握されている優しいレヴュー。
ゆっくり拝読させていただきましたわ。^^
ほんとに
>人間心理の深層部分と世間の常識とのギャップから生まれる静かなドラマ
と、思います。
久しぶりに再見したく思います。
ウチは父親と娘の切磋琢磨、B型及び個性的(笑)。似たもの同士の表裏一体は時に気まずさもあり^^;
ちなみに母親と娘の「母の眠り」という佳作もございましたね。
この映画を人事のようには観れませんね。
viva jijiさんの「秋・・・深し」の記事にも色々と考えさせられました。イエローストーンさんのコメントにもありましたが、あのバスのステップの写真にはしばらく視線が止まりましたね。
父親と娘。次は「黄昏」かな・・。
「母の眠り」は未見です。
コメントありがとうございました。
こちらの記事ではじめて気づきましたが、スピルバーグが関与していたんですね。
親子三世代の父子の絆の回復を描いて見せているのがいいですね。子はかすがいといいますが、この場合、お年寄りがかすがいだったように感じます。
この映画を観てから、親孝行がしたくなりました。
> 『死ぬことは罪ではないが、“生きないこと”は罪だ』
私もその台詞が大好きです。ひじょうに重い言葉ですよね。
日本でこういうテーマでドラマを作ると、仰有るとおり「異常な悲愴感を漂わせて痛々しいことこのうえない」ですよね。
多少きれい事と言われようが、これくらいサラリと描いてもいいのではと思ってしまいます。
一昨日観た「おくりびと」は死が直接のテーマではなかった分“異常な悲愴感”はなかったですが、それでもジワッと涙腺がゆるむイイ映画でした。