(1955/オットー・プレミンジャー監督・製作/フランク・シナトラ、エリノア・パーカー、キム・ノヴァク、ダーレン・マクギャヴィン、ロバート・ストラウス/115分)
前回記事「第十七捕虜収容所」のオットー・プレミンジャー繋がりで今回は彼の監督作品として名高い「黄金の腕」を観た。大分前に買った1コインDVDだ。
1945年にビリー・ワイルダーが作った「失われた週末」はアルコール中毒の怖さを描いたが、10年後のこの作品では薬物中毒の恐怖が描かれる。主演はフランク・シナトラ。ジャズシンガーの大御所というイメージが強いんだが、改めてフィルモグラフィーを見ると結構な出演映画があるんですなぁ。
<1950年に第1回全米図書賞を受賞したネルソン・オルグレンの小説『黄金の腕』>が原作だそうです。【原題:The Man with the Golden Arm】
カード賭博の罪で半年間刑務所暮らしをしていたフランキーが地元に帰って来た。
賭博場を開いていたのはシュワイフカという男だがフランキーは彼の身代わりになったのだ。その世界では“黄金の腕”を持つと言われるカード捌きの名人フランキーは、その界隈では単に『ディーラー』と呼ばれることが多かった。刑務所暮らしと書いたが殆どは薬物中毒の治療の為の病院暮し。半年かかったがなんとか中毒から抜け出してきたのだ。
“ヤク”が切れた今、二度と薬に手を出さない為に『ディーラー』は止める決心をし、裏街道にも足を踏み入れないと覚悟していた。病院の先生の勧めで覚えたドラムで次の人生を歩もうと思っていたのだ。ビッグバンドでドラマーとしてやっていくのが今の夢。既に芸名迄考えているくらい本気だった。
半年ぶりにアパートに帰ると妻のザシュが車椅子で待っていた。3年前、飲酒運転で事故を起こしたフランキーの車にザシュも乗っていて彼女は大怪我をしたのだ。以来車椅子が手放せない生活となった。お金はシュワイフカ経由で送金してきたし、近所には親切にしてくれる女友達もいたのでなんとか生活は出来ていたようだった。
フランキーは今後はドラムで生計をたてる事をザシュに伝えた。病院でお世話になった先生が音楽関係の仕事を紹介してくれる人への手紙を書いてくれていて、数日中に会うつもりだとも話した。しかし、ザシュは上手いドラマーなんて沢山いるし仕事になるかは分からないと否定的な言葉を並べた。今まで通りにカード師として暮らそうと言うのだ。
面会の為のスーツを弟分のスパローが用意してくれたが、それは万引きで手に入れたものだったのでフランキーも警察に連行されることとなった。シュワイフカが(実は万引きをチクったのも彼なのだが)用立てた保釈金の交換条件に一夜限りのディーラーを引き受けるフランキー。賭場には馴染みだった薬の売人ルイもいたが彼の誘いに乗ることはなかった。
ドラムの仕事が思うように進まない事に加えて、ザシュからは練習の音が五月蠅いと言われ、更には訪問治療にやってきた怪しげな医者にザシュは大怪我をした時の新聞のスクラップを見せるのでフランキーはやるせなくなった。彼女には自分が不自由をしている事がフランキーを繋ぎとめる魔法の杖と思われたのだろう。
鬱々たる気分に苛まれたフランキーはアパートを飛び出しバーに逃げ込む。そこにはルイが居た。ルイはフランキーの様子に気付き、さりげなく近づいていくのだった・・・。
薬物中毒の話だからフランキーが再びクスリに手を出すのは予想出来るわけだけど、やはり周囲の人間関係を含めた環境が与える影響が如何に大きいかが分かりますな。
そしてダーレン・マクギャヴィン扮する売人ルイの人たらしぶりが憎い位に巧み。
妻のザシュに扮するのはシナトラと「波も涙も暖かい (1959)」でも共演したエリノア・パーカー。ビックリするくらい美人なのに、ここでは自己中の醜い女を演じています。
映画の序盤で実はザシュの脚が治っていることが分かるので、その事が何時どのように周囲に知れるかというのも興味を引く要素になっています。
キム・ノヴァクは同じアパートに住むバーのホステス、モリー。ザシュより早く巡り逢っていれば良かったと思わせる世話女房タイプのイイ女。ドラムの練習にと部屋は提供してくれるし、終盤で再び薬中になって苦しむフランキーを親身になって介抱してくれる恩人でもあります。
「第十七捕虜収容所」でコミカルな役どころだったロバート・ストラウスが今作では悪役のシュワイフカでした。
1955年のアカデミー賞で、主演男優賞、劇・喜劇映画音楽賞(エルマー・バーンスタイン)、美術監督・装置賞(白黒)(Joseph C.Wright、Darrell Silvera)にノミネートされたそうです。
お薦め度は★四つ半。
当時としても衝撃的だったろうシナトラの禁断症状に苦しむ演技が今でも恐怖を感じるくらい真に迫っています。
知らない内に聴き覚えていたジャズのテーマ曲。クールなソウル・バスのクレジットデザイン。
観ながらポール・ニューマン主演の「ハスラー (1961)」を思い出しました。
前回記事「第十七捕虜収容所」のオットー・プレミンジャー繋がりで今回は彼の監督作品として名高い「黄金の腕」を観た。大分前に買った1コインDVDだ。
1945年にビリー・ワイルダーが作った「失われた週末」はアルコール中毒の怖さを描いたが、10年後のこの作品では薬物中毒の恐怖が描かれる。主演はフランク・シナトラ。ジャズシンガーの大御所というイメージが強いんだが、改めてフィルモグラフィーを見ると結構な出演映画があるんですなぁ。
<1950年に第1回全米図書賞を受賞したネルソン・オルグレンの小説『黄金の腕』>が原作だそうです。【原題:The Man with the Golden Arm】
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カード賭博の罪で半年間刑務所暮らしをしていたフランキーが地元に帰って来た。
賭博場を開いていたのはシュワイフカという男だがフランキーは彼の身代わりになったのだ。その世界では“黄金の腕”を持つと言われるカード捌きの名人フランキーは、その界隈では単に『ディーラー』と呼ばれることが多かった。刑務所暮らしと書いたが殆どは薬物中毒の治療の為の病院暮し。半年かかったがなんとか中毒から抜け出してきたのだ。
“ヤク”が切れた今、二度と薬に手を出さない為に『ディーラー』は止める決心をし、裏街道にも足を踏み入れないと覚悟していた。病院の先生の勧めで覚えたドラムで次の人生を歩もうと思っていたのだ。ビッグバンドでドラマーとしてやっていくのが今の夢。既に芸名迄考えているくらい本気だった。
半年ぶりにアパートに帰ると妻のザシュが車椅子で待っていた。3年前、飲酒運転で事故を起こしたフランキーの車にザシュも乗っていて彼女は大怪我をしたのだ。以来車椅子が手放せない生活となった。お金はシュワイフカ経由で送金してきたし、近所には親切にしてくれる女友達もいたのでなんとか生活は出来ていたようだった。
フランキーは今後はドラムで生計をたてる事をザシュに伝えた。病院でお世話になった先生が音楽関係の仕事を紹介してくれる人への手紙を書いてくれていて、数日中に会うつもりだとも話した。しかし、ザシュは上手いドラマーなんて沢山いるし仕事になるかは分からないと否定的な言葉を並べた。今まで通りにカード師として暮らそうと言うのだ。
面会の為のスーツを弟分のスパローが用意してくれたが、それは万引きで手に入れたものだったのでフランキーも警察に連行されることとなった。シュワイフカが(実は万引きをチクったのも彼なのだが)用立てた保釈金の交換条件に一夜限りのディーラーを引き受けるフランキー。賭場には馴染みだった薬の売人ルイもいたが彼の誘いに乗ることはなかった。
ドラムの仕事が思うように進まない事に加えて、ザシュからは練習の音が五月蠅いと言われ、更には訪問治療にやってきた怪しげな医者にザシュは大怪我をした時の新聞のスクラップを見せるのでフランキーはやるせなくなった。彼女には自分が不自由をしている事がフランキーを繋ぎとめる魔法の杖と思われたのだろう。
鬱々たる気分に苛まれたフランキーはアパートを飛び出しバーに逃げ込む。そこにはルイが居た。ルイはフランキーの様子に気付き、さりげなく近づいていくのだった・・・。
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薬物中毒の話だからフランキーが再びクスリに手を出すのは予想出来るわけだけど、やはり周囲の人間関係を含めた環境が与える影響が如何に大きいかが分かりますな。
そしてダーレン・マクギャヴィン扮する売人ルイの人たらしぶりが憎い位に巧み。
妻のザシュに扮するのはシナトラと「波も涙も暖かい (1959)」でも共演したエリノア・パーカー。ビックリするくらい美人なのに、ここでは自己中の醜い女を演じています。
映画の序盤で実はザシュの脚が治っていることが分かるので、その事が何時どのように周囲に知れるかというのも興味を引く要素になっています。
キム・ノヴァクは同じアパートに住むバーのホステス、モリー。ザシュより早く巡り逢っていれば良かったと思わせる世話女房タイプのイイ女。ドラムの練習にと部屋は提供してくれるし、終盤で再び薬中になって苦しむフランキーを親身になって介抱してくれる恩人でもあります。
「第十七捕虜収容所」でコミカルな役どころだったロバート・ストラウスが今作では悪役のシュワイフカでした。
1955年のアカデミー賞で、主演男優賞、劇・喜劇映画音楽賞(エルマー・バーンスタイン)、美術監督・装置賞(白黒)(Joseph C.Wright、Darrell Silvera)にノミネートされたそうです。
お薦め度は★四つ半。
当時としても衝撃的だったろうシナトラの禁断症状に苦しむ演技が今でも恐怖を感じるくらい真に迫っています。
知らない内に聴き覚えていたジャズのテーマ曲。クールなソウル・バスのクレジットデザイン。
観ながらポール・ニューマン主演の「ハスラー (1961)」を思い出しました。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし】
>シナトラの禁断症状に苦しむ演技が今でも恐怖を感じるくらい真に迫っています。
この二つは何となく覚えています。やはり映画は画と脚本と演技が肝心ですよね。
あと、私も「失われた週末」と近い時期に見たので、周囲の人間の差が与える影響について考えさせられました。
まあ、奥さんのことは主人公の自業自得な点もあると思うんですけどね~。
「失われた週末」は最初から本人は治す気がない様な感じだったと記憶してますので、こっちの薬物依存症のほうが切実というか、息苦しさみたいなもんが伝わってきたような気がします。
>刑務所暮らしと書いたが殆どは薬物中毒の治療の為の病院暮し。
僕は更生施設と書きましたが、病院。
麻薬吸引は、犯罪ではなく、病気として扱う方が撲滅には効果的という気がしています。
病気であれば、芸能人が吸引したという理由で、映画上映ができなくなったり、CDが販売停止なんてこともなくなりますしね。
>薬の売人
彼と胴元が、彼の悪妻を巻き込んで、彼の更生を邪魔していました。
こういう奴らには本当に腹が立ちますね。
>知らない内に聴き覚えていたジャズのテーマ曲。
これ、格好良いですね。
僕もカセットテープで聴くなどしていつの間にか憶えていました。
>ポール・ニューマン主演の「ハスラー (1961)」を思い出しました。
僕は「シンシナティ・キッド」を思い出しました。幕切れのあの感じ。レイ・チャールズの主題歌も格好良かったし。
ノーマン・ジュイソンでしたよね。
実は未見なんですよ。
だからモノクロ賭け事作品繋がりで、「ハスラー」思い出しました。
>犯罪ではなく、病気として扱う方が撲滅には効果的
>映画上映ができなくなったり、CDが販売停止
御意。
臭いものには蓋的な対応にニュースの度にあきれてしまいます。