(1973/フランソワ・トリュフォー製作・監督・共同脚本/ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエール・レオ、ジャン=ピエール・オーモン、フランソワ・トリュフォー、ナタリー・バイ、ヴァレンティナ・コルテーゼ、アレクサンドラ・スチュワルト/117分)
トリュフォーの「私のように美しい娘」の後の作品で、類い希なる才能の高さを見せつけた名作。アカデミー賞外国語映画賞他、欧米で沢山の賞を受け、興行的にも各国で成功したらしい。
“類い希なる才能”というのは、特殊な題材においても高水準の映画を生み出す所で、例えば「野性の少年」では動物に育てられたという少年を扱い、半ドキュメンタリー的な視線ながら、音楽やショットの工夫で詩情豊かな作品とした。
「アメリカの夜」は副題として<映画に愛をこめて>とあるように、まさしく映画の製作を題材にした映画で、一本の映画がクランク・インして、色々なトラブルが発生しながらも、どうにか予定の期日にアップするまでが描かれている。俳優や裏方の様々な人生模様のスケッチは、時にサスペンスフル、時にコミカルである。予備知識無く見始めた人の中には、途中で、この映画は何処に行くんだろうと思う人もいるかも知れません。最終的には“映画制作”そのものがテーマであることが分かるでしょうが。
英語原題は【DAY FOR NIGHT】。
アメリカ、ハリウッドでは夜のシーンを撮るのに、カメラに特殊なフィルターを付けて昼間に撮影するが、その技法を“DAY FOR NIGHT”と言い、「アメリカの夜」の劇中劇ならぬ、映画中映画の『パメラを紹介します』でもその技法を使うことから、そういうタイトルになっている。
『パメラを紹介します』は、息子のお嫁さんが義理の父親、つまり旦那の父親に恋をする話で、父親の方も嫁に惚れ、二人は駆け落ちをするという悲劇的な映画。で、そのお嫁さんになるのが、ジャクリーン・ビセット扮する英国女優ジュリーで、このジュリーが精神的な病から復帰したばかりという設定。主演女優が途中でリタイアすると、映画会社としては大損だが、その為の保険があるらしい。フランスの保険会社は契約を渋ったが、英国の保険会社が承けたとのことだった。
父親に新妻を取られる夫役が、ジャン=ピエール・レオ扮するアルフォンスというフランスの俳優。恋人をスクリプト・ガールに雇ってもらっているが、非常に嫉妬深い男で、撮影中に恋人が他のスタッフと仲良くするのも気に入らず、痴話喧嘩が絶えない。
父親役のアレキサンドル(オーモン)と母親役のセブリーヌ(コルテーゼ)は、かつて恋人同士だったという噂で、20年ぶりの共演。最近4年間は、どのプロデューサーがくどいても共演しなかった二人で、おまけにセブリーヌには白血病で余命幾ばくもない息子が病床におり、台詞覚えにも支障を来している。
その他、父親の秘書役の女優ステイシー(スチュワルト)は、現場でシナリオにない水着姿になることを嫌がるし、製作副主任の奥さんは旦那の浮気が心配で、毎日撮影所に編み物道具持参で見学に来ている。
そんなこんなの心配事にプラスして、小道具係からの細かな相談や、製作者からのスケジュール調整の要請もあり、監督のフェラン(トリュフォー自身)は『監督の一番の仕事は、他人の話を聞くことだ。』などと言っている。映画の途中には、就寝中のフェランが見ている夢が所々挿入される。小さな子供が、夜の街のとあるフェンス越しにパネルに飾られている写真を取ろうとするシーンで、写真とはオーソン・ウェルズの「市民ケーン」のスチール写真でした。
さてさて、これ以上は“ネタバレ注意”にしなければいけませんので、止めておきましょう。この後も、先に紹介した人々が、更に複雑に絡み合いながら映画を作り続けていきますが、人間模様の描き分けが、そのスケッチ風なタッチもあって実にスムース。編集の力も大きいでしょうし、個々のシーンのカメラワークを見ると、補助スタッフを含めてカメラ班がとても充実していたのだろうと想像してしまいます。
ベルイマンはトリュフォーが大好きだそうで、曰く、<彼が観客に訴えるやり方と語り口には賞讃を惜しまない。『アメリカの夜』は崇拝に値する。>
但し、個人的には1点だけ気に入らない所があります。
複雑なシークエンスの合間に、“映画万歳!”とでも主張しているようなブラスの音をフィーチャーしたBGMで、撮影風景をドキュメント風に繋いだシーンが入るのですが、このシーンのおかげで、個々の人間ドラマへ高めていた関心が一度引き戻されるような気分になりました。静かなBGMでのインターバルの方が良かったのでは、と思うのですが・・・。
しかしなぁ。テーマが映画製作だし、ドラマ的な結末ではないのでアレしか無かったのかも。
お薦め度は、テーマの特殊性で★一つマイナスしました。映画作りに関心ある人は“大いに見るべし!”です。
監督の補助をしている有能な女性ジョエル(バイ)は、この映画の脚本も書いているシュザンヌ・シフマンがモデルだそうで、確かに映画の中でも『パメラ・・・』の脚本作りに協力していました。
『パメラ』の撮影はニースで行われているけど、俳優の都合によりラストシーンは降雪後の街の中となる。疑似雪に使われていたのは、泡の洗剤でした。
特典映像の監督インタビューでは、メイク担当と役者が絡む挿話を入れるべきだったと語っている。映画製作にメイク担当の存在は大きいからだ、と言うのが理由でした。
トリュフォーの「私のように美しい娘」の後の作品で、類い希なる才能の高さを見せつけた名作。アカデミー賞外国語映画賞他、欧米で沢山の賞を受け、興行的にも各国で成功したらしい。
“類い希なる才能”というのは、特殊な題材においても高水準の映画を生み出す所で、例えば「野性の少年」では動物に育てられたという少年を扱い、半ドキュメンタリー的な視線ながら、音楽やショットの工夫で詩情豊かな作品とした。
「アメリカの夜」は副題として<映画に愛をこめて>とあるように、まさしく映画の製作を題材にした映画で、一本の映画がクランク・インして、色々なトラブルが発生しながらも、どうにか予定の期日にアップするまでが描かれている。俳優や裏方の様々な人生模様のスケッチは、時にサスペンスフル、時にコミカルである。予備知識無く見始めた人の中には、途中で、この映画は何処に行くんだろうと思う人もいるかも知れません。最終的には“映画制作”そのものがテーマであることが分かるでしょうが。
英語原題は【DAY FOR NIGHT】。
アメリカ、ハリウッドでは夜のシーンを撮るのに、カメラに特殊なフィルターを付けて昼間に撮影するが、その技法を“DAY FOR NIGHT”と言い、「アメリカの夜」の劇中劇ならぬ、映画中映画の『パメラを紹介します』でもその技法を使うことから、そういうタイトルになっている。
『パメラを紹介します』は、息子のお嫁さんが義理の父親、つまり旦那の父親に恋をする話で、父親の方も嫁に惚れ、二人は駆け落ちをするという悲劇的な映画。で、そのお嫁さんになるのが、ジャクリーン・ビセット扮する英国女優ジュリーで、このジュリーが精神的な病から復帰したばかりという設定。主演女優が途中でリタイアすると、映画会社としては大損だが、その為の保険があるらしい。フランスの保険会社は契約を渋ったが、英国の保険会社が承けたとのことだった。
父親に新妻を取られる夫役が、ジャン=ピエール・レオ扮するアルフォンスというフランスの俳優。恋人をスクリプト・ガールに雇ってもらっているが、非常に嫉妬深い男で、撮影中に恋人が他のスタッフと仲良くするのも気に入らず、痴話喧嘩が絶えない。
父親役のアレキサンドル(オーモン)と母親役のセブリーヌ(コルテーゼ)は、かつて恋人同士だったという噂で、20年ぶりの共演。最近4年間は、どのプロデューサーがくどいても共演しなかった二人で、おまけにセブリーヌには白血病で余命幾ばくもない息子が病床におり、台詞覚えにも支障を来している。
その他、父親の秘書役の女優ステイシー(スチュワルト)は、現場でシナリオにない水着姿になることを嫌がるし、製作副主任の奥さんは旦那の浮気が心配で、毎日撮影所に編み物道具持参で見学に来ている。
そんなこんなの心配事にプラスして、小道具係からの細かな相談や、製作者からのスケジュール調整の要請もあり、監督のフェラン(トリュフォー自身)は『監督の一番の仕事は、他人の話を聞くことだ。』などと言っている。映画の途中には、就寝中のフェランが見ている夢が所々挿入される。小さな子供が、夜の街のとあるフェンス越しにパネルに飾られている写真を取ろうとするシーンで、写真とはオーソン・ウェルズの「市民ケーン」のスチール写真でした。
さてさて、これ以上は“ネタバレ注意”にしなければいけませんので、止めておきましょう。この後も、先に紹介した人々が、更に複雑に絡み合いながら映画を作り続けていきますが、人間模様の描き分けが、そのスケッチ風なタッチもあって実にスムース。編集の力も大きいでしょうし、個々のシーンのカメラワークを見ると、補助スタッフを含めてカメラ班がとても充実していたのだろうと想像してしまいます。
ベルイマンはトリュフォーが大好きだそうで、曰く、<彼が観客に訴えるやり方と語り口には賞讃を惜しまない。『アメリカの夜』は崇拝に値する。>
但し、個人的には1点だけ気に入らない所があります。
複雑なシークエンスの合間に、“映画万歳!”とでも主張しているようなブラスの音をフィーチャーしたBGMで、撮影風景をドキュメント風に繋いだシーンが入るのですが、このシーンのおかげで、個々の人間ドラマへ高めていた関心が一度引き戻されるような気分になりました。静かなBGMでのインターバルの方が良かったのでは、と思うのですが・・・。
しかしなぁ。テーマが映画製作だし、ドラマ的な結末ではないのでアレしか無かったのかも。
お薦め度は、テーマの特殊性で★一つマイナスしました。映画作りに関心ある人は“大いに見るべし!”です。
監督の補助をしている有能な女性ジョエル(バイ)は、この映画の脚本も書いているシュザンヌ・シフマンがモデルだそうで、確かに映画の中でも『パメラ・・・』の脚本作りに協力していました。
『パメラ』の撮影はニースで行われているけど、俳優の都合によりラストシーンは降雪後の街の中となる。疑似雪に使われていたのは、泡の洗剤でした。
特典映像の監督インタビューでは、メイク担当と役者が絡む挿話を入れるべきだったと語っている。映画製作にメイク担当の存在は大きいからだ、と言うのが理由でした。
・お薦め度【★★★★=映画製作に興味のない友達にも薦めて】
私の記事は本来ブログ用に書いていないので手抜きだったわけですが、言いたいことはあれで十分です。
^^
ジャクリーン・ビセットの英国女優は、英国で撮った「華氏451」か「恋のエチュード」の誰かさんがモデル? そんな話は全く聞いたことがありませんがね。
「市民ケーン」の場面は彼の少年時代の実体験でしょう。「大人は判ってくれない」でも似たような場面がありましたよね。
そうか、ベルイマンもトリュフォーを評価していましたか。それは私としては誠にめでたいことです(笑)。
製作年が近いということで、「恋のエチュード」あたりに元ネタがあるかも知れませんね。
ベルイマンの話はこのサイト(↓)で読みました。
<http://members.aol.com/Satokimit/bergmanspeak.html>
実は、ベルイマンは「市民ケーン」については、全く認めてないんですよね。作家の批評というのも色々あって面白いモンダス。(笑)
この映画、明日というか十瑠さんがこれ読まれるのはきっと19日でしょう。NHK・BSで放映されます。偶然。私の記事も19日付けなのですが、少し風邪気味なので日付変更線変わる前ですが記事UPしました。拙記事TBさせていただきますね。
再鑑賞して、やっぱり映画っていいなぁってつくづく思いました。
冒頭でギッシュ姉妹に対する献辞…ここからもうワッ!なってしまいます。
この記事を書いたときはDVDのレンタルだったので、今夜は録画しようと思います。
我が家は私を除いて、妻子3人が風邪引きさんです。オヤジ一人踏ん張ってます