執達吏の末裔の家族を知っている。執達吏とは聞き慣れない言葉だ。加えて発音しづらい。そのため、執達吏の名は、「しったちり」という発音で、その家族に伝承されてきた。
執達吏とは、明治憲法のもと、司法に従事した官職名。その官職に就いた者は、債権者からの訴えがあれば、手数料を取って強制執行する役割を担い、戦後は裁判所内に属する執行官に引き継がれた。彼の執行権の根拠は、裁判所の判断に基づくものなのだが、裁判所とは別の役場を持ち、一種の独立機関の体をなしていた。取り立てが上手な執達吏には仕事が集まったというから、大金持ちになった者がいたのもうなずける。北海道では支庁長の名は民選知事が生まれた後も存続したのに、執達吏は終戦で潰えた。執達吏の職権に問題があったためなのか。
知り合いの家族の先祖が執達吏をしていた町は、地勢的に北方地域との交流窓口になっていた。又聞きでは、彼は、その町の大半を支配(?)していたという。支配というのは大げさで、町で起きた債権取り立ての大方を請け負っていたというのかもしれない。とにかく羽振りが良かったようだ。彼の子孫の中には、政治家や教育者、それに戦後の執行官になった者が幾人もいる。その分、功も罪もたくさん引き起こし、それらは後々まで語り継がれた。(2013.6)